鳥海山

(2236M)

出たとこ勝負、山形県最高峰

日程

岩木山のページにも書いた97年の計画当初から鳥海山には一泊二日を当てていた。ご来光もそうだが、やはり何とか影鳥海が見たいという思いがあったからだ。ただし、登山コースは大幅に変更を加えることにした。祓川からのバスが廃線になったのがきっかけだった。鳥海山といえば山形県の最高峰。やはり山形側から登るべきだと考え、象潟口から矢島口へ向かう予定を吹浦口から蕨岡口へ向かうコースに差し替えた。この二年間で自分の登山が出来てきた事が分かって計画段階から楽しめた。結局は登山靴が壊れて湯ノ台口へエスケープする事になった。

8月15日 秋田(06:00)吹浦(07:29-09:40)大平(10:15)=大平登山口(10:30-45)=清水大神(11:25)=御浜小屋(12:35-55)=御田ヶ原(13:45-14:00)=七五三掛(14:45)=大物忌神社(15:50)
8月16日 新山往復=大物忌神社(06:25)=新山(06:45-05)=七高山(07:40)=唐獅子平(08:40)=伏拝岳(10:10)=河原宿小屋(11:50-15)=西物見(13:00)=横堂(13:50)=鳥海高原家族旅行村(14:50)=鳥海山荘(15:10-16:55)酒田(17:50-19:10)富山(02:02)

山行記録

前日の疲れが出たのだろうか、起きた時にはもう電車の時間がせまっていた。慌てて荷物を纏めて駅へと走った。昨夜からの雨はまだ本降りで体中が濡れるが構わない。切符も買わずにホームへ直行すると電車は出発を待ってくれていた。ありがたい。これを逃すと吹浦に行く意味がなくなってしまう。濡れた体は吹浦に着く頃既に乾いていた。それよりも天候が心配だった。吹浦に着くなり電話で確認する。雨のち曇り。影鳥海は厳しいか。それでも予定をこなすべく大物忌神社吹浦宮へと歩く事にする。時間があるので30分ほど雨を待ってから出発したが運良く神社へ着く頃には雨も止んできた。神社でお守りを買い、登山の無事を祈る。時間がかなり余ってしまったが数少ないローカル電車の時間に合わせて来ているので仕方がない。駅裏のバス停で更に50分ほど待ってようやくバスに乗り込んだ。バスはすぐに鳥海ブルーラインに入り、日本海を背後にしてS字カーブをどんどん登ってゆく。とりあえず大平で下車して大物忌神社の中宮でお参り。そこから道路を登山口へ登っていった。

  
左:大物忌神社吹浦口ノ宮
右:大平登山口(吹浦口)

大平登山口のバス停が吹浦口の登山口だ。エアリアでの位置が微妙にずれているせいで現在地の確認が出来ずに時間を無駄に空費する。しばらく待ってみたが誰も居ないので半信半疑のままコンクリートの階段を山に入った。立派な石畳の登山道はすぐに踏み石伝いの登山道に変わった。なるほど伝石坂と言われる訳である。

  
左:見晴から庄内平野
右:愛宕坂方面

急な坂道を登って行くとしだいに植生が低くなってくるのが分かった。見晴まで来ると周囲の景色が開けて庄内平野が一望できた。今朝の天気が嘘のような景色だ。そしてそこからはなだらかな草原地帯を歩いてゆく。時期が時期ならお花畑が見事らしいが残念ながら今回はただの草原だ。清水、とよ、河原宿などを過ぎ、愛宕坂を登りきると眼下に広がる草原の向こうに鉾立のターミナルが見えた。気持ちの良いトラバースを歩いてゆくと間もなく御浜小屋(参籠所)に到着した。

       
左:鳥ノ海
右:外輪山から千蛇ヶ谷へ下るハシゴ

天候が回復しているせいか小屋の外には多くの人が休んでいた。よく見ると小屋に入れば休憩料を取られるらしい。外で昼食を済ませると、鳥ノ海を周遊するコースに入った。途中どこかでで湖に降りられると期待していたが楽に行けそうな場所はなさそうだった。湖を一周すると思った以上にアップダウンがあるようなので休み休み御田ヶ原に向かう。山頂の方角が依然としてガスに覆われていたので少し様子を見る気持ちもあった。しかし回復の兆しは無く、小屋の時間もあるので仕方なく出発する事にした。やがて尾根が狭くなり外輪山の内側が見えて来るようになると七五三掛に到着した。

  
左:千蛇ヶ谷から麓を見る
右:大物忌神社御室参籠所

七五三掛から上はガスに覆われて何も見えない状態だった。神域の雰囲気は十分だ。何はともあれ千蛇が谷にある雪渓の横断を心配したが、ハシゴを使って外輪山の内側を下るとガスの下に出てこれは問題なく渡る事が出来た。途中、麓の景色もまた絶景である。そして登り始めると再びガスの中に入った。何も見えない中、黙々と登山道を登る。先程までの喧騒が嘘のようにほとんど誰にも出会わない。霧雨の中、異様に静まり返った世界で何か超常現象でも起こりそうな気分になったが何事も無く御室小屋(参籠所)の前に出た。この日の宿泊客は朝方の天気が悪かったせいか三十人足らずでゆったりと休むことが出来た。

