蔵王

(1841M)

蔵王全山縦走

日程

東北を代表する名峰である蔵王は富山を代表する立山と同じく連峰の総称。屏風岳を主峰とする南蔵王、熊野岳と刈田岳を主峰とする中央蔵王、雁戸山を主峰とする北蔵王からなっている。最高峰の熊野岳を目指すなら中央蔵王だけで終わってしまうがはるばるここまで来て非常に物足りないしもったいない。ここは縦走するしかないだろう。幸いお盆休みの三日ほどあれば全山縦走出来そうだ。二日間は十時間以上歩くのだが予備日も一日あるし難しいコースもないので特に問題ないだろう。ただ初日は避難小屋へ到着するのが遅くなりそうで心配だ。一応テントも持ってゆく事にする。

8月13日 富山(18:08)白石蔵王(23:47)
8月14日 白石蔵王(06:20)南蔵王キャンプ場(07:00)=不忘山(09:25)=屏風岳(10:45-30)=杉ヶ峰(12:20)=刈田岳(13:30-55)=熊野岳(14:35)=追分(15:40)=名号峰(16:00)=八方平避難小屋(17:45)
8月15日 八方平避難小屋(06:00)=雁戸山(07:15)=笹谷峠(09:45)=山形神室(10:40-15)=清水峠(12:20)=二口峠(12:55)=糸岳(14:15)=小東峠(16:00)=樋の沢避難小屋(16:35)
8月16日 樋の沢避難小屋(06:00)=小東峠(06:55)=南面白山(08:30)=権現様峠(09:35)=長左衛門平(11:00-45)=面白山(13:05-45)=面白山高原駅(15:15-11)仙台駅(17:02-21:54)
8月17日 富山(05:33)

山行記録

仕事を終え、会社で着替えてすぐに出発する。富山から「はくたか」越後湯沢で上越新幹線、大宮で東北新幹線に乗り換えて白石蔵王へと向かった。初めて東北新幹線に乗ったが夕方からその日の内に宮城県に着く事が出来るのは素晴らしい。次の朝が早いので駅前のホテルへ直行、100Mほど離れたコンビニで飲み物や食料を調達してすぐに寝た。そして翌朝、急いで駅前のタクシー乗り場へ向かう。が、しかし閑散として一台もいない。時間がないからタクシーを使う予定なのにと思い、タクシー会社に電話して来てもらう事にした。10分ほどで一番のタクシーがやって来た。電話で呼んだタクシーはその五分後に登場。電話した意味が無かったかとちょっと後悔。結局、予定より20分遅れで白石蔵王駅を出る。幸い運転手さんは登山口の南蔵王キャンプ場を知っており心得たとばかりすぐに車を走らせてくれた。お盆の早朝、当然何の障害も無く走っていくと思ったら突然「あれ、通り過ぎたかな?、確か看板がどこかに・・・」とUターン。あせって自分も地図を出したりしてみたけどさっぱり分からない、任せるしかない。そしてさすが、次は迷わずキャンプ場への道を見つけ出してくれた。キャンプ場の入口でタクシーを降りる。タクシー代は5370円也。

       
左:白石蔵王駅
右:南蔵王キャンプ場閉鎖の看板

お盆休みだと言うのにキャンプ場は閑散としていた。バイクで来たと思われる人が一人休んでいた。そして今年からこの南蔵王キャンプ場が閉鎖されたという看板を発見。なるほど、県道上の看板は撤去されていたものらしい。登山道はキャンプ場を縦断して奥へと続く。キャンプ場から樹林帯が続く。初めのうちは道も良く斜度も大した事が無いので歩きやすい。やがて登山道が岩でごろごろして来ると急な登りとなって樹林帯の暑さに耐えながら前に進む。時々樹林の切れ間から入り込む涼風に助けられる。

