六甲山

(931.3M)

六甲山全山縦走

関西で最も有名な山の一つが六甲山だと思う。「六甲のおいしい水」が売っていたのも記憶に残る。六甲山と言えば六甲全山縦走コース、須磨から宝塚に至る55.4km、コースタイム15時間弱は聞いただけで途方もないものである。しかし毎年市主催で登山が行われ、二日間で約四千人が参加しているという。それを知って何だか挑戦できそうな気になった。五月の連休に練習がてら比良山地を縦走、一週間前には近所の呉羽山を縦走、普段より真面目にトレーニングを行う。この時期を選んだのは日が長いからである。ちょうど大阪へ演劇を見に行く用事が出来たので合わせて行く事にした。ただ宿がなかなか見つからず、カプセルホテルに泊まる事になった。始発電車で出発し何とか帰りの電車に間に合う様に頑張らなければならないがコースタイム通りに歩けば何とかなるだろう。実際、道に迷ったり雨に降られたりで諦めかけたが何とか縦走を達成する事が出来た。

6月24日 富山天王寺新開地駅 
6月25日  新開地駅(05:16)須磨浦公園駅(05:32)=鉢伏山(05:52)=旗振山(06:00)=鉄拐山(06:10)=栂尾山(06:50)=横尾山(07:10)=妙法寺(08:05)=高取山(08:50-09:10)=鵯越駅(09:40)=菊水山(10:35-10:50)=鍋蓋山(11:40)=大龍寺(12:15)=摩耶山(13:40)=丁字ヶ辻(14:50)=六甲山(16:15)=大平山(17:30)=岩倉山(18:15)=塩尾寺(18:30)=宝塚駅(19:05)富山駅 

山行前日、富山からサンダーバードに乗って大阪へと向かう。劇団の公演は15:00からなので毎朝の出勤時間よりゆっくり出発しても大丈夫だ。話は一年ほど遡る。大学の劇団の同窓会があり、ほぼ一回り年下の知らない後輩が劇団を立ち上げて活躍していると聞いた事が始まりだった。一度は見に来てやらねばととりあえずネットで調べると公演日が分かったので一般人を装って見に来た次第なのである。天王寺駅に着くともう開場時間になっていたので小走りで会場へと向かう。5分足らずで到着。まだ席は半分ほどあったので端席に座る。という事で劇鱗さんの演劇を見せてもらいましたが、プロを目指しているというだけあって格段に上手かったです。終わってもまだ明るい時間だったので四天王寺を見学、それから新開地のカプセルホテルまで行きそこで夕食をとり、風呂に入った。エアリアも持参してはいたが分かりにくいので五万分の一地形図に縦走路を書き込んで置く。気が付くと日付が変わっていた。

         
左:須磨浦公園駅
右:鉢伏山山頂

カプセルホテルで目覚ましと言うのも迷惑だと思い浅い眠りで一夜を明かす。おかげで何とか予定通り出発し、始発電車に乗る事が出来たが体調は最悪だ。電車の中での食事も喉を通らない。前途に不安がよぎる。天気予報が降水確率50%というのも嫌な感じだ。そうこうする内に須磨浦公園駅に到着。前途を思うと気が遠くなりそうだが考えても仕方がない、駄目なら諦める。エスケープがここまでやりやすい山域もなかなかないだろう。まだ若干薄暗い時間帯ではあったが駅を出発。初め車道から始まり線路を渡るが須磨浦公園内という事もあり遊歩道の様な階段状の道が続く。ロープウェイ山上駅を通過し、さらに無人の鉢伏山を通過、旗振山へと向かう。

    
左:旗振山山頂
中:垂水市街と明石海峡大橋
右:鉄拐山山頂

旗振山の山頂に着くと既に4,5人の人が休んでいた。始発で一番と思っていたのでがっかり、上には上がいるという事か。しかし会話の内容とゆったりした雰囲気から近所の人のお散歩と察する。旗振山頂はその名の通り景色が良く麓の街や明石海峡大橋も見えた。暫く景色を楽しんだ後、出発。快適な稜線から整備された階段を登ると鉄拐山に到着。ここから先はルートファインディングが試される。何と言っても六甲山縦走は市街地を股にかけて歩くので普通の登山とは勝手が違う。体調が戻って来たので朝食の残りを食べつつ地図を見直す。西宮から来たという小学生に縦走の人かと聞かれた。とりあえず行けるとこまでと答える。聞けば前回の大会でリタイアしたので再挑戦に来たとの事。こちらは初心者なので雨具を持っているかぐらいしか聞く事がない。後々この小学生には助けられる事になるのだが。気持ちを整えて出発する。

