大雪山

(2290.3M)

北の大地を歩く

日程

九州へ行き、北海道の話題が出たついでに思いついたのが北海道の最高峰、大雪山を目指す計画だった。旭岳からトムラウシへと向かう全行程3泊4日の全てが避難小屋を期待したテント山行だ。テントでの連泊は初めてなので食料、水等の所要量がつかめず、思ったよりも重装備になってしまった。今回のために用意した55Lザックに最大限詰め込み、全重量は22kg。これに現地調達のガス缶とビールが加わる。装備の点検と幕営の練習の為に乗鞍岳へ日帰り登山を行なうなど、かなり前から準備を整えてお盆休みの出発日を待つことになった。

8月12日 富山空港(19:30)羽田空港(20:35)蒲田(21:20)
8月13日 蒲田羽田空港(09:25)旭川空港(11:25)旭岳山麓駅(12:10)姿見駅(13:50)旭岳(15:50−17:10)=裏旭キャンプ場(17:30)
8月14日 裏旭キャンプ場=旭岳=裏旭キャンプ場(06:45)=間宮岳(07:15)=北鎮岳(08:40)=黒岳石室(10:20−11:30)=北海岳(13:00)=白雲岳(14:40)=白雲岳キャンプ場(15:35)
8月15日 白雲岳キャンプ場(06:00)=忠別沼(08:35)=五色岳(11:00−11:50)=化雲岳(13:00)=ヒサゴ沼避難小屋(13:35)
8月16日 ヒサゴ沼避難小屋(05:05)=トムラウシ山(08:10)=前トム平(10:15)=カムイ天上(11:15)=国民宿舎東大雪荘(14:15−15:30)新得駅(16:45)帯広駅(18:50)
8月17日 帯広市内幸福駅=帯広空港(19:25)羽田空港(21:00)上野(23:54)富山

山行記録

首都圏に向かうときはいつもJRを使うのだが、久々に富山空港を利用する。当初の計画では仕事が終わってからその日のうちに北海道入り(千歳空港)しようと考えていたのでその名残なのだ。お盆の時期だけあって飛行機は満席、富山空港の駐車場にも入れず路上に駐車して親に回収を頼む羽目になった。この日は蒲田のビジネスホテルで一泊、翌日に備えてゆっくり休んだ。
一夜明けて、ANAの始発で旭川空港へと向かう。予定よりも五分ほど遅れて到着。初めて踏む北海道の感触を確かめる。話に聞く通り風がさわやかだ。旭川空港からはタクシーでロープウェイの旭岳山麓駅へと向かった。この日のうちに裏旭キャンプ場で幕営する為の予定の行動だ。途中どこかでガス缶などを入手する必要があったが、ロープウェイ駅で買うことが出来るとのことで直接そちらへと向う事にする。タクシー代金は11410円。バスだと旭川駅経由で時間はかかるが1600円程度で行けてしまうので考えどころだ。

  
左:旭岳への登路
右:山頂から姿見平を望む

ロープウェイ山麓駅で必要な買い物を済ませ、昼食をとった。ロープウェイは順番待ちが大変だと聞いて覚悟していたのだが、今年から大型のゴンドラに変わったという事で待ち時間はなかった。その分あわてずに済んだがバスで行ける可能性もあったかもしれないと後悔した。余った時間を活用するためビールを買い込み、さらに重くなった荷物を担いでロープウェイに乗り込んだ。私のような重装備は誰もいない。幕営にしては少々遅い時間帯だからだろう。姿見駅に着くとすぐに登り始める。姿見ノ池周辺を過ぎると人影もだんだん少なくなり、尾根筋を黙々と登ってゆく事になった。登山道を登るにつれて背後に景色が広がって気持ちがいい。金庫岩を過ぎるともう旭岳の山頂だった。そこにはまだ3人ほどの人が残っていた。印象に残っているのはツーリングの途中に寄ったという人で装備はウエストポーチ一つ。なんとも羨ましい。思ったより早く到着したのでここで荷を解いて景色を見ながらビールを楽しむ。北海道最高峰、360度の展望が実に気持ちいい。持ってきた3缶を空にする頃には山頂にもう誰もいなくなっていた。日が落ちる前にキャンプ場に向かう。テント場には既に10基ほどのテントが設営され、整地された場所はもう無くなっていた。それでも空きスペースは十分にあって適当な場所にテントを立てる事にする。