       
左:南蔵王キャンプ場登山口
右:岩がゴロゴロの道

森林限界を越えるとそのままガレ場歩きとなるがガスが出てきてほとんど景色は得られなくなった。登山道に沿って棒が立っているのでそれに導かれて前に進む。足元も視界も悪く不忘山までの残り半分は結構長く感じた。白石スキー場からの道と合流すると不忘の碑がある。戦争中B29爆撃機が3機この山に激突したとかの慰霊碑。後で登山中に聞いた話だと屏風岳あたりまで全部で10機ぐらい落ちているらしい。それで山の名前まで不忘山なのだろうか。不忘山の山頂は不忘の碑から歩いてすぐだった。やはりガスで展望は得られず、山容などちっとも分からない。

        
左:登山道に立つ目印の棒
右:不忘山山頂

不忘山を過ぎ、南屏風岳まで来ればガレ場も終わり潅木が茂るなだらかな稜線歩き。屏風岳の崖からの景色を期待していたがガスのためそれもなく、わずかに咲いている花々を見ながらただ歩く。土の道はとても歩きやすい。雰囲気の良いところで腹も減ったし屏風岳で昼食。刈田岳方面から来た登山者と写真をお互い撮り合い、入れ違いに出発する。屏風岳から芝草平への下りは滑りやすそうな大岩に気を付けながら足を運ぶ。ようやく気合が入ってきたと思ったのもつかの間、柴草平の湿原に出る。今度は木道だ。その後は道もやや広くなり、格段に歩きやすい道が続く。恐らくエコーラインから芝草平まで往復するのが大方のルートになっているのだろう。杉ヶ峰、前山、刈田峠と起伏はあるもののよく踏まれていて楽な道だ。

       
左:屏風岳付近の登山道
右:柴草平

エコーラインに近づくにつれ人に会う率が高まってきたような気がする。やはり皆エコーラインから南縦走路に入るわけだ。道路に出れば駐車場があり登山口になっている。南蔵王縦走達成にちょっと満足。ここまで来れば宮城県最高峰刈田岳はすぐそこだ。休憩もそこそこに看板に従い道路を横断、登りにかかる。勢い込んで足を運んだものの突然の急登、ガタガタの道にちょっと戸惑う。柴草平からの道に足が慣れてしまったか。恐らくこの需要が低そうな道は蔵王中心部にありながら整備が追いついていないのだろう。そうと分かれば慎重に登る、何度か道路を横断し、人の声が聞こえるようになると突然のように刈田岳の山頂部に出た。

  
左:南縦走路登山口
右:刈田岳山頂

お釜が、刈田嶺神社が、そしてあふれる観光客が、イメージ通りの蔵王がそこにはあった。神社でお守りを買い、写真の順番を待っているとだんだんガスが晴れてきた。もう少し、もう少しと待つうちお釜が全容を現す。やはりお釜あっての蔵王と言うことなのか目が離せない。しかし今日はまだ先が長い。気持ちを振り切って刈田岳を下りた。すぐにバスターミナルにもなっているレストハウスに到着。ジュースを買って飲み、水筒に水を補給したり、トイレを済ませたり。勝手が分からず思ったより時間がかかった。

  
左:お釜
右:山頂部に向かって(中央やや右に避難小屋が見える)

バスターミナルから蔵王最高峰熊野岳まではコースタイムにしてわずか45分、さぞかし観光地化しているだろうと思っていたのだが混み合っていたのは刈田岳とバスターミナルの間だけ。すぐに人は疎らになった。おかしい、幾らなんでも人が少なすぎる。考えた末、お盆は登山シーズンじゃないのだろうと結論付ける事にした。東北とはいえ標高が低いので本当は暑いのだ。ガスに包まれて来たのは体力的には運が良かったと言う事なのだろう。不忘山と同様、登山道脇に棒が立っている道を歩いてゆく。緩い上り坂、良く踏まれているので迷いようのない道、しかしガスで道を失った場合はこの棒が役に立つのだろう。直接熊野岳へ向かう道もあるが、それほど違いはないので避難小屋経由で行く事にする。避難小屋の直下は少しガレ気味の登りで避難小屋からは熊野岳方向に広い山頂部を形成している。縦走路は県境沿いに続くため分岐点にザックを置き、熊野岳へと向かう。歩いているうちに再びガスが出てきた。すぐに着くかと思っていたが思ったより遠く、走り出しそうになった。やがて山頂の祠が現れた。思ったとおり山頂には誰も居ない。5分程前に中高年グループにすれ違ったが山頂で10分待っても誰も来ないのでセルフタイマーで写真を撮って山頂をあとにする。

