イリオモテ島旅日記7

7日目(5月5日。曇り後雨) 月ケ浜〜赤離島対岸

昨日も目いっぱい身体を動かしたので、筋肉痛だ。 まあ、これからは道路が並行して走る区間だし、危険はないから、のんびりいこう。

ゆるんだ気持ちで、スタートしらのだが、西表一周の中で一番苦しむことに なろうとは夢にも思っていなかった。

西表西部地区のキャンプ場やオシャレなコテージも多い月が浜から、 宇那利崎を目指す。 断崖の上の草原は、素敵な光景だったが、宇那利崎をまわった瞬間、 海は唸っていた。

真向かいから強烈な風が吹きつけ、うねりは2mを越えている。

本能的にヤバイと感じたが、出発したばかりの元気と 方向転換してサーフ状態になった時の危うさもあって、このまま進むことにした。

右の西表島岸には、リーフに外からのうねりがまともにぶつかって 巨大なスタンディングウエィブをたて、白くブレイクしていた。 あそこに吸い込まれてはひとたまりもない。

どんどん巨大になってくるうねりはとうとうボトムとトップで3mを越え、 感覚的にはほとんど垂直に登るように波を越えた。 時々、ブレイクした波頭から水がフネにおちてきて頭にかぶった。

余力もくそもない。いっぱいいっぱいのフルパドリング。 しかし、向かい風で進みは遅遅としたものだった。 それでも宇那利崎の形が少しづつ変わっているので、進んでいるようだ。 相変わらずリーフの際の巨大な砕け波地帯が続き、西表島に近づけない。 リーフはあらんことか、前方の鳩間島まで続いているかのようだ。

絶望しそうになるが、それなら鳩間島にいけば良いだけの話だと、 気持ちを切り替えた。鳩間島の南西岸なら、この北東の向かい風は 島影になっておさまるはず。そこから鳩間島に上陸すればいい。

そう思うと、気持ちもだいぶん落ち着いた。 いまにテンプクするかとヒヤヒヤだったゴムカヌーも巨大な うねりのまっただなかだが、木の葉のように波のエネルギーを 逃がしていく。

なにより、操船している僕がこの状況を楽しむようになてきた。 以前のように海がめを探す余裕さえでてきた。

ふと。右側の西表島側のリーフでのブレイクが治まっている 場所が見えた。

チャンス!

さらに力を振り絞ってリーフゾーンを越えた。

ヘロヘロだたが、凄い達成感がやてきた。

バカだなあ。アホやなあ。

脱力して油断していたら、ブーマーが作った返し波に、 テンプクしてしまった。しかし、岸はもう目と鼻の先。 ここはリーフにまもられた温水プール! 泳ぎながらゆっくりフネをひっぱって上陸した。

しばらくそこで、放心状態になっていた。

すこし休憩してから出発。 しかし午前中のこのバトルで、力と精神を消耗したのだろう。 リーフに守られた静水を力なく西へ移動するだけであった。

巨大な船浦湾を横断

このおくにはピナイサーラの滝で有名なヒナイ川や カヌーでしかいけない西田川などがあるが、 いまは好奇心がわいてこない。

また、いつかこの島にはやってくる。そんな予感が したので、全部食べつくさずに少しとっておこう。

赤離島が見えた。 小さな浜に上陸した。すぐ傍を道路が走るが今日はここまでにしよう。

きのうの祖内のシーカヤッカーの篠田さんの言葉が思い浮かんだ。

ここで、一人で夜を過ごすには、今日の冒険は大きすぎた。 道路にでて、西へ向かう車をヒッチハイクする。

軽トラに載った船浦の親子に拾ってもらって、船浦へ。 そこからバスで祖内に向かった。

篠田さんは留守だったので、商店でおかしを買って 待っていると夕立が。暗くなってどうしようとおもっていたら、 ジープがやってきて、篠田さん宅に停まった。

おりてこられた長髪のシルエットは篠田さんだった。

声をかけると

「あー、いたか。今晩仲間と飲むこといなったんだけど、 いしょにいかないか」

とさそってくれた。 西表島の人たちと話せるなんてねがってもない機会だ。 そのまま居酒屋さんに向かった。

東部の南風見田ビーチでキャンプ暮らしをしている「仙人」 さんや、いろんなキャンパーネームを持つ人たちがやってきた。

東部には飲むところが少なく西部までよくやってくるとのこと。

冬の間、さとうきびから黒糖を作る製糖工場でアルバイトを していた仲間なので、みんなすっかり仲が良い。

南岸の大浜(うはま)で出あった、「うみんちゅ」と 「シュー」のことを告げると彼らもアルバイト仲間だそうな。

「あいつら、危ないなー。危ない目にあわないとわからないな。一度」

と篠田さん。悪天には漕ぎ出さないように釘をサシテキタことを伝える。

とはいえ、本日のオイラはダメの見本で、あわや海に消えて散るところだった。 正直に今日の行程を話すと、

「今日の風だと、宇那利先から向こうは危険なんだ。  絶対停滞していると思っていたよ。」

アルバイトが終わってアルバイト仲間で、東部地区から南南東にある 新城島(パナリ)までシーカヤックツアーに参加した時に漕力のなかった 女の子がいたので、流されてしまったと参加してたメンメンから 生々しい話を聞いた。当の本人はケロっとしていたが、 恐ろしいことだ。海や自然には人間は勝てない。 すっかり、油断してしまった自分を且を入れた。

楽しい宴の跡は、篠田さんの赤瓦の家に場所を代えてシーカヤック談義。 篠田さんの経験は凄く、また、シーカヤックについてのポリシーも しっかりしていて、とても参考になった。

僕も友人たちがやった日本縦断をサポートしたので、少しはシーカヤックに 詳しい。話は尽きなかったが、ロデオカヤックのビデオを見ながら、 気を失うように落ちていた。