安達太良山

(1699.7M)

奇跡の景色

日程

磐梯山の隣にある百名山、安達太良山は共に爆裂火口を持つ事もあり、よく似た感じの山だと思う。火口の規模はやや小さく、弟分と言っても良いだろう(厳密にいうと安達太良山は磐梯山の様な独立峰というより連山の様な形ではあるが)。コースタイムはより短く、登りやすい山である。しかしここも磐梯山と同じく公共交通機関の便が悪い。磐梯山の川上登山口から安達太良山の沼尻登山口までは車で35分程の距離であるがバスだと猪苗代駅へ出なければならないうえ、温泉から登山口まで歩かなければならない。調べてみると沼尻高原ロッジが宿泊者送迎をやっていたので送迎してもらう事にした。また下山には岳温泉観光協会のシャトルバスを利用する事にした。こちらは磐梯山登山中に電話で予約。時間が14:10と早いが仕方がない。山中にはトイレもないので早め早めに行動したいところだ。しかも天気予報は午後から雨である。磐梯山と違い、道に迷うところもないだろうと油断して地理院地図を持参しなかった。持参したエアリアでは縮尺が小さくて全く地形が読めず、現地で苦労する事になる。

9月6日  沼尻温泉(07:45)沼尻登山口(07:55)=湯ノ花採取場(08:45)=胎内岩(10:00)=鉄山避難小屋(10:40)=安達太良山(11:30-11:45)=峰の辻(12:05)=峰の辻分岐(12:40)=烏川橋(13:25)=奥岳登山口(13:45-14:10)岳温泉(14:22-15:40)二本松駅(16:03-16:23)郡山駅(16:49-18:53)富山駅(21:29) 

シーズンオフの沼尻高原、宿は空いていて自分たちの他はゴルフコンペに来た15人程のグループだけだった。しかしこのグループ、出発時間が7時30分という事で7時過ぎから会計が集中、自分達は予定していた7時20分に送ってもらえなくなってしまった。どうやら今の時期は小屋番の人が一人で切り盛りしているらしい。一通りの作業が終了後、ようやく宿を出発。予定より25分程遅れてしまった。天気は、バス時間はと心配が頭をよぎる。宿から登山口までは1000円である。登山口の駐車場はかなり広く、40台以上は停められそうだ。準備運動もそこそこに小屋番の人とお別れして出発する。

      
左:沼尻登山口
中:白糸の滝
右:快適な登山道

沼尻登山口からは硫黄川の谷沿いを行く道と船明神山へと続く尾根道の二つのルートがある。谷道の方が近いのだがエアリアに谷道は危険個所多数と書いてあったので安全を考慮して尾根道経由で行く事にする。初めは林道の様な道だがすぐに整備された階段の道になる。3分ほどで白糸の滝展望台に到着。崖を落ちる滝はなかなか見応えがある。看板には磐梯山や吾妻山も見えるとあったが今日は天候が悪く遠景は真っ白であった。展望台を過ぎると登山道らしい道になり、しばらく階段を登る。10分もしないうちに階段は終わり、徐々に斜度は緩やかになってくる。昨日の疲れは残っているが快適に歩く。

    
左:分岐点
中:分岐点付近より渡河点
右:硫黄川の橋

登山口から35分ほどで分岐点に到着。分岐点から谷を覗くと地図で思っていたより深い。渡河点までかなり下りなければならないのが分かってがっかりした。それでも躊躇することなく足を踏み出す。九十九折りに登山道を下りてゆくと硫黄川沿いに沼尻温泉の源泉から麓まで引かれているパイプがあり、平行する谷道と合流した。そのまま木の橋を渡る。川の上流には温泉の源泉があるのだが有毒ガスで立入禁止の看板が立っている。登山道は小屋の裏側の方から入るようになっていてペンキでマーキングがしてある。初め登山道は草に覆われているが踏み跡はしっかりしている。硫黄川の温泉の源泉を眼下に眺めながら谷に沿って登山道を登ってゆく。

    
左:硫黄川沿いの道
中:渡渉点
右:石垣の構造物、砂防ダムか?

