第4章 謎の美少女ライダー

湖の対岸にあるという秘密の露天風呂へ。夕闇せまる屈斜路湖の上空を雲がどんどん流れていく。そんな時、僕は一人のライダーに出会った。澄んだ瞳を持つその美少女に僕の心は奪われてしまった…

釧路川の流れ込みのすぐ上に眺湖橋というその名のとおりの可愛い橋がかかっている。
おそらく関はこの橋を通るだろうとしばらく待ってみるがやってこない。もう通り過ぎたのか?待ち合わせ場所の露天風呂に向かう。 逆風にさからって北上。アイヌ民族資料館のすぐ先にコタンの露天風呂はあった。誰も入っていない。さっそく入ろうかなあ・・・とも思ったが関の姿がみえない。ちょこっと心配になって道路へと探しにでる。和琴半島の方へ歩いていく。前からやってきたチャリンコの小学生に聞いてみる。 知らない、見てないよの返事。うーむ。時間的にもう着いてもいい頃だが・・・。 今度は前方からブッパパパッとヤマハ・セロー225がやってきた。

手を振ったら止まってくれた。さすが北海道を旅するライダーはちがうぜ!ゴーグルごしに見える目がとてもきれいな美少年ライダーだ。
「すいません。リックをしょった背のヒョロっとした奴見ませんでした?」

と聞くと、ちょこんと小首をかしげて
「さあ?見てないよ。うーん、いたかなあ?」
ええっ!?声は女性だ。顔をよくみると女の子である。たしかに、胸はふくらみ、ウエストはくびれている。ちょっと動揺してうろたえながら
「うーん、そうですか。ええです。どうもありがとう」
と礼を言った。ドッパッパッパとセロー一人旅、一見、美少年風姉ちゃんは行ってしまった。
 ふとわれにかえったオイラは一本道なのに見ていないということは、何かあったのかと心配になり足を速めた。

しばらくトコトコ歩いていると後ろからドパパパーとモーターバイクがやってきてUターンした。さっきの女性ライダーだ。

「いたっ!いたよ。向こうに」
「えー?どうしてすれちがったんだろ?」
「向こうも探してたみたいよ」
「よくわかたなー?」
と感心していると
「すぐわかったわよ」
ニコっと笑って
「背がヒョロっと高くてリックサックしょってて・・・」
ウフッとまた笑って
「一発でわかっちゃった」

またまたわれにかえった俺はわざわざ引き帰して教えてくれた姐ちゃんに関が無事とわかってほっとしたのもあって、とても感謝してしまった。
「ありがとう!」
と礼を言うと、うなずいて再びカッコよく行ってしまった。
うーむ。しびれるじゃないか。
んで、今度はいまきた道を引き返した。
 300 mぐらい行ったところで、関が見えた。さっきのオフロードライダーの姐ちゃんとなにか話をしていた。こっちに気づいた。俺と目があったとたん走ってきた。おいらもしらない間に走りだしていたようでお互いに走りよってしまった。


アホやなあ。
「どうしたー?」
「いやっ、ちょっと湖沿いに歩いてきたんです」
どうやらちょうどスレちがってしまったらしい。とりあえず、カヌーをおいてきた露天風呂のとこまで歩いて行く。落ち着いてみるとそこらじゅうにアイヌの民芸品のお店がいっぱいあった。関が歩きながら
「さっきのオフロード姐ちゃん、俺に露天風呂の場所聞きましたよ」
そうか!それじゃあと俺がヨロコブと
「でも、ちらっと見ただけで行っちゃうんだろうな」
と悲しいセリフを吐くではないか。そうか、そうかもしれんな。

露天風呂につづく道にセローがとめてあった。そして風呂のほうから、さっきの一見美少年風の姐ちゃんが帰ってくるところだった。やっぱりそうだよな。入っていきっこないよな。とがっかりしつつも、目があったので
「さっきは、どうも・・・」
と再び礼を言うと
「いえね、あなた本気で心配してたでしょ?さすがにほっとけなくてね」
とのこと。ふーん。そうだったのか。
「今日はここら辺でキャンプですか?」
と聞いてきた。
「うん。でもここ(露天風呂のまわり:アイヌの私有地)はテントをはれなくなってしまったので(前のアイヌの長老(おさ)が亡くなってから禁止になったらしい)釧路川の流れ込みのところに、はろうと思っているんだ」
「ふーん。そうなんだ」
「風が強いからね。あそこなら林があって風を避けれそうだったし・・・」
さっき上陸したときにめぼしい場所があったのでそのとおり言った。
「うーん。いっしょにはらせてもらっていいかな?」
(ええっー!それはなんとラッキーなんだあー。いっしょにキャンプ→ いっしょにおフロ→ハダカとハダカのお付き合い→最高にじゃあ! )という考えが頭の中をかけめぐる。しょうがないなあー。すかさずオレは
「ええですよ。多いほーが楽しいです。旅はみちずれいいますやん!」
とあせりながら舞い上がって、ずばりスケベジジイそのもののセリフを吐いてしまう。えーい、情けないぞ!姐ちゃんは
「うん、それじゃあ後で」
と行ってしまった。

