黒部五郎岳・三俣蓮華岳・鷲羽岳・水晶岳

(その2)

朝起きると前日とは打って変わってガスガスの天候である。視界は50mないだろう。しかもこれから雨になると言う。早めに行動して出来るだけ雨に当たる時間を少なくしたい。この日は前日と比べ余裕のあるコースではあったが周囲に合わせて朝食を5時、三俣山荘を6時と予定より一時間早く出発する事にした。次第に疎らになるハイマツを見ながら尾根の急登をひたすら登る。弟はやはり足が止まりがち。前日からかなり体調が悪いようだ。だんだんとガスも濃くなって来て天候も明らかに下り坂に向かっている様子。とりあえず、先行して山頂で雨装備を整える事にした。鷲羽岳山頂には5人ほど。この時間、三俣山荘からの登山者だけしかいないのだろう。止まっているとかなり寒い。

  
左:登山道
右:鷲羽岳山頂

ここで弟が体調不良と天候不順を理由に雲ノ平山荘へ直行すると言う。ゆっくりでも予定通り回れそうな気がしていたが、まあ仕方ない。私だけ水晶岳へと向かう。全く景色を得られない状態だが鷲羽岳、水晶岳に来たのは19年ぶりだ。その時はずっと天気が良かったはずだがカメラを持つ前なので記録は残ってない。今度こそ記録に残す気持ちで来たのに残念な天候である。

    
左:登山道
中:水晶岳山頂
右:水晶小屋

鷲羽岳を後にして水晶岳へと向かう。雨が来る前に出来るだけ進んでおきたいので一人になったのをいいことに先を急ぐ。景色がないのでひたすら前を向いて歩いて行くだけである。高山らしい縦走路。時々パラパラと雨が降って来るがすぐに止む。水晶小屋で道標に従い小屋の裏側に回り水晶岳へと向かう。やがて水晶岳の山頂に到着。とりあえず、写真をお願いして撮って頂くが山頂が狭くてかなりアップの写真になっていた。10分程滞在して撤退。程なく本格的に雨が降って来た。水晶小屋に着いたときは小降りだったのでまだ10時前だったが昼食にする事にした。小屋の前に座って雨に当たりながら急いで弁当を食べる。小屋の前は大混雑していた。野口五郎小屋泊まりの登山者だろうか。

    
左:祖父岳山頂
中:雨の雲ノ平
右:雲ノ平山荘

まだ10時過ぎ、時間はたっぷりある。せっかくなので黒部源流へ遠回りしてみようかと考える。しかし、だんだん右膝の調子が悪くなってきた。次第に踏ん張りが効かなくなって来る。前日からの無理が祟ったのだろうか。当初の予定通り雲ノ平山荘へ直行すべきか。分岐点の岩苔乗越で10分ほど考える。一旦は足を引きずってでも行こうと100mほど南へ下ったが明日に向けて余力を残すべきだと考え直して引き返して祖父岳から雲ノ平山荘へと直行する事にした。誰もいない祖父岳。前回来たとき、初めて熊に会った印象深い山である。膝に力が入らないので警戒しつつゆっくり歩く。視界が効かないのでペンキ印を頼りに歩いて行くとやがて黒部源流と雲ノ平を結ぶ木道に出合った。ここまでくればしめたもの。平坦地であれば膝への負担は少ない。順調に歩みを進める。空は次第に明るくなって来て小屋に着くころには青空さえ見えて来た。

    
左:水晶岳(祖母岳より)
中:三俣蓮華岳(祖母岳より)
右:夜景

19年ぶりの雲ノ平山荘。記憶と違いがないのでそのままかと思ったが2010年に建て替えられた新しい建物だ。とりあえず濡れたものを乾燥室に入れ、ロビーで読書。一冊読み終わった頃には日が差してすっかり天気になっていた。膝の調子が気になるが、せっかくなので外に出る事にする。すぐ近くの祖母岳に行く事にした。アルプス庭園と言うだけあって360度の展望。まだガスが残ってたり、平坦な山頂なのでハイマツに隠れて一部見えにくい山もあった。ギリギリまでいて小屋に戻り、夕食。石狩鍋だった。その後、星空を見るために早めに就寝する。月の入りは2時40分。3時過ぎに外に出ると満天の星空だった。昔と変わらないはずの星空を眺めて暫くの間、心は若い頃に戻る事が出来た。