  
左:登山道途中から刈田岳、左後方はたぶん杉ヶ峰
右:熊野岳山頂

分岐点まで戻ってザックを取り、縦走路の続きを歩き始める。このまま行けば避難小屋到着は17時半だ。幾らなんでも遅すぎる。登山シーズンじゃないとは思いつつ小屋がもしいっぱいだったらと不安が頭をよぎる。しかし熊野岳避難小屋泊まりの案に乗り換えるほどではない。いざとなればテントもあると思い切って足を踏み出すとすぐにガスが晴れてきた。雁戸山から山形神室の方まで今日一番の展望。棒で目印の付いたガレ気味の登山道を気持ち良く下ってゆく。点々とした緑がやがてハイマツや潅木に覆われ周りの雰囲気も変化してゆく。この辺りは自然園と言う場所のはずなのだが特定は出来ずじまいで過ぎてしまった。下草が素晴らしく綺麗で庭園風に見えなくもない。ちょっとした平坦地に墓があってびっくりしたが恐らくその辺りがそうなのだろう。

  
左:山頂部直下から名号峰(左)、雁戸山(中央)
右:自然園付近

樹高が段々に高くなるが追分の十字路を過ぎ尾根の方向が変わると、やがて木々の間からエコーラインと滝(不帰滝)が見えるようになる。絶景絶景。ガレ気味の道も平坦な土の道になり、とても歩きやすい。峩々温泉への道を分けるとわずかな登りで名号峰に到着した。名号峰、顕著なピークではないがかっこいい名前だ。そしてこの山頂で今日初めて360度まともな景色が見られた。不忘山、屏風岳から刈田岳、熊野岳そして北には雁戸山が特徴ある山容を見せてくれる。さすがに足を止めて眺める。しかし、時間も遅く、疲労でペースも落ちている状態であまり休んでいられない。休憩もそこそこ歩き始める。

  
:不帰滝(中央)、後方は屏風岳、不忘山か
右:名号峰山頂

いよいよ北蔵王縦走路に足を踏み入れる。入った瞬間、足元が悪く道も細い、あまり歩かれていない道と分かる。笹がうるさいが毎年刈り払っているのだろう、道を失うほどではない。何だかとんでもない所に入って行くんじゃなかろうかとの思いが頭をよぎる。しかし明るいうちに小屋に着けば仮にテントを使うにしても楽に立てられるという考えで不安を打ち消しどんどん歩く。

       
左:南雁戸山(八方平避難小屋が見える)
右:笹に覆われた道

展望のない樹林帯が続いてゆくが樹林の切れた崩壊地に出ると山形市街が見える場所に出た。あたりも薄暗くなってきたがようやく八方平に来たようだ。程なく八方平避難小屋に到着。覚悟を決めて扉を開いた。もしや満室かと思いきや小屋は無人だった。そのまま板の間に倒れ込む。よく歩いた、水を補給したかったのだが水場まで往復一時間なんて気力も無く、ともかく起き上がって食事するのが精一杯だった。そして辛うじて暗くなる前に寝る。小屋は割と新しく綺麗、しかも広い、30人は楽に泊まれる。夜は風もなく完全に静かで怖かった。

       
左:八方平避難小屋
右:山を汚す登山者は猿より頭の毛が三本?