その後で関の存在に気づいてハッとなった。
ユースホステルでは女の子に目もやらない硬派な男をやってたので、なんか悪いことしたかなーと思って振り返った。すると顔はグフフと笑っているじゃあないか!
オイオイ!
「いやあー、あの姐ちゃんいいですよー」
「おー。そうかそうか」
「いえね、きのうのユースとかでもそうでしたけど、北海道にきてる女ってみんなからちやほやされてそれがあたりまえみたいになってるのが多 いんスよ」
「(ふむふむ、そうだなあ・・・)」
「でも、あの姐ちゃんはどこかちがいますよ。一人でツーリングでしょ。 この時期はめずらしいですよ」
女性をみる目が同じなんだな。

テントをはりに釧路川の流れ込みにカヌーで向かう。
すでに陽は沈み、闇が近い。
関がこの時撮ってくれた写真があるがなかなかカッコ良い。
 我らがキャンプ地は眺湖橋のすぐ横で、屈斜路湖まで歩いて5歩。
 三段跳びをやるとボチャンだ。
 関とシェラデザインのテントを設置。姐ちゃんはダンロップのカッコいいテントをはる。俺らが道路側、彼女が湖側。
 俺もこの二、三日の野宿で手慣れているハズだったが、関と姐ちゃんはもっと手ギワが良かった。この二人のアウトドアグッズの知識は豊富で、聞いたことのないメーカーや便利なものをいっぱい知っていた。 俺がまさっているといえば、釣りとかカヌーのことぐらいか。さすがに年期がちがうなあ。それにしても、最近のアウトドアファッションというのはカッコよいものだなあ。そういやDT(2 ストロークのオフロードバイク)でさすらいの野宿ライダーやってた時に出会った、モトクロ野郎たちはファッショナブルだったもんなあ。つり道具屋でそろえちゃいかんよなあ。やっぱり、カッコがみすぼらしいと、気持ちまでみすぼらしくなってくるもんだからね。 

姐ちゃんのセローのナンバープレートをみると土浦ナンバー(注:茨城県のナンバー)なので、俺が(つくば市市民のオイラのバイクもこのナンバーなのだ)ヨロコンでいると、こそばゆい顔をした。取手からやってきている一人旅のオフロードライダーでS子さん、25歳。 北海道は何度もきているそうで、取手から自走でやってきている本格派ライダーだ。

 テントをはりおえ、さっそく関と露天風呂へ行こうとする。S子さんは買い出しに行くとのこと。ちょっとあてがはずれて、ガッカリしているとナゾめいた微笑を残してセローで走り去ってしまった。カヌーでもう一度行こうとすると、関がやりたそうにうずうずしていたのでやらしてやる。しかし、風はますます強くなっておまけに逆風である。あたりは暗く目を凝らさないと良く見えない。防水のヘッドランプをわたし、ひっくり返ったらすぐ岸にこいと注意する。 意気ようようと漕ぎ出した。

心配して湖沿いにブッシュの中を歩くと、倒木につまずいてこっちがひっくり返ってしまった。くっそー。道路にでて道ぞいに行く。まあ大丈夫だろう。 コタンの露天風呂は屈斜路湖から5mぐらい。まん中に大きな岩があって、いちおう男湯と女湯にわかれているが、奥でつながっていて行き来は自由。ゆぶねから屈斜路湖を眺めると最高に気分が良い。

 お風呂に近づいていくと、楽しそうな会話が聞こえてきた。男湯にいくと、すでに先客がいて、中年のおじさん四人のくわえ、なんと若い女性が三人も入っていた。(男湯のほうにだよ。) う〜ん。目が点。するとちょうどアルカディア号に乗った関がパドルを大きくかきながら登場した。すぐそばまできてから、ジャ〜ンとヘッドランプをつけ、サーチライトのようにこっちを照らした。 湖からやってきた関の出現にわいわいやってたこのおっさんと女の子の集団はなんだなんだなんなんだと騒然となったが、お湯につかっておおらかになってたんだろう。