  
:御来光
右:新山(七高山より)

朝食は五時四十五分からとの事で、床を起つとすぐに新山へと向かった。小屋のすぐ後ろはもう岩山でペンキ印を目当てにしてひたすら登る。岩のトンネルをくぐり抜けると山頂はすぐそこだった。前日の様子からは想像できなかった好天に感謝。山頂は狭く少し混んでいたが、御来光を迎え影鳥海も見ることが出来てもはや言うことは無い。南側に連なる外輪山や北に広がる麓の景色も雄大で素晴らしいものがあった。朝食の時間に追われ一度は小屋に戻ったが、再び新山に登って今度はゆったり雰囲気を楽しんだ。

  
左:七高山
右:唐獅子平避難小屋

胎内くぐりを抜けるとうまく七高山に向かうルートに出た。ペンキ印に従って岩場を下る。鞍部にはまだわずかに雪渓が残っていた。さらに向かいの急な岩場を登り返すと外輪山の稜線に出てすぐに七高山に到着した。外輪山から見る景色も新山からのものと比べて遜色が無い。麓の景色を楽しみながら稜線を歩く。途中、唐獅子平の避難小屋に寄ってみた。秋田県の最高地点を探す魂胆だったが、顕著なピークを発見することは出来なかった。再び外輪山まで引き返し、予定通り蕨岡口へと向かう事にする。

       
左:心字雪(雪渓)
右:河原宿小屋(参籠所)

とりあえず伏拝岳まで外輪山を歩き、いよいよ下山にかかる。道標に従って草原の中の一本道を下ってゆく。景色が良い場所だけに傾斜も急で段差のある岩の道をひたすら降りて行かなくてはならない。そんなときに前触れも無く登山靴の靴底が半分ほど剥がれてしまった。元々は20年以上前に父が買った靴だ。物心ついた頃からあった靴なので壊れるなんて思っても見なかっただけにショックは大きかった。そのままでは歩けなかったのでビニール紐でぐるぐる巻きに補強する。ペースも落として靴への負担も最小限となるように歩いた。雪渓まで降りてくる頃には傾斜が緩くなってきた事と歩き方に慣れてきた事もあってようやく少し気持ちを楽にすることが出来た。雪渓の末端には沢が流れ、近くには多くの人が休んでいた。良い場所は既に無かったのでまっすぐ河原宿へ向かい小屋の前で昼食にする。

       
左:滝ノ小屋
右:白糸ノ滝

河原宿を過ぎると岩だらけだった道も土に覆われるようになってだいぶ歩きやすくなった。それでも急坂になるとやはり気を使う。空はいつの間にか雲に覆われ、栗駒山や日本海の遠景はほとんど見えない状態になっていたが歩くのに問題は無かった。滝ノ小屋やその先の県道が見えてくると足取りも軽くなりやがて分岐点に到着した。滝ノ小屋、県道へのエスケープはかえってバス道路から外れるので考慮に値しない。予定通り歩き続ける。しかしそこから先の道はあまり歩かれていないらしくほとんど草が付いていた。十分に刈り払ってあるおかげで問題なく歩く事が出来たが滝ノ小屋までの喧騒が嘘のように誰にも会わない登山道。さすがにマイカー登山全盛の感を覚えずにいられなかった。

  
左:西物見・・所々には祠がある
右:湯の台温泉鳥海山荘

天候が悪く最後の展望ポイント西物見、東物見の景色は得られなかった。少々がっかりしながら樹林帯に入ってゆく。苔むした踏み石が気になったが難なく横堂に到着した。蕨岡口と湯ノ台口を分けるここの分岐点が思案のしどころだった。蕨岡口に向かうには直進しさらに右折せねばならないが、道標は左に折れて湯ノ台に向かうルートしか示していない。直進するルートは今まで以上に荒れているように見えた。登山靴の事もあるし無理せずに進むことに決め、左のルートにエスケープする事にした。こちらは見た通り歩きやすい道が続き、樹林帯を抜けるとやがて鳥海高原家族旅行村に到着した。バスの時間を調べていなかったのであせっていたがバス停に着いてみると時間が十分あったのでそのまま車道を歩いて鳥海山荘に向かった。そしてゆっくり温泉を楽しんだ。帰路はバスを観音寺で乗り換えて酒田駅へと向かったのだが初めの観音寺行きバスは自分一人の貸切だった。想像以上にバス利用の人が少ない様で少し寂しい気持ちになった。酒田駅からは、いなほ16号、きたぐにと乗り継ぎ無事富山に到着した。登り始めには想像できなかったほど良い天候に恵まれた山行ではあったが、その同じ日には丹沢で集中豪雨があり多くの人が流される痛ましい事故があった。一寸先は闇と言える事故、神社で祈るだけが能ではないが気を引き締めて行かなければと改めて考え直すきっかけになった。

余談 当初の予定では大物忌神社蕨岡口ノ宮から遊佐駅へ歩くつもりだった。車道が長いので初めからきついのは分かっていた。エスケープはやむなし。
行きのバスはそれなりに登山者が乗っていたが、大平で降りる乗客は他に無く、みな鉾立行きの様だった。かえって静かな登山が出来たので良かったかもしれない。
1999年 HOME 蛭ヶ岳