無人の避難小屋、誰にも遠慮せずよく眠る事が出来た。朝食を摂り、予定通りの時間に小屋を出る。まだ薄暗い。水が残り1Lと少ないが仕方ない。昨日に続き見通しの無い樹林帯を行くとやがてガレ場に出た。八方平を一望できる。ここからあと一歩のところに山頂が見える。勢い込んで登ってゆくが、見えたのは手前のピーク。南雁戸は双耳峰で山頂はさらに奥の方の峰だった。

       
左:南雁戸山
右:雁戸山

南雁戸山は目の前の八方平から中央、南蔵王方面へのつながりと山形市街を俯瞰できる景色が素晴らしい。一息ついて雁戸山へと向かうが、ここの直下はちょっとした岩場で高度感があり、山形市街が手に届きそうなほど。慎重に足を進める。核心部を過ぎると一安心、急な登り返しを一足一足登る。そしてついに北蔵王の主峰たる雁戸山に到着。今回の蔵王縦走の目標も佳境に達したと一呼吸入れる。南雁戸山の向こうに中央蔵王、眼下の蔵王ダム、そしてより近づいてきた山形市街とこれから向かう神室岳方向の山々。前日は景色に恵まれなかったので感動もひとしお。携帯電話で天気予報を聞いたが全く問題ないようだ。しかし、天気に恵まれたとなるとこれから暑くなりそうだ。まだまだ全行程の半分、途中水場を探さなければならないかもしれず、休憩も程々にして先へ進む事にする。

  
左:山工高笹谷小屋
右:笹谷峠

雁戸山から急坂の登山道を下り、蟻ノ戸渡りへ差し掛かる。その名前にちょっと身構えるが、遮る物なく山形市街を間近に望みながらの稜線歩きは快適そのもの。蔵王は山形市の山だと実感する。新山への分岐を分けると登山道は前山を巻き、笹谷峠への道が宮城ルートと山形ルートに分かれる事になる。ここで古代奥羽の境だった笹谷峠にあったと伝わる有耶無耶の関跡に行きたいと考えたが、直接宮城側のルートから向かうより山形側のルートを取った方がより時間的に安全と考え、山形ルートへ進む。カケスガ峰を巻き、樹林帯をどんどん下ってゆく。関沢への道を分けるとやがて道は緩やかとなり電波塔を横目に過ぎ、山工高笹谷小屋に出た。すぐ側が電波塔から続く林道で砂利道を国道まで歩く。旺文社のエアリアでは電波塔の下に有耶無耶の関へ向かう道があるはずだが。電波塔に入る道がそうだったと気づくのは家に帰ってから、この時は皆目見当が付かなかった。仕方なくそのまま笹谷峠へと向かうが、なかなか諦め切れず林道上を右往左往しているうちに30分以上時間を空費してしまった。笹谷峠の駐車場で一息入れてトイレにも入り仕切り直す。ここに水は無さそうだ。もう無駄に過ごしている時間はない。

  
左:八丁平、前山の奥にわずか雁戸山が見える
右:ハマグリ山手前からトンガリ山、山形神室

駐車場から登山道へと入る。最初は快適な笹道から始まるがすぐに九十九折の急な上り坂が始まる。笹谷峠からハマグリ山までの240mの登りだ。暑さに辛抱しながらゆっくり登った。縦走では峠越えがやっかいだと実感。急な坂道だけあって展望は良く、八丁平全体を眺めることが出来る。肩まで登るとトンガリ山や山形神室が姿を見せ、再び稜線歩きの雰囲気になってくる。そこから少し下って登り切ったところがハマグリ山、結構頑張って登ってきた割に顕著なピークじゃないのが残念。結構汗をかいたので息を整え、さらに先のトンガリ山に向けて歩いてゆく。名前は独立峰っぽいが山形神室の手前のピークと言った感じ。しかし登る方からすれば名前の通り、トンガリを感じさせられる事になる。最後の急坂は結構きつい。水を節約しているのも影響あるだろう。登り切ったトンガリ山の山頂は潅木に覆われ展望がない。

