比良山地

(第二部)

湖西線に揺られて移動。近江高島駅から3駅目が比良駅である。これから比良縦走第二部が始まる。さて、近江高島駅では売店もなくフィルムを手に入れる事が出来なかった。果たして比良駅にあるだろうか。地図を見るといかにも何もなさそうな雰囲気が漂っていたが意外と駅裏に食堂を兼ねた売店があってフィルムを手に入れることが出来た。しかも外に水道もあってついでに水も補給。これは助かったと嬉しくて店のおばさんと話をしていたら20分ぐらい過ぎてしまった。「いつかまた来ます」と言って店を出る。しかし駅裏の地図を見間違えて反対方向に歩いてしまう。やがて国道に出ると信号は南比良、ようやく道を間違えた事に気付く。そのまま国道を歩いて正しい道に戻った。とにかく暑いので余計な道路歩きは勘弁である。最後は道標に従い、登山道の近道を行く。再び道路に出て登山口の出合山荘に着く事が出来た。

      
左:比良駅
中:出合山荘
右:登山口の橋

しばらくは舗装された道が続くがやがてダートの林道となる。整備された林道が終わると登山口の大山口に到着。すでに時間も時間なので下りてくる人が多い。正面谷の対岸の空き地にはテントも何基か立っている。ここで幕営も中々良さそうだったがフィルムを手に入れた瞬間に八雲ヶ原の計画を変更して北比良峠に泊まる事に決めていた。夜景と御来光を期待しての事である。北比良峠に向かうコースはダケ道という。木の橋を渡るといよいよ登山道が始まる。

              
左・中:登山道(ダケ道)
右:カモシカ台

今日最後にして最大の登りが始まる。大山口から北比良峠の標高差は490m、これを登り切らねば終わらない。岩のゴロゴロした浮石の多いつづら折りの急坂を下山して来る人を避けながら登る。ガレたり抉れたりかなり登山道の浸食が進んでいるようだ。武奈ヶ岳への主なルートの一つであるが歴史も長くオーバーユースなのだろう。ただ歩きにくいながらも迷う事無く歩く事が出来た。展望のない樹林帯の登山道で暑い。中間点のカモシカ台に着いた頃にはかなり疲れてきた。ここも大して展望は得られない。

    
左:北比良峠からの夜景
中:御来光?
右:北比良峠

カモシカ台を過ぎてもまだ急坂は続くが尾根に乗ると傾斜は次第に緩やかになる。道も若干歩きやすくなったようだ。ヤセ尾根もあるが既にすれ違う人も少なくなりマイペースで進む。そしてどうにか前日見覚えのある北比良峠に到着した。先着は一人、暗くなってからもう何基かテントが増えた。場所は十分にあるのでとりあえず休憩し、麓の景色を眺めてからテントの設営にかかる。夕食をとり、暗くなるまでしばらく横になる。一時間ほど時間を潰し、暗くなったので外に出る。夜景は思った通り綺麗だった。麓のびわこ成蹊スポーツ大の競技場らしき建物がひときわ明るい。琵琶湖の対岸は近江八幡だろうか。結局30分以上景色を眺めていたが誰も来る気配もなくさすがに間が持たなくなってしまったのでテントに帰って寝た。朝、日の出前に起きて外へ出る。しかし期待した御来光はガスの為によく見えなかった。朝食を済ませ、トイレがないので木立の中で済ませる。テントを撤収し、隣のテントの人と話をする、滋賀県立大の学生さんでした。予定より少し早いが出発。まずは八雲ヶ原へ向かう。

          
左:八雲観音
中:スキー場を登る
右:北比良峠を振り返る

当初は比良明神まで縦走路を歩いて縦走を完遂する計画だったが朝にはもうその事はすっかり忘れていてそのまま昨日歩いた道を八雲ヶ原へと向かう。しかも八雲観音で写真を撮ろうとしてカメラのカバーを忘れて来た事に気付く。しかしさすがにここから戻る事は出来ない。次はいつ比良に来るのか分からないし諦めるしかないだろう。八雲ヶ原を横断し、そのままスキー場跡地を登り始める。スキー場の直登、最初はそうでもないのだがだんだん登りがきつくなって来る。景色は単調、しかし暫くすると背後に昨日歩いた比良山系の稜線が見えて来る。スキー場を過ぎると冬枯れの樹林帯に入る。次第に斜度も緩くなり各段に歩きやすくなった。

            
左:最後の急登
右:武奈ヶ岳山頂

       
左:蓬莱山方面
右:釣瓶山、蛇谷ヶ峰方面

やがてコヤマノ岳に向かう道との分岐点に出た。多少岩が転がっているが歩きやすい登山道。樹林帯を抜けると笹原となり、急登になる。途中、単独の登山者とすれ違う。最後に階段を登ってゆくと武奈ヶ岳の山頂に到着した。誰もいない、360度の景色を独り占めである。南比良から北比良の稜線、これから向かう釣瓶山、蛇谷ヶ峰の奥比良、そして安曇川の対岸にぼんやり見えている稜線の中にはかつて登った峰床山があるはずだ。空が霞んでいて琵琶湖など遠景は見えず。景色を見ながらようやく比良山地最高峰を踏んだ事に満足。誰もいないのでセルフタイマーで写真を撮る。雲量の多い空、一人でいると風の音だけが聞こえて荒涼とした気分になる。まだまだ先は長いので休憩もそこそこに先へ進む事にした。

