小野武雄・著  総論
工学士駒杵勤治 閲



 はじめに、洋風折衷・建築設計図集 附解説 は発行所東京 博文舘に於いて明治44年6月
10日に発行されたものです。明治43年11月(Tokyo,Japan,Nov,1910)にはアメリカ人、工学士
ガーデナー(J.McD.Gardiner, Architect.)が序文を書き明治43年9月には工学士、駒杵勤治が
閲覧しています。小野武雄の原稿は明治43年の春には書き上がっていました。

 建築家小野武雄氏の論文に述べていることは、今の建築設計の教科書であり又基本である
ことは言うまでもなく、現在忘れられている、或いは施工されていない工事方法等を詳しく解説
されています。 
 其の中で、一般の人が家を建てる時は、従来の大工さんに依頼するのも一つの方法ですが、
少し高くつくかも知れませんが、建築家に設計を依頼し家を造れば、夏は涼しく、冬は暖かい
耐久性に富み施主の健康に配慮した家ができる。 と述べられています。
 その内容は、総論 に詳しく書かれています。是非終わり迄目を通してください。

 総論 の内容は出来うる限り本書に忠実に又正確に描いて行きたいと思います。

明治の建築家ののこしたもの   管理人

総 論

 今や我が国の建築界は混沌たる暗黒時代を呈し、所謂新日本式を完成するには、果たして何時の日
か想像し能はざる程の状態でありますが、この問題は漸を追って進化すべき者であって、到底一朝一
夕で解決し得るべき事柄ではなかろうかと思います。
目今先輩諸士孰れもこの問題に就いて腐心し、各自其の欲する所に従って研究を重ねていられまが、
要するに其の目的とする所は、西洋の長所を取り入れ、日本建築の特色に合わせんと苦心するに外は
ありません。

構造及び材料と改良すべき点

 日本在来の木造建築は、実に世界に於いて最も進歩した木造建築であります。けれども、木材の拂
底と、其の耐久力に乏しき事等は今後の永続を許しません。
目下世界に於ける建築進歩の跡を尋ねますと、大略左の如き順序を経過しています。
 (1)土造(穴居)  (2)木造  (3)石造  (4)煉瓦造  (5)鉄骨造   
 (6)コンクリート造
所で現在我が国の状態は、「(2)木造」の時代を終わろうとして、しかも(3)(4)(5)(6)の各時代を、
ほとんど一挙に過ぎ去らんとする有様であります。
随って其の建築様式さえも、未だ如何なる式に、なるか定まらず、所詮暗黒時代、過度時代にあります
ので、建築家は競って一新機軸を出さんと研究しております。
そして我々技術者に在っては今は実に重大なる責任時代であり、又それだけ趣味の深い時代なのであ
ります。
一概に西洋建築と申しますが、各国各様の形式を備えそれぞれ一長一短があって、我が国に応用が
出来ない点も少なくありません。
そこでまずきたんなく、在来の日本住宅に於いてその長所、短所及び改良すべき点を一通り述べます。
 
 第一間取り。
 勿論敷地の広さにも依るが、日本の住宅には客が座敷へ通る時分に、家族の居間を通って行かね
ばならぬような不便なのがあります。

(平成14年、今では別に苦にならないと言う多数の人も居るかと思いますが、それは西洋的的な考え方
で、玄関のドアを開けると一つの空間があり、其れは居間と考えると、そこからはダイニングがあり、家
事室があり、洗面、バス、トイレがあり、納戸があり、幾つかの寝室があります。
むろん容積的には平屋造りと言うのではなく、二階建て、三階建ての建築物を含みます。少しオーバー
に表現しましたが、こういった西洋的な設計は日本では定着せず、今では玄関から廊下、階段室を会し
て、それぞれの部屋にドアにてつながっています。
このような事柄を踏まえて、小野武雄氏の論文を読んでください。)カッコの文は管理人の作文です。

 是は改良すべき第一要点と思います。そしてこの不便を避けるには「玄関に続いて広間を設け是より
四方に向かって各室を配置する事」が必要な条件であります。
是はさして困難なことではなく、広間といえど実は日本に於ける玄関沓脱を昇った所の畳敷きの所で間
に合います。

 その一例を挙げますと左記に於ける二畳の所は即ち
広間で、孰れの室へも此處から参れる様に出来て居ります、この家の坪数は21坪7合5尺であります。
(71.77平方メートル)

 第二方位。
 客間、居間、書斎等主な部屋は、東向き又は南向き或いは、東南向きにしなくては、なりません。
西又は北向きの部屋は全ての点に於いて不便であり、且つ又住む人の為に、この上もない不幸です。
尚各室配置の事は後の設計図及び解説文に於いて詳しく説明します。

 (注)未だ未公開ですが、次のページの 建築設計図U としてこの論文の内容「目次の中の一つの
図面」を公開します。
 
第三採光(あかりとり)と換気  次回に連載・・



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小野武雄・著 総論U 第三採光と換気
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