         
左:栂尾山から高倉台、鉄拐山、旗振山、鉢伏山を振り返る
右:横尾山山頂

鉄拐山から階段を下り、少し歩くと道は再び整備された幅広の公園の道になる。須磨寺(おらが山)公園である。かつてここにあった高倉山がポートアイランド造成の為に削られ、高倉台団地が作られた。公園は削られた山の名残で憩いの場として残されたという。公園からは階段で一気に団地まで下る。団地内はどこを通るのか不安だったが幸いほぼ直線状に道が付いており、歩道橋も多用されていて高低差はほとんどない歩きやすい道だった。団地の反対側まで来ると山に突き当たるので道なりに左に折れて縦走路に戻る階段に出る。長い階段を登ると背後に今まで登って来た山々が見えて来る。団地を越える人工的なアップダウンはハードで違和感大であったがこの景色も人工的な景色と思うと不思議な感じである。と言うのも高倉山はこれらの山々よりも高かったのだから本来見えない景色なのである。階段となった登山道を少し登ると栂尾山に到着。山頂の展望台で景色を楽しんだ。先程の小学生に追いついたので自然に一緒に歩く。樹林帯の登山道をアップダウンを繰り返し登ってゆくと横尾山に到着。ここは通過する。

      
左:馬の背の縦走路
中:東山
右:横尾山を振り返る

ザレた尾根を下ってゆくとやがて須磨アルプスの景色が広がって来た。横尾山と東山の間にある岩肌の露出した特異な景観は小さいながらダイナミックである。こんな場所が神戸の市街地から歩いて行ける所にあるのだ。鎖場や急な階段もあり、馬の背の名の通りのヤセ尾根も続くが足場はしっかりしていて歩いていて楽しい。もっと歩きたかったが15分程で通過してしまった。東山で少し休憩、麓の景色と地図を何度も重ね合わせるがやはり市街地はどこを通るのか全然分からない。市街地は小学生の後を付いていくのが無難に違いない。しかし小学生のペースで歩くと遅くなるしどうしたものか。登山道は尾根を外れると階段となり一気に麓へと下りてゆく。

         
左:妙法寺
右:高取神社(高取山山頂)

階段を下ると公園の様な所に出た。やがて道路に出る。そのまま団地の中を歩いてゆくと横尾小学校の前に出た。ここで2人組の登山者に抜かされる。随所に六甲全山縦走路の道標があるのだがやはり歩いている人がいるのといないのとでは全然違う。左に曲がり、次は市営住宅の裏の道に入って阪神高速の下を潜ってゆくがこれを探しながら行くのは大変そうだ。そのまま道なりに行くと妙法寺に出た。小学生はここでトイレ休憩、私は先に行く。まっすぐ妙法寺小学校の交差点を過ぎ、道標に従って脇道に入るとやがて野路山公園に出た。家族連れがそれなりにいて賑やかだ。右に曲がり、高取山に取り付く。尾根に出るまでは結構登るがそろそろ時間を稼ぎたいと一気に登り、山頂にある高取神社の境内に入った。登山の無事を祈るまでは良かったのだがそこから神社の反対側に抜けようとして出来ずに何度もぐるぐる回ってしまった。道を失った事に気付き、分かる所まで戻るという基本を思い出すまで15分程かかってしまった。神社から出て戻ると道標があり道を取り戻した。急ぎ足で山を下りる事にする。さすがにこの時間帯になるとハイキングの人もかなり見られるようになって来た。

