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ハッピ姿のいなせなオネエチャン二人組みの踊りをマネするオラオラ隊。馬が嘶いている動作を模倣するかのように、後ろへ激しく体を反らせる動きはこの『春駒』という踊りに不思議によく合っていた。 |
BOYは、どうやらナナメ前のハッピ姿のいなせなオネエチャン二人組みの踊りをマネしているらしい。その二人の踊りは普通の踊りとは違うオリジナルなものらしく、一連の動作(ムーブ)の出だしに後ろへ激しく体を反らせる動きをいれる難易度の高いものだった。馬が嘶いている動作を模倣するかのようなその動きはこの『春駒』という踊りに不思議によく合っていた。しかも反りかえる時にポニーテール風に結った髪がまた文字どおり馬のシッポのようにピョンとはねかえり、おおっ!やるねえとばかり粋でかっこよいのだ。 動きにキレがあるのがまたいい。ホレボレするぜ!
好奇心まるだしのオラオラ隊のメンメンは恐れ多くもこのオリジナル踊りを会得しようとチャレンジしはじめたらしく
『あちゃー』
『あかん!あわんぞ!』
『むずかしいなー』
『いててっ!腰が!』
なんていう声が聞こえてくる。
『わかった!コツはつかみましたー!』
とBOYの声。俺の方をむいて
『ここで、ソルんですよ、タイチオー!』
と教えてくれる。
『ホラッ、ココ!ソルー!』
と目を輝かして反りかえる瞬間に合の手をいれる。
『ココ!ソルー!』
逆方向に踏み出して
『ハイ!ソルー!』
陽気でデッカイBOYの合の手かコダマする。たてちゃん、オレもその踊りをマスターしようと悪戦苦闘。観光客や踊っている人達もなんだなんだとこの
『ソルー!ソルー!』
と連呼するオラオラ軍団をみて呆れるやら、大笑いするやらたちまち注目を集め始めてしまった。そんなバカドモを見てその粋なオネエチャン二人組は恥ずかしがりながら笑うのである。それをBOYが見逃すはずがなかった!目があった瞬間に
『師匠ー!教えてくださいよー、シショー!』
BOYのアタックに大笑いのおねーちゃん
と尊敬のキラキラ眼差し攻撃でもって声なんかかけたりするものだから、そりゃあもうこそばゆそうにしている。ホッペがまっ赤っかだ!上気しているのか?はてまたこんな怪しそうな連中にまとわりつかれてハズかしかったのか?
なんんだか、いい雰囲気で打ち解けはじめたようだなと思いはじめたとたんにトテテテ・・・とどこかに消え去ってしまった。やっぱり身の危険を感じたんだろうなあ。 正解、正解。(笑)
踊りの輪を一周し終えた頃、ビールを片手に歩いているハリゲーに出会った。
『おう、ハリゲー』(とオレが声をかける)
『ありゃ、ハリゲーじゃねえか!』(とのもやんが相づちをうつ)
『ハリゲーさん、どこにいってたんスかあ?』(とBOYがたずねる)
もうすでに踊りでハイになっている俺たちをみて、ビールを軽くあおちながら、
『なんだ、オドってたのか・・・、みんな』(とハリゲーちょっと驚いている)
『ハリゲー、おどろうぜ!』
『よっしゃ!いっちょう踊るかな』
ゴキュゴキュッとビールを干してハリゲーも踊りに加わった。
ナゲーはと聞くとテントに戻ったとのこと。
みんなと別れて、ナゲーをさそいにテントへ帰る。
ナゲーのクソオヤジはテントから一人寂しく川の流れを見つめていた。
『オヤジ!どうしたんだよ?』
と声をかけると、
『おおっ、トミトミかー、どこにいたの?』
とナゲーが可愛く答える。
『踊ってたんだよ!みんな踊ってるぜ!オヤジ、いこう!』
『よし、そだなー。いちょう、踊るか!』
俺はよくこのナゲーのことをドレイだとかクソジジイとか呼んで貶んだコトバでからかっているけれども、本当のところはその逆ですごくこの男のことが好きだ。尊敬さえしている。この男ほど純粋(ピュアー)で素朴で優しい奴を俺は知らない。
オラオラ隊の隊員達はそりゃあもう強くて、優しくて、いい男達がそろっているんだけれどもやはりこのナゲーが群を抜いている。難をいえば優しすぎるところが弱点だろう。