  
左:雁戸山から神室岳(仙台神室)、山形神室
右:トンガリ山手前からハマグリ山、奥に雁戸山、右奥は中央蔵王

トンガリ山から少し下っていよいよ山形神室への最後の登り。最初は斜度も緩く快適な足取りで進むが、さすがに山頂直下ははっきりしたピークを感じる。それもわずかで山形神室に到着。やはりここも潅木に覆われ、景色は限定的で座っていては景色も何もないがここで昼食。水はすべて使い切った。ゼリーも一つ消費。気持ちはあせるがこういう場合急ぐのは逆効果だ。幸い面白山まで大きな山はないが逆に登山道の状態が気にかかる。順調に行けば良いが。仙台神室から帰ってきた人に出会った。笹谷峠から往復の人達のようだ。

  
左:糸岳より神室岳(仙台神室)と山形神室
右:二口沢、仙台の町も見える

山形神室を立ち、少し歩くと神室岳(仙台神室)への分岐点、せっかくだから本当は神室岳にも行きたいが水も時間もないので今回は諦める。緩やかな山頂部を過ぎると無名の小ピークを縦走しながらアップダウンを繰り返す道となる。道はやや草付が多いがよく踏まれており全く問題ない。景色も良く、特に磐司岩を含む二口沢を望む景色は圧巻だ。仙台の町も見え、いよいよ二口山塊に入ってきた感を強くする。

  
左:林道二口線出合
右:二口峠

歩いてゆくうち徐々に周囲の樹高が上がってゆき、清水峠に着く。奈良時代以降仙台と山形を結び栄えた二口峠の一角で麓の高沢へ降りる道が続いている。あまり旧道らしい雰囲気はない。稜線沿いに樹林帯のトレイルが楽しめる気持ちの良い道を歩いてゆく。やがて林道に出合う。二口林道の県境でさしづめ現代の二口峠といったところ。ゲートは閉まっていたが山形県側だけがアスファルトで舗装されている。人工物があるとほっとするが、全く人の気配は無かった。少し休んでから林道を横断し、再び稜線に沿って登山道を歩く。林道はほぼ平行に走っていてもう一度林道に出合う地点が本来の二口峠だった。麓の山寺に降りる道があるはずだが看板は見つからなかった。ここはもともと山伏峠と言い清水峠へ向かう道とは宮城県側に少し降りたところで分かれていてそれを二口峠と言ったものらしい。

  
左:糸岳山頂
右:山形神室より糸岳、大東岳、南面白山へ続く稜線

もうそろそろ体もへばって来たがまだ糸岳を越えなければならない。二口峠から糸岳までの標高差は290Mほど、山形神室あたりから見ると標高も低く何でもないような山に見えたのだが実はこの日一番の登りがここだ。歩きやすい道ではあったが樹林帯を暑い時間帯に行くのだから水のない身としては大変辛かった。偶然だがゼリーを多めに持って来ていたのが幸い、これでノロノロとでも歩くことが出来た。糸岳の山頂に着くととりあえず木陰で休憩。看板が今までと違って立派な金属製になっている。いよいよ仙台市の管轄に入って来たらしい。景色は樹林に覆われ山形方向が辛うじて見られる程度だ。

       
左:笹に覆われた道
右:樋の沢避難小屋

糸岳を過ぎても樹林帯は続く。石橋峠でも木陰で風に当たりつつ休憩、もう体力の限界だ。あと一つピークを越えればもう降りだけだと自分を励ましフラフラ歩いてゆく。樹林帯が切れると途端に笹がうるさい。やっぱりあまり歩かれてないのかな。ちょっとした事でも心配が尽きない。ようやくの1132m峰の山頂は樹林帯の中。アップダウンもそうだが山頂が樹林帯と言うのもかなり疲労感が大きい気がする。しかしここまで来れば本日の宿、樋の沢避難小屋まで大きな登りはない。少し休むとあとはゆっくりながら一気に歩いた。小東岳との鞍部はヤセ尾根で風通しも良く気持ちよい。順調に小東峠で分岐を曲がり、どんどん下る。小屋に近づくにつれ道が良くなるのが分かる。最後に岩の窪みに水が流れている小川を渡ると避難小屋が見えてきた。とりあえず水。小屋前にザックを放り出して水分補給。それからようやく落ち着いて場所確保、食事の準備にかかる。渓流釣りの人達がイワナを焼いていたのを頂いた。酒も頂く。やはり捕れたてはおいしい。地元の人達らしかったが、登山なら朝日連峰がお勧めと言われたのが記憶に残る。やはり蔵王は登山の対象ではないのか。小屋は新しく20人ぐらいは泊まれそう、この日は10余人で場所も余裕。思いもよらぬご馳走にその夜は気分良く眠る事が出来た。トイレがないので外で適当に済ます。

