イリオモテ島旅日記2

2日目(4月30日曇り時々雨) 石垣島〜イリオモテ島(大原→仲間川源流)

「おきなさい!」
「たべなさい!」
「のりなさい!」
「ここで、弁当買いなさい!」
「あそこで、切符買いなさい!」
「帰ってきたら、ここ(民宿)でバイトしなさい!」

(どうやら、カラフルばあちゃんは、おれの事を最後まで学生だと思っていたようだ)
この矢継ぎ早のしなさい、しなさいマシンガン攻撃で、本日もクラクラしていると、いつのまにか、西表島に向かうフネの上にいた。なんということだ!
おおおお、おばあちゃーん!!!

こちらのお年寄りは、やたらとパワーがある。

威厳まで、あるもんだから手に負えない。子どもに、何かとかまいたがる。これでは少年少女達はたまったもんではないだろう。
オイラの親友、波照間永樹が石垣島から出たかった気持ちがよくわかるよ、今なら。

自由っていいなあ。

石垣島から西表島に渡る船には、西表島の東南部にある大原港行きと北西部の船浦港行きのふたつの航路があるのだが、おばあちゃんのおかげで、何も考えず、大原港へやってきてしまった。

しかし、困った。石垣の本屋でイリオモテの地図や情報を集めようとしてたのだが、僕の手には、離島情報というガイドブックしか情報源がない。まあ、なんとかなるだろう。

島をすこし歩くと、でっかい蝶々が飛んでいた。すぐそばで写真を獲っていた男の人が葉に止まった蝶をぱっ、とつかんだ。 なんて鈍い蝶なんだ。面白そうに見つめていると、

「オオゴママダラというんですよ、ホラすごい匂いがするでしょう?」

お腹からでてる生殖器を押し出してみせて、

「これでメスを惹きつけるですよ」

と、オイラに解説してくれた。

「ふーん、青虫に良く似た匂いですねー」

関心しながら、答えると、

「そう、鳥に食べられないよう、毒のある草を食べて身を守るんです。

なかには、そんな毒持ち青虫に似せて、あっ、それを、コピーと言うのですが、

それで身を守るしたたかなヤツもいるんですよ」

西表に見せられて、何度も足を運んでるという昆虫物知り青年とハナシをしている内に、ようやく元気が戻ってきた。それにしてもこの島にあつまってくる人はヘンテコな人なんだな。島もタダモノじゃなければ、旅行者もタダモノではない。ましてや住んでいる人は…嬉しくなる。

大原港横より出港

昆虫兄ちゃんと別れた後、むしょうに、不思議生き物に合いたくなってきた。

行くあてもないが、港に流れ込む仲間川というマングローブがニョキニョキ生えている川を溯ってみよう。港のすみっこで、いそいそ、グラブナーを膨らまし、出港。

そのまま仲間川を溯る。

橋を過ぎたところで、大富から出港してきた、シーカヤックに会う。青年2人、溌剌とした女性1人のパーティだった。近くのマリンレンジャー金盛で、シーカヤックを借りたとのこと。そんなに簡単に貸してくれるなら…超過料金払って、(ウン万円も)、重たいカヌーをもってきたの悔やんだ。

西表島は日本有数の自然フィールドだけに、あらかじめ下調べしたところ、たくさんのツアーは見つけていた。個人にレンタルさせて自由に漕がせてくれるとこなんてないだろうと早々とあきらめていたのだ。

仲間川の河口

僕は、決められた計画やルートじゃなく、自分の行きたいところへ自由きままに旅したかったので、ついついツアーを敬遠してしまっていたのだ。マングローブの川を溯るだけなら、危なくないから簡単に貸してくれるらしい。

映画のようにはしゃぎ、青春そのものの若者達のグループを追い抜いて、ぐいぐい漕ぎあがる。川をカヌーで溯るというのは始めてだが、流れはほとんどないし、マングローブのにょきにょきした根っこを眺めながら遡上するのは面白かった。 数キロ上がると、川は狭まり両岸の森がぐっと近くなった。マングローブとは木の名前ではなく、熱帯地方に生える樹木の総称だ。オヒルギや、メイヒルギ、サキシマヒルギなどのヒルギ類をまとめてこう呼ぶ。干潮時には根っこが外気にさらされ、タコの足のように面白い姿をみせ、満潮時にはすっぽり汽水に漬かってしまう。

オヒルギの枝で、羽を休めていたカワセミ発見した。近づいても逃げない。愛くるしい表情を間近で観察できた。飛翔した姿を見たくてパドルでちょっかいだすと、鮮やかなルリ色を見せて飛び立った。が、すぐ近くに止って、こちらを振り返る。可愛いなあ。奇麗だなあ。

いろもて不思議植物、ギランイヌビワ

突然、ポツポツと大粒の雨。ヤエヤマヒルギの葉陰へフネを運んで雨宿り。横塚真己人さんの「西表ヤマネコ騒動記」を読む。イリオモテヤマネコの親子の写真を撮ろうと思い立った男の奮闘記だ。以前から読みたかった本だが、今回、イロモテ行きが決定した日に、文庫本を見つけ購入しておいたのだ。期待どおり最高に面白い!
イリオモテに関して基礎知識を持たない僕の大切な情報源になった。

バサバサという音に目を上げると、全長1mちかいヤエヤマオオコウモリがとんでいく。

後ろの森から、

「キョロロロロー」

尻上がりなアカショウビンの声。繁殖期を迎え、パートナー探しに余念がない。

いつしか雨が上がっていた。遡行を再会。どんどん透明度が上がり水深が浅くなってきた。

西表で最大のサキシマスオウの樹がある場所に到着。 サイキシマスオウの周囲には、木材で足場を組んであった。屋久島の縄文杉と同じ措置なのだろうが、どうもいただけない。まあ、人が多いとしかたがないのだろう。しかし、高さ2mを越える板根(バットレス・ルート)をもったサキシマスオウの樹は圧倒的な存在感がある。板状になった根っこがプロペラのように伸びており
自然の造形の不思議さにしばし言葉を失ってしまった。
この板根は昔はフネの舵にも使われたそうな。
オヒルギやサキシマヒルギなどのマングローブの奥で、不思議スクリユー根っこはがんばっているのであった。
干潮時なので、観光船はここまでこれず、カヌーで上がってきた僕一人だったので、のんびりサキシマスオウの樹とハナシをした。再び出航。さらに浅く、透明になっていく仲間川。
巨大な魚が水中を走った。
前方で横っ飛び。なんと50cmを越えるボラだ。

とうとう、フネの遡行の限界点に到着。

キャンプサイト

夕方近し。雨がまた落ちてきた。
今日はここで泊ろう。ジャングルで一泊だ。
コノハズクか「コホー」と泣き始めると、夜が訪れ、頭上でホタルの光が流れた。
深夜、満潮で1m以上も水面が上昇。テントのすぐ前まで水がきた。
カヌーに乗り込み、夜の水路を探索。イリオモテヤマネコやーい。でておいでー!
なんという濃厚な気配だろう。うれしくなる。ドキドキしながら眠りについた。

(この地域は野営禁止地帯というのを後で知りました。みんさんは気をつけて下さい。雨だったので、たき火をしなくてよかった…)