「おおー、さすが北海道だー。湖からやってくるのかー」

とおっちゃんのひとりが楽しそうにいった。 関もビックリしたようであわててライトを消し、カヌーを引っ張り上げる。 さあどうしよう? 陽が落ちてかなり寒くなってきた。ぶるぶる。
「いいですか?」
「どうぞどうぞ」
 で、すっぱだかで風呂につかる。談笑に参加。
 なんといっても混浴なんか初めてなのでワクワクドキドキだ!
 女の子三人は若くてきれいだったが、一見お水さん風なのでどんな集団なんだと不思議に思う。
「わたしたちどこからきたと思いますか?」
「あててみろ、たぶんわからんだろうなあ」
とかいうのである。?・・・なんだなんだいきなり何を言い出すんだ?首をかしげていると
「あの・・、クナシリ、エトロフから帰ってきたところなんです」
「???」
「ワハッ、ハッ、ハッ」
「??????」
 自分がどこにいるのかわからなくなった草食動物のようにきょときょとしてしまう。
 関をみるとこいつもなんか、変な人達だなあーという顔をして首をかしげている。 まとめ役みたいヒゲのオッサンが言う。

「もうすぐ酒がくるぞ。いま若い奴を使いにやってるんだ、もうちょっと待ってな」

(なにい!そうか酒もやってくるのか!なんかよくわからん人たちだが、酒にねー ちゃんときたもんなあ。まあいい人たちだよなあ・・・)ぽかぽかのお湯とお酒と聞いたせいで、体が熱くなってきた。 すると一行のひとりが、屈斜路湖を指して
「あっちにつかってくるとキモチイイゾ、そして戻ってお湯に入ると、 もっとキモチイイんダ。」
ちゅうのでさっそく水を浴びにいく。関もついてきた。20mぐらい沖へ行ってもヒザぐらいだ。えいや!腹を打たないように飛び込む。

つかるとタマキンが縮み上がった。さすがに効くなあ〜。浅いので手をつかって泳ぐ。
たしかに、ほってった身体に気持ちいい。関があぜんとしてつったっていたので、
「なんにもしないから・・」
と笑いながら近づいていって足ばらいをかける。しかし、読まれてて転ばい。いい足腰をしてる。 寒くなり走ってもどる。ふーあったけえ〜。フルチンでたむわれあってた俺達は女の子たちに親近感を与えた(さすがにそれはないよなあ)のか、むこうも胸をかくすのをやめて、近づいてきた。いい匂いだ。いいぞ!いいぞ! しばし、旅のはなしをする。 だれかがやってきた。ん? 酒がきたのか?ワイシャツを着た品のよい人だった。にこにこしながら
「あのう、もうそろそろよろしいか?」
「あー、うん。そうだな」
なんと、ハイヤーの運転手さんで、この一行は、ハイヤーを待たしてお風呂につかっていたのだ! ヒゲのオッサンが名刺をくれた。”ピースボート”とでっかく書かれたしたに主催者、石黒広信とあった。

ピースボート?あれっ?どっかで聞いたことがあるなあ。そうだ!札幌にいた時、新聞やテレビで何回も報道されていたやつだ。確かパスポートとか、ビザなしで北方領土に住む人々と交流しようという団体だ。そうか!このあやしげな一団はその主催者グループだったのか! 今度は北朝鮮のピョンヤンへ行く計画を立てているそうだ。
「いっしょにくるか?ん?」
とヒゲのおっさん。 そんなことやってるよこで、女の子たちが服を着に湯舟からあがっていく。どうしても目がついてちゃう。おれのすぐ前にいた子は黒いパンテイーのまま入っていたようでそれがおまたにはりついて、おおおお! 横に目を移すと、あとのふたりはすっぽんぽん!逆光でよくみえないけど若草がちらりと・・・・うーん。たまらんなあ!

隣で関がごにょごにょしている。
「どうしましょう。オレ、ビンビンで・・いやあー、たまらんですよ〜」
いやもう、わっはっはである。
「それじゃあ、お先に」
「気をつけてねー」
「がんばってねー」
と言って去っていった。
おっさん達もこちらはあまりうれしくない着替えシーンを見せつけて帰って行った。

うーん。もっとくわしく旅の話が聞きたかったなあ。名刺を見ながら、関が
「ふーん。おれ最初はエトロフ、クナシリから来たとか言とったから、なにをぬかし とるんだこいつらって怒ってたんスけど、ほんとっだったん スねえー。いやあー、 すごいなあー」
とたいそう感激していた。うーん、確かに、そういう時の人たちに遭うとは偶然にしてはすごいな。
「いやああ、いいですねえー。ピョンヤンいこうかなあ?」
ホント、いっしょにいて退屈させない男である。