  
左:大行沢(奥は三方倉山)
右:1216m峰より南面白山(後方は面白山か)

前日は良く飲んだが予定通り起きる事が出来た。初日、二日目と結構頑張ってきたがこの日ばかりは行程に余裕がある。明るいうちに仙台に着けばどこか町歩きに行けるかも。樋の沢避難小屋を出て小東峠に向かう足取りも何となく楽な気持ちになって来る。途中で同じ小屋に泊まっていた人達を抜かして最後の急坂を登り、稜線の小東峠に出て前日からの縦走の続きに入った。前日は歩くのに一生懸命で気付かなかったが稜線からは広々と景色が広がる。振り返ると1132m峰の向こうに糸岳、神室岳が望め、東に目を向けると大行沢の雄大な景色が広がる。海岸線の向こうに見えるのは太平洋か。小東岳の肩まで来ると南面白山も姿を見せて来る。いよいよ今回の蔵王縦走も面白山の山域を残すのみ、さてどんな面白い事があるのやらとくだらない事を考えながら歩き続けた。鞍部を越えた次の1216m峰への登りからはまた笹に覆われた道。しかも一直線の登降。特に下りは九十九折にならんのかと思うほど相当踏ん張りが必要だ。あまり歩かれてないのか季節柄なのか昨日から笹には苦労させられる。結構大変ではあったが登りはマイペースであせらずゆっくり。汗を掻き掻き南面白山まで到着した。振り返ると山形神室までの稜線が見渡せ、大東岳がどっかり存在感を放っている。北側の景色は潅木が茂っていて得られない。

       
左:笹原の道もこれは快適
右:滑りそうな沢も渡る

南面白山から下ってゆく道は景色も抜群、良く歩かれているのか広くなった笹の道はとても快適。ここからは気を抜けるかと思ったのもつかの間、山頂部を過ぎると樹林帯へ入りどんどん下ってゆく。鞍部を過ぎると尾根に沿った登山道は大東岳方向へと向かう。時間もあるしひょっとしたらと地図を見てみるが登山道は大東岳の裾を通ってゆくだけで権現様峠の分岐点からでも片手間で登れる様子ではない。ほぼ平坦な登山道、しかし何度も小沢を渡り越えて行かなければならないのがやっかいだ。そのうちの一ヶ所は滑りやすい赤土の沢で気を張り張り越える。とても気が抜けたものじゃない。権現様峠の十字路も迷わず直進し、面白山へと向かう。

       
左:奥新川峠
右:長左衛門平

面白山と南面白山を結ぶルートは面白山高原駅を起点として南から東、北へ周回するような形になっている。各山頂や峠にある分岐点はこの駅に向かって続いているのでエスケープルートが豊富で安心だ。権現様峠、奥新川峠、長左衛門平と一つ一つアップダウンを繰り返しながら樹林帯を歩いて行く。長左衛門平で昼食。ちょっとした平坦な草地があって休憩には最適の場所だったが鞍部だけに風が強くお湯を沸かす木陰選びに苦労する。ここで朝から初めて単独の人とすれ違った。

  
左:中面白山付近から月山、葉山方向
右:中面白山付近から面白山

長左衛門平からは一気に面白山へと取り付く。中面白山までの標高差は300Mなのに中面白山から面白山までは100M下って140M登るわけだから中面白山は面白山の手前のピークの様なもの。食事で体力も回復、潅木の茂る斜面は歩きやすい。どんどん登ってゆく。やがて尾根に出ると樹木の高さもさらに低くなり、展望が広がって来る。さすがに登りっぱなしは暑いが水があると本当に安心だ。中面白山に看板らしきものは見えなかったので半信半疑で通過する。それでいったん下って登り始めても上の空で、かもしかコースからの道と合流してちょっとびっくりした。ここまで来ればもう面白山の山頂まであとわずかだ。二泊三日の登山も登ってしまえばあとは下りだけと思えば山頂までの最後の登りも一歩一歩が貴重に思えてくる。良くやった、自分の事ながら良く頑張れたとほっとした。

