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王の剣士
【第一章「収穫祭」】


 夜が明けゆくにつれ、王都の輪郭があらわになってくる。
 生まれたての曙光が初めに照らすのは、空へと高く聳える王城の尖塔だ。王都東側の斜面の街並が、白い光とくっきりした影の中に浮かぶ。
 陽光に照らされた王都の影は、西へ長く、王都の周囲に広がる農園や森に差し掛かった。

 グィノシス大陸の西端に位置する王国アレウス国の王都は、王城をいただきいだく小高い山のような姿をしている。
 城下の街は緩やかな傾斜を描いて裾野を広げ、東西南北、どの方角から見ても均一な傾斜と広がりを持つその姿は、都市全体が意図して創り上げられたものだと実感すると同時に、その業に対する感嘆の想いを抱かせた。
 特に均整の取れた美しい街並が王城を取り囲んで複層的に広がる姿は、花弁を広げた艶やかな花を思わせ、その名――アル・ディ・シウム――『美しき花弁』というその名は、国土を越え、近隣諸国にも知られていた。



 日の出から一刻ほど過ぎ、未だ陰の色濃い王城西側の頂に近く。
 軍将校の官舎の建ち並ぶ一角から、力強い羽ばたきと共に一頭の飛竜が飛び立った。
 珍しい銀の鱗を持つ、まだ幼さを感じさせる若い飛竜だ。だが羽ばたき一つで一息に上空へとけ上がる。
 銀翼が斜めから差す朝日を切り取り、遠い場所に影を落とす。
 王城の尖塔の高さまで上がった飛竜は、一旦真っ直ぐ目的地のある西区域に向いかけ、そこで僅かに迷う素振りを見せた。
 長い首を巡らせ、青い瞳を問いかけるように背中に向ける。
 その背にいるのは、この若い飛竜に相応しい年頃の少年だ。まだ十五、六歳といったところ。
 襟の詰まった黒いかっちりした服を着て、背中に同じく黒の長布を纏っている。王都の住民が見れば、それが近衛師団の軍服である事がすぐ判る。
 正規軍は濃紺、近衛師団は黒。
 少年の髪と眼の色は漆黒、ただ瞳の輝きがそれを補って明るい印象を与えている。整った面は、精悍さをほんの少し、備えはじめたところだ。
「まだちょっと早いし、一巡りして行こう、ハヤテ」
 主の弾んだ声にハヤテと呼ばれた飛竜は嬉しそうに鳴き、ぐるりと縦に大きな弧を描いた。
 飛竜の荒っぽい旋回にも、背中の少年は動じる気配もなく却って楽しげな笑みを浮かべる。
「半刻くらいは飛ぶ時間があるかな? やっぱり早起きはするもんだよな」
 日中は忙しくて遠駆けなどする時間がなかなかない。朝はぎりぎりまで寝台で丸まっていたい年頃でもあったが、飛竜で空を翔る事を思えば眠気も吹き飛んだ。
 特にこの若い銀翼は僅か五ヶ月前に王から下賜されたばかりで、彼と共に遠駆けをするのが楽しくて仕方がなかった。
 少年――レオアリスは、朝日が伸びていく方向へ、手綱を繰った。
 銀翼は飛竜族の中でも特に速い翼を持つ飛竜だ。
 そして、軍の大将級に与えられる乗騎でもある。
 ハヤテは広げたしなやかな翼に風をはらみ、王都の上空を翔け出した。







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renewal:2009.08.16
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