終章「その先へ」 (終)
初めはただひたすらに、自らの内なる叫びに従って――、少女は意思を貫く為に当てもなく王都を飛び出し、少年は憧れだけを何もない手に掴んで、雪深い北の辺境を旅立った。
通常なら重なり合う事など無かった二つの道は、幾つもの偶然を重ね、交差した。
ただ、出逢いとは、思い返せばいつも、そんな奇跡のような偶然でできている。
いつも、いつも。
どこかで一つ選択を違えれば、おそらく現在が大きく変わっていただろう、ささいな偶然だ。
それは運命と呼ぶほど、簡単なものではない。それは彼等が、自らの意思で選び取ってきたものだからだ。
竜の息から零れる宝玉のように、手に入れ難く、失われやすいもの。
自分から手を伸ばして初めて、形作られるもの。
これからアナスタシアは公爵家を継ぎ、レオアリスは剣士として、互いの道を進む事になる。
それは全く新たな道であり、あの深い西の森から、くっきりと続いている道でもある。
新たな道が全て、踏み出す一歩から始まるように。
彼等の前に、その先へ、物語は刻まれていく。
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