  
左:面白山山頂
右:面白山から松島

  
左::蔵王方向(大東岳・南面白山・神室岳・中央蔵王など)
右::朝日岳方向(ちょっと見えにくい)

山頂には既に夫婦らしき方が一組いたが、休んでいるうちに6人ぐらいに増えた。面白山大権現の石碑が立っている。景色は正に360度の絶景。これまで歩いて来た蔵王はもちろん、船形山、月山、朝日連峰そして海に浮かぶ松島。素晴らしく何も言う事はない、見ていて全然飽きない。特に蔵王は今まで歩いて来た記憶を振り返りながら眺めると感慨もひとしおだった。

       
右:歩きやすいかもしかコース
右:かもしかコース登山口

十分に休憩して山を下りる。予定よりも時間は早かったが出来れば明るいうちに仙台へ着きたいので最短のかもしかコースから下りる事にした。電車の時間は予定の時刻しか記録してこなかったので少々気持ちが焦る。しかし登山道は最初尾根に沿った幅広い直線的な急斜面、雨でも降ってたら滑って地獄だろうと足を踏ん張りながらマイペースで下りてゆく。ふと岩木山の下山道を思い出す。長左衛門道の分岐に出るまでには斜度も緩くなり、あとは休憩を挟みつつ快調に歩く。終盤までひたすら尾根道。面白山高原駅の標高は440M、標高差は820Mもある。快調に行き過ぎた。南面白山手前のピークの下りから違和感のあった足へついにマメが出来てしまった。もう思いっきりと言う訳には行かず、普通に歩く。登山道は終盤に尾根を外れ急坂を下る事になるがそれもわずかで駅が見えてくると右へトラバースし沢に出合い、沢沿いに行くと道路に出た。駅の入り口は線路の向こう側なので橋を渡って表へ回り込む。駅に着いてがっかり。先の電車が出て10分足らずしか経っておらず、結局一時間待ち。無人駅だが待合室があり一人で足のケアをしたりのんびり過ごす。

  
右:面白山高原駅(切符券売機)
左:仙台駅

時間が来ると誰も居なかった駅も十人ぐらいの人が集まった。面白山の山頂で一緒だった人もいて山の話などする。ほとんどの人が山形方面へ向かう模様。そして再び人のいなくなったホームに仙台行きの電車がようやくやって来た。しかしドアが開かない。空調費節約とかで自分で開閉ボタンを押さなければ開かないのだ。私も北国の人だが、手動で開けるのは見た事があってもボタン式は初めてだったのでちょっと焦った。やっとの思いで電車に乗り込む。そのまま仙山線を仙台駅へ。明るいうちに着いたのは良かったが、さすがにこの時間から名所めぐりとはいかなかった。駅で牛タンを食べ、藤崎、三越、さくら野百貨店などで土産物を買い歩き回っただけでもう疲れる。時間になり駅に戻る。仙台駅から東北新幹線に乗り、大宮で寝台特急「北陸」に乗り換え、富山に着いたのは次の朝だった。そのお盆休み最後の日は予備日と言うことで何の予定もなく休息日となった。

余談 暑かった。そしてあまりにも持って行った水が少なく。水場も簡単には無かった。
幸いいつもよりゼリーの数が多く、なんとかなった。
縦走している人はほとんど無く、避難小屋に泊まる人も少なかった。時期を変えればどうなのだろうか。

イワナが取れる川がある。樋の沢避難小屋には是非トイレが必要と思う。
蔵王のイメージは大きく変わった。歩いた分だけいろいろな表情を見、感じることができた。