源泉を過ぎると谷はガレやザレが目立つようになる。川の水量もぐっと少なくなった。滑滝を過ぎると沢も近くなり、やがて岩がゴロゴロした沢をペンキ印に従い渡渉。もう水はわずかしか流れていない。谷底の高台の草地を歩く。対岸には沼ノ平の入口を半分塞ぐように人工的な石垣が見える。何の説明もないので分からないが砂防ダムだろう。周囲の草付きを見るにちゃんと役に立っているようだ。そろそろどこから取り付くのか気になって来たがガスで稜線が完全に見えず、地図も読めずで全く先が分からない。

    
左:胎内岩への取り付き
中:巨石から左に巻く
右:胎内岩までまだまだ

ゴロゴロの沢の中を軽く渡渉しつつ歩いてゆくとザレた小山に看板が立っている。沼ノ平立入規制の看板だ。かつては沼ノ平を通り抜けて登山道があったらしいのだが火山ガスによる死亡事故などもあり現在は進入禁止になっている。取り付きは左側にあるはずなので方向転換するとすぐにペンキ印が見つかった。正面やや左にある巨岩の下を通り、ザレの道を左に巻いてゆく。やがて道は折り返して灌木地帯に入る。一時的に斜度も緩くなり、もう終わりかと思いきやまだまだ急登が続き胎内岩に着く気配が全くない。稜線はまだまだ上に見える。地図を見て標高差は150Mと思い込んでいたが実際は250Mで完全に勘違いしていた。また登山道には迷いやすい部分があり、一度踏み跡に迷い込んで藪漕ぎをする羽目になってしまった。どこで稜線に出るのか分からなかったがここを抜ければあとは急な登りはないはずなので焦らずしっかり登るよう心掛ける。

    
左:胎内岩くぐり
中:鉄山避難小屋に向かう
右:鉄山(1709.4M)

やがて巨大な岩が門の様に立ち塞がった。ペンキ印に従いその間に入ってゆくと胎内岩くぐりになっていた。ザックを下ろして通り抜ける。稜線上に出るとその先は高原の様な幅の広い尾根が広がっていた。ハイマツなどが茂り高山の雰囲気。ただしガスがひどくて景色は全然だ。何とか沼ノ平の景色は見たかったのだが、天気は下り坂なので諦めるより仕方がない。何度か緩いピークを越えてゆく。しかし諦めるのはまだ早かった。鉄山避難小屋の手前まで来ると徐々にガスが薄くなってきた。鉄山避難小屋まで来ると箕輪山はもうはっきりと見える。沼ノ平はまだ一部しか見えて来なかったがガスが晴れるのを期待しつつ歩く。避難小屋から尾根をまっすぐ行くと行き止まりが鉄山の山頂だ。安達太良山よりも若干標高は高いが看板もなくひっそりとしている。

    
左:馬の背、晴れ間に期待しつつ歩く
中:沼ノ原、これが見たかった
右:牛の背、安達太良山まであと一歩

鉄山から先の道はトラバースになっていて20Mほど戻ったところに分岐があり落石注意の看板が立っている。岩の稜線の下を歩くが登山道は歩きやすい。再び尾根に出るとガレ場の下りとなり馬の背と呼ばれる尾根に続く。鉄山を過ぎてから何人かの登山者とすれ違った。沼ノ平の逆コースを周回している登山者だろうか。眼下にはくろがね小屋がガスの中にぼんやりと見える。そしてついに矢筈森の登りにかかり沼ノ平の周回コースもあとわずかという所で何とガスが晴れてきた。そして広がる沼ノ平の景色。この景色が見たかったのだ。間一髪、諦めかけていただけに感動もひとしお。あと10分早く行動していたら見られない景色だった。山の天気の恵みに感謝。意気揚々と安達太良山の山頂へ向かう。

    
左:安達太良山山頂
中:鉄山、箕輪山方向(左端は胎内岩)
右:和尚山

安達太良山の山頂が近付いてくると山頂の岩の下の広場に50人くらいの人がいるのが目に入る。やはり百名山、人が多い。ロープウェイないしは奥岳登山口から登って来ている人が多いのだろう。渋滞も覚悟したが、幸い下りて来たところだったらしく自分たちが着くころには団体はいなくなっていた。山頂の乳首岩への登りは鎖もあり、何人か付いていたがさほど待つ事もなく山頂に到着した。360度の展望もあいにくの天候で遠くの山までは見渡せなかったが、ガスの中を歩いて来た事を思えばまあ満足、今まで来た道を振り返り景色を楽しむ。しかしバスの時間があるのでゆっくりは出来なかった。既に遅れは40分になっていた。一瞬ロープウェイも考えたが食事を諦めてすぐ出発すれば何とかなると判断、早々に山頂をあとにする。

