三
視線の先で青白い光が膨れ上がる。
女が何かを叫んで、光を覆い隠そうと動く。
光は鋭い刄のようにバインドに向かって伸びた。
全ての動きが、まるで止まっているかのように映る。
光が肩に突き刺さり、肉が、血管が、骨が断ち切られていく。
脳髄を貫くような痛みが、バインドの意識をじわりと支配しはじめた。
凄まじい苦鳴が耳を聾して響く。
それが自分の中から響いているのに気付き、跳ね起きた。
森が震え、ぐるりと回る。
自分の視界が回っているのだと気付かないまま、バインドはその場に突っ伏して吐いた。
土と腐りかけた落ち葉と自分が吐き出した胃液に塗れながら、左手が右肩を慌ただしくまさぐる。
「無ぇ、無ぇッ! くそっくそッ」
右肩が火が点いたように熱い。
「ちくしょうッ!」
頭を地面に幾度も叩きつけ、左手が闇雲に土を掻き散らす。
背後でガサリと茂みが鳴った。
視線を向けるより早く、バインドの腕が伸びる。
指が細い首を掴んで吊り上げた。
荒い息の向うで、子供が大きな瞳を怯えに見開き、バインドを見つめる。バインドの中に生じた驚きが、すぐ強い苛立ちに変わった。
「――何だ、てめェ……何で俺に付き纏う」
ギリ、と音を立てて指が喉に食い込む。バインドは獰猛な獣じみた笑みを浮かべ、子供の顔を覗き込んだ。
怒りがじりと込み上げる。
「俺がお前を救けたと、そう思ってんのか? この俺が、お前みてェなガキを救けたと?」
吊り上げられた手足が、泳ぐように宙を掻く。
「この先も救けて貰えるかもしれねぇと、そう思ってんのか!?」
バインドは喉を引きつらせ、高い笑い声を上げた。
指に更に力が加わり、子供の顔色が青黒く染まる。
緑色の大きな瞳が、苦鳴すら上げず、黙ってバインドを見つめた。
不意に、怒りが失せた。
バインドの指から力が抜ける。
「ち」
子供はそのまま滑り落ち、落葉の中に転がって激しく咳き込んだ。
力の抜けた左腕をだらりと垂らしたまま、バインドは子供に背を向けた。
「失せろ。今度俺に近寄れば殺す」
森の奥へと一歩踏み出した途端、全身の力が抜け、バインドはその場に倒れ込んだ。
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