俺は奴に大きなカリがある。(けしてあのカリではない。どうでもいいけど・・・) ハテルマ部屋で繰り広げられたスパーリングでチキンウィングアームロックを極められてギブアップしてしまったこと。
俺たちの夢『X1』(注:ナゲー、ハテルマ、ハリゲー、俺の四人で日本をカッコよくしようと設立した会社。ナゲーの呼び掛けで1991年春設立。現在活動停止中。オラオラ隊でのバカ騒ぎキャンプ合宿が社員旅行で唯一の活動といえばいえなくもないなが)を封印してまったこと。
風薫る5月、ヤツはカナダへと旅立った。 何かを捜し求めて・・・・
帰ってきた時には、俺は約束を違え就職を決めてしまっていた。すんなりおさっまたわけではなく一悶着も二悶着もあったすえの決定だとはいえ、ヤツの気持ちを裏切ってしまったことに変わりはない。しかし、ナゲーは俺を責めたりはしなかった。 各人が力を蓄えて、大きくなってまたやろう。 それでいいじゃないかと優しく笑いやがった。
その寂しそうな横顔が目に焼きついてはなれない。
あの時の約束。
あの時の熱い想い。
消えてしまったわけじゃない・・・しかし・・・
『トミトミに社会人が勤まるとは思わなかったよ。すぐに上司と喧嘩してやめちまうとおもってた・・・』
酒の席でポツリとあいつが洩らした台詞がいまも耳に残る。
今回のオラオラ隊の旅も仙台から茨城県の関城に3日間だけ帰省していたナゲー(こいつ)をだまくらかしてむりやりつれてきたのだ。明日中には仙台に帰り着かなくてはならない。なのにそぼふる冷たい雨の中で独り川を見つめているなんて。
『そうだな。踊ろうか』
欄干の光で逆行になった顔をこちらに向ける。
力石徹とシルベスター・スタローンを足して2で割ったような顔にほれぼれするような優しい笑みを浮かべる。ナゲーよ.....
そのときテントに誰かが帰ってきた。
『おっ、ナゲーか、なんだ、オヤジ!まだここにいたのか!』
ハリゲーである。
『いたのかとはなんだよ、オメーはよう!』
とゴツイ顔に似合ない可愛い声をあげるナゲー。
『ハリゲー、どうしたんだ?』
とオレが、聞くと
『いや、ちょっとね』
とテントに消え、中でゴソゴソやりはじめた。
ナゲーとふたりで土手をあがろうとすると、テントからハリゲーが這いだしてきた。
浴衣、手拭い、下駄でフル装備している。気合いバリバリの踊り用スタイルだ。
『おー!やるなーオヤジー!』
と素直に驚くナゲー。
『こうじゃないと気合いがはいんねえんだよ!!』
それにしてもハリゲーの祭りに対する真摯な姿勢には頭がさがる。本当にこの郡上踊りを愛してやまないんだなあ。 3人でみんなに合流。暫く踊ったり屋台で買い食いしているうちにのもやんとBOYの3人になってしまった。街の中を流れる小川に足を浸してビールタイム。
変なオヤジが話し掛けてきたり、一緒に写真に写って下さいという女性がいたり(残念ながらうら若い人ではなかったが)とても面白かった。 疲れと酔いでいつのまにかテントに倒れ込む。 爆睡。こうして長良川での第一日目の夜は静かに、いろんな奴らのいろんな思いをのみこんで更けていくのであた。
8月15日 二日目 (曇りのち雨)
疲れのせいで寝過ごした。8時30分起床。外は薄曇り。ナゲーの姿がみえない。
テントの何処にも見当たらなかった。他の隊員たちは爆睡。 嫌な予感がした。いっしょのテントに寝ていたはずのハリゲーをゆり起す。
『あのバカ..かえっちまいやがったよ。6時半にたたき起こされて駅までおくらさ れたんだ....』
と眠い目をこすりながら可愛く答える。
『・・・・・』
がっかりした俺をちょっと慰めようとしたのか
『みんなによろしくっていってたよ』
といって、ハリゲーは再び深い眠りにおちていった。
なんていうことだ!ひっそりと帰っていってしまいやがった!なんて野郎だ!
みずくさいじゃねえか!オヤジよう.... 別れも告げずにいっちまうなんて....
悲しい気分になる。
無理やりダマクラかしてゴーインにつれてきたのに何もしてやれなかったな...