  
左:大雪山旭岳山頂
右:キタキツネ

翌朝、テントから出ると空はもうかなり明るくなっていた。山頂からのご来光も楽しみの一つである。空腹を我慢しながら再び旭岳の山頂に立つ。しかし、空全体が白く霞んでいて日の出は全く目立たないものに終わってしまった。知ってか知らずか誰も登ってこない。ただ、一匹のキタキツネが辺りをうろついているだけだった。キャンプ場に戻り、朝食の準備にとりかかるが、水場で汲んで来た水を煮沸したところ白く濁ってしまった。飲んでみると、ものすごく不味い。しかし今日はこれで我慢する以外にないだろう。北海道の水が実は不味いのではないかと言う不安を抱えつつ、荷物を纏めて出発した。

  
左:北鎮岳
右:雲ノ平

とりあえず目指すのは北海道第二の高峰、北鎮岳。お鉢の一角、間宮岳まで出てくるとようやくその姿が現れる。綺麗な三角錐をした山容が気持ちいい。そして眼下に広がるお鉢平の景観がまた素晴らしい。また、お鉢を巡る山々の様子はとても変化に富んでいて九重に似てると言われるのもうなずける気がした。北鎮岳に向かう分岐でザックをデポして山頂へと向かう。既に黒岳方面から人が流れてきていて4,5人が休んでいた。とても見晴らしの良い場所でどちらの方向に向いても眺めを楽しむことが出来た。北鎮岳を下り、展望台を過ぎると道は徐々に平坦になりとても歩きやすくなった。雲ノ平まで来ると道の脇にロープが張られ、ほとんど遊歩道である。快調に歩いて黒岳石室に到着した。ここで少し早いが昼食にする。ついでに小屋で水も補給、今朝の水は捨てる。ここには「日本一高い店」と書かれた看板があって缶ジュースが500円等と書かれていた。確かに高い。昼食後はヒグマを観察している北大の人から話を聞いたりして過ごした。今年はヒグマがまだ出てきてないと言う話だったが注意するに越したことはないとの事だった。

  
左:白雲岳
右:白雲岳避難小屋(右がテント場)

次に目指すのはもちろん北海道第三の高峰、白雲岳。黒岳石室で少しゆっくりし過ぎたが時間は十分にあるので問題はない。赤石川を渡り、北海沢沿いのみずみずしい景色を楽しみながら北海岳へと向かう。途中、北鎮岳や雲ノ平あたりで出会ったお鉢巡りの人と何人も再会して挨拶を交わす事になった。北海岳は顕著なピークではないがお鉢を巡る景色が見事な場所。そしてまた白雲岳の方向に振り返ると一転、荒涼とした草原が広がる。もうどこかの山に似ているとかは言えない。まさに北海道の山がここから始まる思いがした。白雲分岐から白雲平を通り、最後に少し岩場を登ると白雲岳の山頂だった。今度はザックを持ってきたので思いのほか疲れたが、山頂からの景色はそれを補って余りあるほど雄大で素晴らしい。これから向かうトムラウシ山もはっきり見ることが出来た。明日は一日であそこまで行かなければならない。今日は早く休んだ方が良いと気が付き、白雲岳避難小屋へと向かう事にする。予定よりも30分早く到着。これが功を奏した。既に小屋はすし詰め、広いテント場もほとんど埋まりかけていた。空きスペースにテントを立てていると隣の人が場所を少し移動してくれ、さらにワインまでご馳走してくれた。そのまま暗くなるまでその人と北海道の山や観光地の話をして過ごした。 