    
左:峰の辻から山頂方向
中:岩交じりの登山道
右:抉れた登山道

山頂から奥岳登山口方向に50Mほど行くと峰の辻へ向かう分岐がある。ややガレた登山道を下りてゆく。峰の辻は尾根上にあり、一度谷へ降りて軽く渡渉して登り返す。見通しが利いたので大変歩きやすい。峰の辻の十字路は右折して篭山をトラバースする尾根道をとり、勢至平から奥岳登山口の方向へと向かう。ここからはもうどんどん下ってゆくだけ。岩がゴロゴロして歩きにくい登山道を下ってゆく。足が疲れたと弟の足が止まり、何人かに抜かされる。やがて樹林帯に入り、登山道も泥の道となるがこちらも抉れている所が多くて歩きにくい。これはオーバーユースもいいところ、ここは相当歩かれているコースのようだ。

    
左:峰の辻分岐
中:馬車道(勢至平)
右:旧道

峰の辻分岐で林道の様な馬車道に出る。実際タイヤ痕もあったのでくろがね小屋へ物資を運ぶのに使われているのだろう。このあたりが勢至平で樹林帯のために景色は得られないがまっすぐで平坦な道はとても歩きやすい。時間が押している事もあり、自然と足が速まった。勢至平を過ぎると旧道と馬車道の分岐が現れる。どちらも九十九折りの坂道だが当然登山道である旧道の方がコースタイムは短い。もちろん旧道を進む。この旧道も泥濘で滑りやすかったり、道が抉れていたりでなかなか大変な道だった。再び馬車道に出て2分ほど歩くと烏川橋に出た。ついに雨が降り始めたがまだ小雨で雨具を付けるほどではない。

    
左:あだたら渓谷自然遊歩道
中:昇竜の滝
左:魚止滝

烏川橋を渡り、まっすぐ林道を歩けば登山口であるが川沿いに遊歩道を行く事も出来る。あだたら渓谷自然遊歩道(ふくしまの遊歩道50選)である。遊歩道と言う割にはアップダウンがあるのだが、かなりの部分で木道が整備され、四回橋を渡って変化のある渓谷美を楽しむことが出来る。なかなか見どころ満載の場所だった。下山にこのコースを選んだのはここに来たかったからでもある。やや急ぎ足で20分程の行程。谷から林道に戻るところで少し登らなければならないのが難だ。

    
左:あだたら高原レストハウス
中:福島交通岳温泉駅
右:二本松駅

林道に出て5分ほどであだたら高原スキー場のバス停に到着。岳温泉行のバスはもう来ていた。とりあえずレストハウスに入りトイレに直行、それからベンチで慌ただしい昼食をとる。沼尻高原ヒュッテで出してもらった弁当はおにぎりとお新香にちまきという簡素なものだった。デザートに白桃ソフトを買って食べる。あっという間にバスの時間となりレストハウスを出た。既に雨は本降りになっていたのでバスまで傘を差してゆく。バスは定刻通り出発、岳温泉へと向かった。そして終点の岳温泉駅のバス停に到着。隣に岳温泉観光協会があり、ここで料金を精算。400円。温泉マップをもらって迷ったが、結局雨が降っていたこともあり安くて近い岳の湯に入る事にした。銭湯みたいな感じでそれなりに混んでいたが特に待つ事もなく温泉に浸かる。結構熱かった。風呂上がりには缶ビールで乾杯。登山の成功を祝した。それから温泉街で土産物を買い、再び岳温泉駅バス停へ戻った。次は福島交通の路線バスに乗って二本松駅に向かう。500円。東北本線で郡山駅に出て、駅前の居酒屋で一杯。郡山駅からは東北新幹線に乗り、弟とは大宮で別れて北陸新幹線に乗り換え、富山に向かった。今回の登山は天候の悪い時期が続いた中、奇跡的に雨に遭わず、しかも見たかった景色も見られた最高の登山だった。

 余談 天候は下り坂、午後から雨の予報ながら徐々にガスが上がって展望が得られるようになった。山の天気は不思議です。
あと10分早ければ沼ノ平の景色は得られなかった。結果として出発が遅れたのは幸運だった。なおかつ雨が本降りになったのは下山後だった。
エアリアの縮尺は五万分の一であったがなぜか読みにくかった。地形をイメージ出来ず精神的にきつかった。
胎内岩手前の樹林帯で踏み跡に迷い込んでしまった。注意が必要だ。
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