オヤジ.... 肩を落として新橋に上がった。
ふっきるように勢いをつけて欄干に飛び乗った。
眼下に白く渦巻いた吉田川が小さくみえる。
『街から街まで...明かりがまったくないんだ。そんな真っ暗で真っ直ぐな道を車で走っていると、一人で宇宙を旅しているような気分になるんだ。 遠くに街の灯が見えてくるとそれが真っ暗な空間一面にひろがった銀河のようで、すっげえ綺麗なんだよ』
カナダのエドモントンで一年近く過ごしたアイツはそんなことをほざいてたっけ..
『バカオヤジがよう!』
大きく息をひとつ吸い込んで宙に飛んだ。
高さは約10メートル。水面までたっぷり3秒はかかった。 ドボオオオン!
飛び込んだ時の衝撃と水の冷たさが心地良かった。
最初にこの吉田川で遊んだのは3年前の夏だ。
そのときのことは今も鮮明に覚えている。橋の上から眺めた吉田川は魚で足の踏み場もないほどだった。少し深い淵にはでっかいコイが悠々と泳いでいるのも見えた。 水中メガネ、あしひれ、シュノーケルをつけて潜ると魚たちに取り囲まれる。
岩に身を隠し目だけひからせているウグイ。
体に当たらないのが不思議なぐらいのオイカワの群れ。
ナイフのように鋭くキラリと体を反転させてかすめていアユ。
流れの中で、上流を向いてホバリングしているアマゴ。
ブルーのストライプと赤い斑点が水墨画の世界に彩りを添える。息をのむほど美しい。
時を忘れるとゆうコトバはまさにこんな瞬間のためにあるのだろう。
水から上がりふと気付くとまわりが子供達でいっぱいだった。
正午近くなってあったかくなると吉田川名物ミズガキたちがやってくる。小学校横の八幡橋の下流の荒瀬から町役場横の新橋の下手の河原まで、オスガキもメスガキも流れてくる。川に子供たちの歓声がこだまする。水面から10メートル以上の高さの八幡橋の欄干から飛び込む猛者もいる。
小学校高学年のガキ大将の少年が下級生に飛び込み方を教えていた。 八幡の少年たちが男になるための儀式なのであろう。 橋から川を見下ろすと恐ろしく高い。 人間には一番怖いと感じるたかさがあるが、この10メートルという高さがまさにそうだろう。飛び込もうか飛び込むまいかと躊躇する男の子。年長の少年はけして飛び込むことを強要したりはしない。ただ飛び込む。こんなのたいしたことないぜ!と宙に踊りだして数秒後、高い水柱をあげる。飛び込むという意思、勇気が大切なのだ。
少年が男になるために必要なもの。やらされるのではなく自分でやること。翔ぶというシンプルな行為にそれだけの意味がこめられている。
なんだかそのとき俺は無償に飛びたくなった。 橋の上にいって欄干を跨いだ。
足下には底まで見える吉田川。迷っていた少年が俺を見上げて聞いてきた。
『飛ぶの?』
うなずいた。勢いをつけて飛び込もうとする。しかし!足が竦んでしまって前へでない。 欄干から手をはなせない。恥ずかしい話だが、その時、俺はビビッていたのだ。 すると、さっき飛び込んだ年長の少年が水滴を滴らせながらまた橋の上にやってきた。逡巡していた少年に一瞥をナゲーておもむろに欄干の上に立つ。 俺のすぐ隣だ。 深呼吸をし、精神統一しているのがわかる。 いまさっきあんなにわけもなく飛び込んだのに、やっぱり緊張するのか?
横顔に緊張が走る。 少年が空に舞った。 大きく手を広げ、胸をそらせて・・・
翼のようにひらいた腕がじょじょにせばまり、頭の横に持っていからる。
どんどん小さくなり水面に足が消えると小さなスプラッシュがたった。
みごとな頭からの飛び込みである。
感動していた。
恥ずかしいけれども猛烈に感動してしまったのだ。
岸に這い上がった少年がこちらを見上げた。
その時・・・
俺の体は宙に踊っていた。
学校橋からの飛び込み。とりゃあ!
『小さかろうが大きかろうが、度胸は度胸!』
あの飛んだとき不思議な感覚は今でも忘れられない。 そして水にうけとめられる感触。
それが今、脳裏にあざやかに蘇えった。