    
左:釣瓶岳
中:地蔵山
右:地蔵峠

笹原の山頂部を過ぎ、下りにかかると意外にも雪渓が残っていて登山道を覆っていた。踏み跡は確かなので問題なく雪渓の上を歩いてゆく。やがて枯木の樹林帯に入る。同じ枯木の樹林帯でも北比良と違って落葉が登山道を覆っていて土や岩が目立たない印象。周囲に点在する雪渓を見ながら歩く。次のピークは釣瓶岳。この登りはかなりきつかった。やがて展望のない釣瓶岳の山頂に到着。しばらく行くと蛇谷ヶ峰や鹿ヶ瀬方向が良く見える場所がある。展望が得られる場所は少ないが歩きやすい登山道を黙々と歩く。イワクタ峠北峰で空腹を感じてゼリーを消費する。予定ではここで昼食だったが、朝早く出てきた分だけ時間も早いのでもう少し頑張ろうと先を急ぐ。地蔵山を過ぎ、30分を過ぎたあたりで道が下り過ぎている事に気付いた。道標が地面に落ちているが字が滲んでいて読めない。次の横谷峠までのコースタイムは45分。そして一時間も歩いて道を間違えたと確信し始めた頃、目の前に舗装された林道が現れた。朽木中学校の設置したマーキングが目に映る。一瞬、このまま山を下りようとも考えたが現在地が分からない以上戻るのが賢明と考え直した。そうとなれば一気に戻るのみ、どこで間違えたかも分からないがとにかく分かるところまで全力で戻るしかない。そしてようやく地蔵峠の分岐点で間違えたのだと分かった。いや、間違っていたのは道標の方だった。ちゃんと道標の蛇谷ヶ峰側に歩いていたのだ。残る道は一つ、畑の方向だ。地図を見るとさほど間違った方向ではない。既に2時間近くも時間を無駄にしているがここは賭けに出るしかないだろう。そろそろ昼食を考えたいところだが問題解決を優先、とりあえず急ぐ。横谷峠の道標が見えたとき心底ホッとした。これでようやく遅れを計算できる。朝早く出たのが幸い、下山後の温泉は厳しいが十分バスには間に合いそうだ。


釈迦岳、武奈ヶ岳の稜線(蛇谷ヶ峰から)

   
左:リトル比良方向
右:蛇谷ヶ峰山頂

そこから先は温泉の時間を確保する為、とりあえず急ぐ。ボボフタ峠で5人ぐらいの登山者とすれ違う。空腹と疲労で意識が朦朧とし始めていて分岐点を間違えて下りてしまうがすぐに気付いて引き返す。蛇谷ヶ峰で何か食べようとの気持ちだけで前に進む。滝谷の頭を越え、ようやく蛇谷ヶ峰に取り付く。山頂直下の登りはかなりの急坂で一歩一歩やっとの思いで登った。そして比良縦走の締めくくり、蛇谷ヶ峰の山頂に到着。360度の景色が素晴らしい。これまで登って来た比良の山々を望むと感慨もひとしおである。山頂には既に6人ほどの人がいた。とりあえず写真を撮ってもらい、急いでラーメンを食べる。それから休憩しつつ景色を楽しんだ。温泉の時間が押しているのでゆっくりという訳にはいかない。時間を見計らって下山にかかる。

         
左:階段が続く登山道
右:くつき温泉てんくう

尾根沿いの登山道を下る。階段が多くどんどん下りてゆく。標高552m地点の分岐を過ぎると急坂となり沢を越え登り返す。やがて再び尾根に乗り緩やかになった登山道を歩いてゆくと下の方に平行に走る林道が見えて来る。その林道に出て10分ほどさらに行くとくつき温泉てんくうに到着した。バスの時間まで一時間半、頑張った甲斐あって十分温泉に入る時間が確保できた。山女魚の里となっている建物が入浴施設になっている。すごい人だかり。かなり人気のある施設のようだ。中でゆっくりするのは諦め、外でビールを飲みながらバスを待つ。

  
左:朽木学校前バス停
右:安曇川駅

酒の勢いかマキノ町の後輩の家に電話してみる事にした。前に会ったときに近くに来たら寄ると言っていたのを思い出したのだった。突然の電話だったが安曇川駅まで迎えに来てくれるとの事。くつき温泉からシャトルバスで朽木学校前に向かい、バスを乗り換えて安曇川駅に向かった。そこで後輩が迎えに来てくれるのを待つ。そして後輩の家で夕食を御馳走になり、近江今津駅まで送ってもらった。大変我儘な先輩である。そして近江今津駅からサンダーバードで富山に向かった。いろいろあった比良登山、いろいろな表情を見せてくれた比良山地、私の中での比良の評価は大いに高まったのだった。

余談 琵琶湖の横の山ぐらいの認識しかなかったが景色も山容も植生も良い山だった。
元々六甲全山縦走の練習として考えていたので体力的に自信が付いた。
どの山も日帰りで登ることが出来るが逆に言えばトイレもない。観光地化されていないと言えば良いが何とも難しいところ。スキー場の跡地に残っていると期待したが甘かった。
地蔵峠の道標は間違っています。
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