         
左:鵯越駅
右:菊水山山頂

下山路は結局神社の反対側の参道に出て舗装された道をどんどん下りてゆく。急ぎつつも道標を見逃さないように歩く。道標に従い何度か曲がる。整備されたなだらかな登山道を下ってゆくと小学生に追い付いた。残念だが慌ててみても疲れるだけである。やはり経験者の小学生に付いて行った方が楽なのではないかと観念した。やがて車道に出て団地の中を歩く。車道だがかなり急な坂道が続く。突き当たった信号の交差点で左、ここからは橋を渡ったり、鵯越駅も川の近くだったりでアップダウンがある。地図で見るとさっぱりだが道標は分かりやすく何カ所かある分岐も問題なくクリアして道なりの様に鵯越駅まで行く事が出来た。しかも同行者がいるので心強い。さらに鵯越駅の横を通り遊歩道へと入ってゆく。すぐに鵯越市民公園が目に入ったのでここでトイレ休憩。さらに進むと再び道路に出る。道標に従って歩いてゆく。浄水場を過ぎると再び遊歩道に入り、菊水山駅や石井ダムを横目に見ながら通過。歩きやすいがアップダウンも多い。雨になって来たので雨具を着ける。菊水山の登りは後半階段が続き苦しかった。ここで昼食、幸い雨は小雨になったが視界は白一色でここから先、景色は絶望的だろう。山頂には20人以上の人がいて賑わっていた。携帯電話で天気予報を聞くと午後から強く降るらしい。今一つペースが乗らないが今のところまだコースタイム通り歩いているので諦めるのはまだ早い。

    
左:天王吊橋
中:鍋蓋山山頂
右:大龍寺

小学生は行動食でサクサク出発。後で知ったのだが縦走でゆっくり食べている人はほとんどいないそうである。手早く昼食を済ませて小学生に追い付くべく下山にかかる。尾根伝いに下山、最初はなだらかだが最後の方は急坂で階段が続く。やがてため池の縁を通り天王吊橋に出た。天王谷川と有馬街道を渡るこの大きな吊橋は縦走路を繋ぐ為にあるようだ。登山者の安全確保が目的らしい。結構高度があるので川まで下りるよりも得した気分である。吊橋を渡るとすぐに鍋蓋山の登りとなる。いきなり急な九十九折りとなり、階段が続く。鍋蓋の名の通り初めは急登だが山頂が近付くとなだらかな感じになる山だ。山頂で少し休憩。アップダウンしつつ歩きやすい縦走路を下るとやがて広場に出て大龍寺に到着した。自動販売機があったので六甲のおいしい水が売っているのかと思ったがなかった。六甲には売ってないのかとがっかり。既に雨は本降りになっていたがサイクリングの人から夕方には雨が止むと聞く。早く止んでくれればと願うだけである。

    
左:市ヶ原の橋
中:摩耶山山頂(698.6M)
右:まやロープウェイ山上駅(ほしのえき)

大龍寺からは東谷沿いの道路を歩く。道路は遊歩道になり、市ヶ原で生田川を木橋で渡る。渡ってすぐの桜茶屋を過ぎるとトイレがある。取り付きまでしばらくは緩やかな登りの遊歩道。登山道は初め階段が多いが尾根まで出ると稲妻坂や天狗道と呼ばれる岩交じりの登山道になりアップダウンしながら登ってゆく。雨のせいか登山者も見かけなくなってしまい、二回ほど抜かされただけ。取り残されたようでこの長い登りは精神的にきつかった。最後は長い階段の登山道、これを登りきると天狗岩のある神社があり、三角点のある摩耶山の山頂に到着した。少し行くとまやロープウェイ山上駅(ほしのえき)のある広場に出る。ここで小学生とは別れた。雨具と言うのはポンチョで本降りの雨にはどうしようもない。大変そうだったので撤退を進言すると携帯電話で迎えを呼んで帰ってくれた。この小学生にはここまで連れて来てくれて大変お世話になった。感謝したい。どこまで行くのか聞かれたが答えは朝と同じ、行ける所までである。まだコースの半ば、精神的に少し参ってはいたがコースタイムより若干早く来ているので全山縦走は十分可能、諦めるのは早い。

    
左:オテル・ド・摩耶
中:丁字ヶ辻
右:六甲山自然保護センター(記念碑台)

ロープウェイ駅の隣は掬星台という公園になっており展望ポイントなのだがこの天候なので入らずに車道を通過。ここから続く縦走路は車道だったり遊歩道だったりするのだが遊歩道は階段やアップダウンも多く疲れた足に堪える。縦走路にこだわらずに道路を歩いた方が得なのではないだろうか、と甘い気持ちにさせられる。遊歩道はオテル・ド・摩耶を通過、天上寺の裏を行く。かなり大きな寺だ。摩耶別山を通過、下って道路に出ると車道歩き。摩耶山市立自然の家前から再び苦しい階段の遊歩道。再び車道に出ると三国池と記念碑台の分岐に出た。ここには今までの六甲全山縦走路の道標がない。5分程迷ったが誰も来ないので記念碑台方向の車道を選択。後で知ったが本当の縦走路は三国池方向の遊歩道だった。三国池を知らなかったリサーチ不足に地図の読み間違えである。そのまま車道歩きで丁字ヶ辻を通過、六甲山自然保護センターのある記念碑台に到着した。六甲山に最初の別荘を建て、六甲山開祖と呼ばれるグルームの記念碑が立つ。