  
左:忠別岳(白雲岳避難小屋から)
右:忠別沼

朝はまだ見えていた忠別岳もすぐにガスに隠れてしまった。どうやら天候は下り坂らしい。心配なので予定よりも30分早く出発する事にする。3日目ともなると食料品が減ってきてパッキングが楽になってうれしい。荷物を纏めてキャンプ場を出る。しばらくは緩い下り坂が続く。非常に快適なコースだが、あっという間にガスが立ちこめて景色がほとんど見えない状態になってしまった。雄大な高根ヶ原の景色はガスに遮られ、荒涼とした草地を横風に煽られながら黙々と歩く。三笠新道の分岐を過ぎて暫くすると左側が崖になって来た。眼下に沼地が一望できる場所だ。しかし、ずっと下を覗いていたのに何も見えなかった。道はほぼ平坦に延々と続く。やがて平ヶ岳という山の傍を通り過ぎるのだが、その名の通りどこにピークがあるのかさえ分からなかった。やがて木道が現れるとちょっとしたアップダウンがあり、それを越えると忠別沼に到着した。木道の端に腰掛けて暫く休憩に入る事にする。周辺には花がちらほら咲いていて、変化のない景色に飽き始めていた心を癒してくれた。

  
左:五色岳
右:化雲岳

忠別沼からしばらく登ると忠別岳の山頂。雨が強くなってきたのでここで雨具を着ける。じっとしていても寒いので山頂は写真のみにしてすぐに歩き始めた。しばらくは草原の楽な下りだが、徐々にハイマツが増え、やがては自分の背丈と同じ高さにまで登山道にかぶさって来るほど繁ってきた。そこを猛烈に漕ぎながら登る。先程まで寒かったのが嘘のように体が暑くなった。雨具を脱ぐ訳にもいかず、暑さを凌ぐため急速に水を消耗してしまう。五色岳に着いたときにはもう体がくたくただった。雨が止んできたので休息を兼ねてここで昼食を取る事にする。ハイマツの登りから団子になって繋がっていた仙台の人、札幌の人と一緒に食事を取り、また水を分けてもらった。この三人で下山口のトムラウシ温泉までほとんど一緒に歩いてゆくことになる。ようやく五色岳のハイマツ帯を抜けると登山道は木道となり、かなり歩きやすくなった。やがて化雲岳への分岐点。かなり疲れていたが、残り400Mの標示に乗せられて山頂へと向かった。これが意外ときつかった。再びの雨に山頂で写真だけ撮って退散する。そのままヒサゴ沼避難小屋へと向かった。予定では南沼まで行くつもりだったが水が無くてはどうしようもない。雨も心配だ。同行の二人もヒサゴ沼に向かう様子。滑りやすい斜面に気を付けながら登山道を下り、ヒサゴ沼の傍に建つ避難小屋に到着した。まだかなり時間的には早いように思っていたが、小屋は既に半分以上埋まっていて二階に陣取る事になった。とりあえず寝場所は確保できたので水を汲みに行く。水は沼沿いに木道を10分程行った雪渓の下から流れていた。雨が上がってきたので外でのんびり時間を過ごす。その晩の山小屋は入りきれない人が出るほど満員だった。

  
左:ヒサゴ沼避難小屋
右:日本庭園

ヒサゴ沼で泊まってしまった関係で翌日は早めに出発する必要があった。起きられるのか心配していたが、先行パーティーが2時頃からガヤガヤやっていてとんでもなく早く起こされてしまった。トムラウシ温泉からのバスの時間に間に合うよう五時に出発する。天候は曇り、視界は不良だった。昨日の水場の脇から雪渓沿いに登ってゆく。登山道は雪渓の中に埋まっているが、雪渓の上を登るのは大変なので横の岩場を伝いながら進んだ。尾根に出てさらにひと登りすると、ガスの中に日本庭園が浮かび上がった。幻想的な風景が何とも言えない風情を感じさせてくれる。視界が悪いせいかかなり長い道のりに感じたが、変化に富む地形は全く飽きが来なかった。平坦な道を快調にとばす。

       
左:ロックガーデン
右:ロックガーデンを越えると・・見えました

いつの間にか私が三人の中で先頭を歩いていた。ガスで覆われたロックガーデンをペンキ印や踏み跡を頼りに登ってゆく。名前の通り岩だらけの場所だ。特に問題のある場所は無かったが不安な気持ちは抑えられず、ついつい急いでしまう。ロックガーデンを抜けると急に視界が開けてトムラウシが正面に現れた。もう目の前だ。万歳したい気持ちをようやく抑える。後の二人よりも先行していたのでとりあえず休憩。二人を待つ。聞けばナキウサギを見ていて遅れたのだとか。私は全く気付かなかった、残念。