    
左:日の出(中央、水晶岳)
中:立山(祖母岳より)
中:雲ノ平(北ノ俣岳方向)

日の出は5時過ぎ、朝食も5時で重なるかと思っていたが水晶岳から登る日の出は6時だった。既に周囲は明るくなっていた。最終日、雲ノ平から薬師沢小屋まで640m下り、太郎平小屋まで400m登り、有峰遊歩道まで1180m下る。これを恐れて昨日は黒部源流を諦めたのだった。膝の調子は何とも言えない。とりあえず、再び祖母岳へ登り展望を楽しむ。前日は見えにくかった北ノ俣岳も良く見える。南側から見る立山も変わっていて印象深い。祖母岳から下り、木道を進む。奥日本庭園、正面に見える薬師岳が素晴らしい。

    
右:雲ノ平(薬師岳方向)
中:薬師沢への下り
左:薬師沢小屋

ハイマツ帯は徐々に樹林帯となり、景色が効かなくなって来る。やがて木道は途切れ途切れとなり、岩ゴロゴロの急坂の登山道になる。今回の山行では最大の難所と言って良いだろう。膝をかばいつつ前進。無理をせず弟に付いて行く。足の運びと木の枝に頭をぶつけないよう注意する。展望のない樹林帯は風がなく蒸し暑い。岩は前日の雨で若干濡れていたが一回滑っただけで問題なく歩く事が出来た。最後に梯子を下りると黒部川に出た。川を眺めつつ暫し休憩。薬師沢小屋はすぐ目の前である。

    
左:カベッケヶ原
中:渡渉点で昼食
右:太郎平小屋

薬師沢小屋を過ぎると登り返しの急登から始まるが5分ほどでほぼ平坦な木道が始まる。笹とハイマツと樹林が織りなす小さな平原をいくつも通り過ぎる。カベッケヶ原、庭園を歩いている気分になる気持ちの良い場所だ。いくつかある渡渉点には橋が架けられており、木道と合わせてとても歩きやすくなっている。登りの前に食べるという事で10時15分に渡渉点で昼食。小屋の弁当を開ける。靴を脱いで川に足を付けると気持ちが良い。全ての渡渉点を過ぎると谷も狭くなり、木道は終了。いよいよ本格的に登りが始まる。徐々に景色が開けて来るかと思われたが登って行くにつれてガスが流れて逆に景色は得られなくなってしまった。いつ焼けたのか日焼けであちこち痛くなっていたのでそれも良しである。ガスの中、何とか太郎平小屋に到着した。あとは下るのみである。

    
左:登山道
中:折立遊歩道
右:臨時駐車場

太郎平小屋をあとにして木道を下ってゆく。やがてガスの下に出て景色が開けて来た。五光岩ベンチで一息入れる。しばらくは黒部湖を眺めながら気持ちよく下っていたが、三角点あたりでついに雨がパラパラ来始めた。樹林帯を急いで下りるが折立まであと15分というところで本格的な雨となり、雨具に着替えた。朝の快晴が嘘のような天気である。折立でトイレを済ませて折立遊歩道へと入る。徐々に雨は止んできた。帰りの折立遊歩道は誰にも会う事無く通り過ぎた。途中、弟と駐車場の車の数を賭けたが、残っていたのはわずか4台で完敗だった。来た時は15台ぐらいいてまだ増えそうな感じだったのだが。とにかく無事に下山して明るいうちに家に帰ることが出来た。今回の登山はいろいろハプニングも多かったが、素晴らしい景色も得られたし、昔を思い出すことが出来て良かった。次、20年後は多分無理だろうけどもう一回は行きたいな。

余談 体力不足を心配していたが、余裕のある計画のおかげで何とか予定をこなす事が出来た。これからは余裕のある計画にしないと駄目だろう。
有峰遊歩道の一時間半は予定外としては大きいので計画に折り込む必要があると思う。
味は普通だったが山でケーキが食べられるのは素晴らしい。
いつか、雲ノ平に数日滞在して庭園を制覇してみたい。
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