ん?誰かに見られている!
 ぱっと横を見ると女湯の方に誰か入っていて、こちらをじっとみているではないか!
 暗くてよくわからないが女性のようだ。なんか俺の顔を見ているようだぞ!
 あせって、ぱっと目をそらした。
「????!」
 またおそるおそる目をむける。・・・やっぱり、こっちを見つめている。
 なななっ、なんと、オイラのほうににじりよってくるではないか!
「★@%☆☆£!」
 こんなイイコトばっかり起こってヨイノダロウカ!ほっぺたをつねろうかと思ってると、つねる間もなくすぐそばまで、その女性はやってきた。
 おもむろに僕の頭のすぐ上の岩に片足をのせた!そしてぐぐっと腰を沈めてくるではないか!
自然、お股をがどんどん迫ってくる。
「さあ!おなめ!」
「ううっ!」
僕はちょっと臭う草むらをかきわけ口をちかづけていっ・・・

なんてことはぜえ〜んぜえ〜んなくて(しまいにゃ殴られるな・・・)
しっかりタオルで隠して湯舟のなかをゆっくり近づいて来ただけだっだ。
「あのお・・・、さっきの方ですよね?」
ああっ!なんだ!ライダーのS子さんである。
「あー、いや、これはどうも・・・。入ってたの?」
「うん。なんかいっぱい人がいて、にぎやかだったんで、いないのかーと 思ったよ。」
おおお! まさか、いっしょにオフロに入るぞーという、さっきの下心まるだしの計画が、作戦をねるまえに、すでに実現してしまっていたとは!
そーか。あの謎の微笑みは、こーやってオイラにしあわせを味あわせてやろうかなーどうしようかなーの微笑みだったのか!(ちがうって!)
 髪をアップにしていて(わたくしの女性の体のなかでもとくに大好きな)うなじがもう、色っぽくて色っぽくてそれはもう素敵なのであります!
ほのかな湯気ごしに見えるこの女性(ひと)は、それはそれはたいへん美しい人でした・・・
 じーと見とれてると
「なに見てんのよ!」
とハズかしそうに逃げていくので追っかけていく。女湯の方に入ってしまった。それも
「いやあー、まさかいっしょに入れるとはなあ。ハハハ、ウレシイなー」
とかいうシラジラしいセリフを吐きながらである。いやあ、はははは、
はぁ〜、われながら情けない。
「なんかとっても楽しそうだったけど、なんだったの?」
というので、いやあー、それはね、こうこうこうだったんだと説明しているうちに関も女湯にやってきて、会話に参加。談笑になった。
 ずーっと浸かっていたのでのぼせそうになった。
 岩に登る。
 湖からの風が頬をなぶっていく。
 冷たさが心地いい。
 いい風だ。

いろんな話をした。会話からもこのつれあいふたりの野外生活の実力のほどがうかがえる。
 S子さんは
「わたしはプーよ(注:プータロー=定職を持たない自由人のこと。お○ らのことではありません)。OLを五年ぐらいやってたんだけどやめっ ちゃった。今はバイクであっちこちまわってるの。もうすぐ二十六にな ちゃうから、それまでにオーストラリア一周にでたいの。今、準備中  なんだ。(注:オーストラリアのワーキング・ホリデーは二十五歳まで) 」
という”肝ったま姐ちゃん”で、一騎当千のつわものだ。
 岩に座って、男の俺でさえほれぼれするような遠い眼をしてこの女性は語った。


 俺も関もたちまちファンになり
「姐サン(あねさん)!」
「姐ゴ(あねご)!」
と尊敬をこめて呼ぶようになった。

 なんか、こうゆうキャンプをしてあちこちを放浪する人のことをキャンパーと呼ぶそうで、そのキャンパーには通名(とおりな:コールサインのようなあだ名)がある
んだそうだ。 関の場合は[BOY]。理由は若いからだ。十六の時からこういうのやってたらしい。歳をとっても通してほしい良い通名だ。(後で聞いたらシエフという調理師キャンパーと行動をしてたことからコンビとしてなずけられたそうで、給仕をするボーイからきているとのことだった。しかし、ここはオイラの勘違いのままBOYで通すことにする) S子さんは
「えー、あたしはないよー。そんなのー」
というので満場一致(ふたりだけど)でめでたく[アネゴ!]に決定!
 俺はむーんと考えたあげく、仲間で結成した「オラオラ隊」の隊長をやっているので[隊長(タイチョー)]というところに落ち着いた。
 BOYはチャリダー、アネゴはライダー、隊長はカヌーイストという三者三様のユニークなパーティができあがった。
 すごいぜ!すごいぜ!すごいぜ!もう無敵だぜ!
 こうしてオイラのはじめての「露天風呂混浴大作戦」は大成功のうちに幕を閉じたのである。ちゃんちゃん。
うらやましいだろ?(なっ?なっ?)   またもやつづくのであった。