  
左:北沼からトムラウシ
右:トムラウシ公園

草原の道を少し歩くと北沼に到着。つい幕営したくなりそうないい場所だ。トムラウシ山まであと600Mの標識につられてさらに登る。山頂の直下の岩場は枝道が多く、思いのほか苦労した。それでもなんとか山頂に到着。10人ぐらいの人がいたが、岩がごろごろ積み上がったような山頂部分は少し狭く感じた。期待した展望は晴れわたった空とは対照的に全てが雲海に閉ざされ、わずかに十勝岳のものと思われる噴煙が確認できるだけだ。行動食を取った後、南沼の方向に向けて下山した。傾斜が緩くなると十勝方面への分岐を分け、そこからトムラウシ公園まで岩と高山植物の見事な庭園を満喫する。今朝通ってきた日本庭園と比べ、天気が回復した分だけ色鮮やかで景色が映える。広場に出た所で少し止まって眺めてゆくことにした。

       
左:こまどり沢
右:トムラウシ温泉コース

休憩していると日帰り登山の大きな団体が登って来た。トムラウシ公園から前トム平に向かう道は狭く、すれ違いが大変なのでなかなか前に進めない。登山者をやり過ごし、隙を見て前に進んだ。少し登り返し、緩やかに下りていった岩のゴロゴロしている場所が前トム平。多分最後の展望ポイントだが、ガスに覆われて何も見えなかった。そしてここから急激に下りにかかる。沢沿いに歩いてゆくのだが、浮き石の多い急斜面が続いて神経をすり減らした。渡渉点まで来てようやく一息。行動食を取った。残り時間を考えるとゆっくり食事を食べている暇はない。先を急ぐが、カムイ天上に向かう登り返しで同行者が参ってしまい差は開く一方。泥濘の道を過ぎたところで本格的な食事を勧めたが、先に行ってくれと言われてしまいやむなく別れることにした。カムイ天上を通過し、短縮登山道への分岐を越えると登山道は刈り払われた単調な道となり、下山口のトムラウシ温泉、東大雪荘に到着した。早速、洗い場で泥の付いた靴を洗って温泉に入る。心配していた同行者達も間もなく到着した。

  
左:国民宿舎東大雪荘
右:新得駅

登山者がバラバラに乗り込んで来た事でバスは少し遅れて発車した。とりあえず今日は帯広に着けばいい。バスの中でゆっくり休みながら、さっきまで時間に追われていた事が嘘のように思われた。終わったんだな、そんな気持ちを乗せてバスは走ってゆく。同行者達は札幌方面に向かうとのことで、新得の駅前で一緒に蕎麦を食べたあと別れた。それから帯広駅前のビジネスホテルに電話をかけて予約し、帯広へと向かった。
翌日、最終日は予備日。特に予定はなかったので帯広市民プラザで情報収集のあと、帯広百年記念館、真鍋庭園を観光、六花亭、藤丸百貨店で土産を買った。次いでバスで幸福駅に向かい、そこから帯広空港まで歩いた。一面に畑が広がり、水田が見えない景色は北陸では見られない物である。歩きながらじっくり景色を楽しんだ。帯広空港からは羽田空港に飛び、上野から夜行列車で富山に向かう。今回はとても充実した山行だった。

余談

初めての連泊と言うことで、食料が半分近く余った一方、水不足が山行を制限するなど問題も多かった。
テント場、避難小屋は早出早着が原則、つまりほとんどの人がそう言う行動をとるのだと言うことを身をもって知らされた。
登り返しの前に行動食を取る。九州計画での経験が生かされた。
北海道の水はエキノコックスの問題があるので基本的に煮沸しなければ飲めません。途中、もらった水は煮沸してなかったので塩素を入れて飲んだが効果は疑問。
予備日には観光を行ったが予定は何もなく、当日になって慌てることになった。観光についてもある程度計画を作っておく必要を痛感した。

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