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王の剣士 番外 「バインド」


 ふと、何かの気配を感じて目を開ける。
 いつの間にか寝ていたのだろう、既に陽は落ち、辺りは薄い闇に満ちていた。
 すぐそこの茂みに息を殺している気配がある事に気付き、バインドは軽く眉を顰めた。全く上手く隠しきれてはいないが、殺意や攻撃心がある訳でもない。
「誰だ」
 起き上がると、前方の茂みに声をかける。
「おい、出て来いよ」
 暫くの沈黙の後、がさり、と茂みが揺れて、小さな子供が姿を現した。
「ああ?」
 意外な姿に軽い驚きを覚え、眼を眇めると、子供はびくりと身を縮ませた。
「――昼間のガキじゃねぇか」
 子供は暫らく怯えるようにバインドを見つめていたが、やがてそろそろと近寄ってきた。少し離れた場所で立ち止まる。
「何の用だ?」
 そう聞いてから、バインドはふと可笑しくなって、薄い笑みを刷いた。
(こんなガキが、俺に何の用がある?)
 だがバインドが笑ったせいだろう、子供はどこかホッとしたような色を浮かべ、もうほんの僅かだけ近寄った。それから、手にしていた袋を差し出す。昨日と同じ汚い袋だ。その膨らみから、そこに壜が入っているのが見て取れる。
 バインドは黙ったまま、子供に視線を向けた。
 バインドが一向に受け取ろうとしないのを見て、子供は見るからに慌てだした。自分が持ってきたものは間違っていただろうかと問うかのように、袋とバインドを交互に見つめる。
 その様を暫らく眺めていたバインドの喉の奥から、低い笑いが洩れた。
「クク……ハハハ!」
 肩を震わせてひとしきり笑うと、バインドは子供に視線を戻した。
「昨日の事を覚えてたのかよ。そいつはありがてぇな」
 自分に救けられたと、そう思っているのか?
 だとしたらお目出度いガキだ。
「クッククク……」
 再び喉の奥で笑い、バインドは気紛れに子供に笑みを向けた。
「そこに置いていけよ」
 子供の汚れた顔の上に、ぱっと喜びが広がる。
「――」
 突かれたように黙り込んだバインドへ、壜を袋から出して押し付けるようにして渡すと、バインドが何を言う間もなく、あっと言う間に子供の姿は茂みの向うに消えた。
 バインドは暫らく壜を手にしたまま、黙って子供の去った方向を眺めていたが、やがて舌打ちしてそれを放り出した。





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renewal:2007.09.8
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