         
左:六甲山ゴルフ場
右:六甲山山頂

記念碑台からも車道は続く。縦走路は小路に入りやがて神戸ゴルフ倶楽部六甲山ゴルフ場を通り抜ける。縦走路とゴルフ場というだけでも珍しいが、これがグルームが造った日本最古のゴルフ場なのだとか。球避けの網の中を通ってゆく。馬車でも通れそうな快適な道だ。一度、道路を横断し、階段を登るとガーデンテラスの前へ出る。すぐに登山道となり、NTT無線中継所を過ぎると階段を下りて道路に出会う。極楽茶屋は休業中で看板もなく分からずに通過する。そして六甲山最高峰の道標を頼りに登山道なり車道なりを歩いてゆく。人はほとんど見かけず車も少なく、歩いている人はもういない。天下の六甲とも思えぬ孤独な山歩き。幸い雨が止んできたので雨具を脱ぐ。これでかなり歩きやすくなるだろう。六甲山の最高峰に到着したが山頂広場は閑散として誰もいなかった。写真だけ撮ってすぐに退散する事にする。明るいうちに出来るだけ歩いておきたい。

    
左:車道から登山道へ、宝塚まで12km
中:船坂峠
右:大平山山頂(681.2M)

山頂から車道へ抜けてしばらく車道を歩く。トンネルを抜けると宝塚への道標があり登山道が始まる。宝塚まで12km、ようやく先が見えてきた感じだ。暗くなる前に登山道を抜けたいがガスが出て既にあたりは暗くなって来ており油断はできない。登山道は近畿自然歩道という事もあり地図に出ないような細かなアップダウンが続くものの平坦な道もあり歩きやすい。ザレ気味の登山道を下ると船坂峠に到着。船坂峠から登山道はトラバースに入りやはり細かいアップダウンはあるものの歩きやすい道が続く。一度道路を横断し、大平山へと登る。久々に低山らしい道だ。山頂はアンテナ塔から少し入った目立たない場所にあった。

    
左:岩倉山山頂
中:塩尾寺
右:宝塚駅

大平山からの下山は道路から回った方が良いと考え、一度車道まで戻ってから縦走路の入口へ向かう。縦走路に戻ると初めは平坦な尾根道だが階段の急斜面となり大谷乗越へと下りてゆく。道路を横断すると再び近畿自然歩道らしいトラバースの多い歩きやすい道となる。やがて岩倉山に到着。山頂は縦走路から少し入ったところにあった。縦走路に戻り、しばらく行くと塩尾寺への最後の下りだ。これがザレザレで大変な道だった。そして何とか明るいうちに塩尾寺に着くことが出来た。あとは舗装道路でも行けるので足元も安心である。寺からは舗装された小路を下る。途中のヘアピンカーブは近道の階段を行き、道路を横断、さらに登山道を下ると住宅地に出て塩谷川に出合った。川沿いの道路をどんどん下る。辺りは少しずつ暗くなって来ていたが既に市街地、何とかヘッドランプを出さずに済んだ。やがて宝来橋で武庫川を渡ると阪急宝塚駅が見えて来た。六甲全山縦走に満足。富山行のサンダーバードの終電まで一時間以上余裕があるのでどこかでゆっくり休んで余韻に浸りたかったのだが宝塚には詳しくないのでそのまま帰る事にした。宝塚駅から大阪駅に出て終電より一本早いサンダーバードに乗り富山に帰った。一度は経験してみたかった六甲全山縦走、いろいろあって大変ではあったが達成出来てとても満足。次はより高いレベルの山を目指せるのではと思った一日でした。

 余談 2006年は6月21日が夏至でした。ただ低山なので暑さ対策で春秋に登る人が多いらしい。
小学生には大変お世話になりました。彼がいなければもっと時間がかかっていたと思う。
六甲全山縦走の道標が分岐点にはほぼ必ずあるのだがやはりこれを歩きながら探すのは大変だと思う。やはり人がそれなりに歩いている時期を狙うべきだと思う。
三国池を飛ばしてしまったのが残念。縦走大会では縦走路でも山上道路でもどちらでも良いらしい。
自動販売機を見つけては六甲のおいしい水を探したが見当たりませんでした。六甲で飲みたかったのに残念です。
 
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