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王の剣士2 「絶滅種」




 木々の間を足音が走る。
 深い闇を幾つもの松明の灯りが過ぎる。
 彼は遠くへ逃げるつもりだった。妻と子等が隠れている場所とは逆へ。
 なるべく遠くへ。
 彼等だけは、何としても、どうあっても生き延びさせなければいけない。
 右手の木の影から男が二人飛び出す。慌てて方向を変えた。白い毛に包まれた長い尾が跳ねる。
「いったぞ、捕まえろ!」
 視界の先に別の影が躍り出る。彼は地面を蹴り、斜面に突き出した岩を駆け渡り男達の頭上を越す。
 土に降り立ち再び駆け出そうとした彼の目の前に、どさりと白い固まりが落ちた。瞳が驚愕に見開かれる。
『! ラー!』
 高く叫んで白い毛並みに包まれた、小さな身体に駆け寄る。べっとりと赤い血に濡れ、すでに事切れた身体を、震える腕が掻き抱いた。男達が悠然と彼の周りを取り囲み、地面に蹲った姿を見下ろした。
「テメエだけ逃げようなんて、大した根性だよなあ。ガキは恨んでるぜ」
「お前も馬鹿だな。隠したつもりでも、ガキがぴーぴー鳴くからすぐ居場所なんてわかっちまう」
 喉の奥から低い唸りが漏れる。犬に似た鼻面の上に皺が刻まれ、牙が剥き出される。
 だが男達の手にする武器の前に、それは余りに力なく見えた。
 赤い瞳が、一人の男が手に提げた袋を捉え、大きく見開かれた。
 袋は大きく膨れ、布に赤い血の染みが浮き上がっている。
 言葉にならない苦鳴が、アリヤタ族の男の口から押し出された。
「置いて逃げ出すのが悪いんだぜ」
 にやにやと、さも可笑しそうな薄笑いを浮かべた男達を、怒りと絶望、悲痛の混ざり合った瞳が睨む。
『……自分達が何をしたか、解っているのか!? アリヤタは――滅ぶ』
 アリヤタの絶望の叫びにも、男達はまるで感じるものも無いように、薄ら笑いを覗かせている。
「知ったこっちゃねえよ」
「おい、滅んじまうなら価値が跳ねるんじゃないか?」
「よーし、もっと吹っかけようぜ。買う奴はいくらでもいるんだ、言い値だよ」
 笑い声が満ちる。
 奪われた命と、遠くない先に奪われようとしている命。
 消えていく種族の火。
 笑い声が満ちる。
『貴様等……』
 その声は、喉の奥で力なく震えた。
 何故だ。何が悪かった?
 自分達はどこで間違った?
 苦しみから逃れようとせず、木の皮をんで生きれば良かったのか?
 笑っている。
 何故だ。
 彼らが今、手にしているものは。


 あれは、アリヤタの未来だった――。


 混然とした思いを全て叩きつけるように、アリヤタの男は吠え、白い身を翻して飛び掛かった。






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renewal:2007.04.30
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