仙人池

今こそ、仙人池へ

日程

9月18日、集中豪雨による落石が黒部峡谷鉄道の鉄橋を直撃し、トロッコ列車はしばらく運休することとなった。これは仙人池から欅平に向かう計画を練っていた矢先の事故であり私にとっても衝撃的な出来事だった。とりあえずそのときは剣岳に登り、仙人池計画は取りやめるつもりだったが、逆に静かな山旅が楽しめるのではないかとの思いからコースを変更して行くことに決めた。こういう機会は滅多にないだろう。

10月13日 富山(04:25)立山駅(05:25−00)室堂ターミナル(07:15−25)=別山乗越(09:00)=真砂沢ロッジ(10:50)=二股(11:25−55)=仙人池ヒュッテ(13:20)=池ノ平小屋往復
10月14日 仙人池ヒュッテ(05:55)=二俣(06:50)=分岐点(07:25)=ハシゴ谷乗越(08:20−35)=内蔵助平(09:25)=内蔵助谷出合(10:35)=黒部ダム(11:45−30)=黒部湖(12:40)立山駅(16:25)富山(17:40)

山行記録

前夜早く眠ったせいか、予定よりも早く起きることが出来た。初日のコースタイムは8時間半、どうしても立山駅を6時に出る始発に乗りたいところだ。車を飛ばし、立山駅には五時半前に着く。駅では順番待ちも予想していたが連休の中日と言うことでそれは杞憂に終わった。難なくケーブルカー、高原バスを乗り継ぎ、室堂ターミナルへ。車窓から見た弥陀ヶ原の紅葉はほとんど終わっていて秋山シーズンの終わりを告げていた。実際、仙人池ヒュッテに泊まれるのは今日が今シーズン最後。立山も近いようでなかなか来られない。


別山乗越から剣岳

室堂からみくりが池、雷鳥沢を通り抜け一直線に別山乗越へと向かう。一年前はこのルートを腹を空かせながら登ったのだった。今回は装備も軽く、腹も満たされ足取りは軽い。雷鳥坂を登り、剣御前小屋の前で休憩。抜けるような青空の下、剣岳や大日連山、地獄谷など景色を楽しむ。ここから暫くは沢沿いの下り、大したことはないだろう。油断したのがいけなかった。剱沢小屋から剱沢に下りてゆくルートになかなかたどり着けない。小屋横の登山研修所あたりをうろうろして迷ったあげく小屋まで戻ったりで10分ほど無駄にしてしまった。どうしようもないので登山道を無視して谷へ下りてゆく。道はすぐに見つかった。

         
左:剱沢雪渓
右:真砂沢ロッジ

剱沢を下ってゆく為には剱沢雪渓を通らねばならない。実は現在軽アイゼンが行方不明で12本爪で行くのか悩んでいたはずが、すっかり忘れて来てしまった。晩秋のこの時期とは言え、三大雪渓の一つをアイゼンなしで乗り越えるのはやっかいだ。恐る恐る沢沿いに登山道を下ってゆくがやがてそれも雪渓の中に消えていってしまった。仕方なく意を決して雪渓に乗り出す。雪渓の状態はかなり良いようだ。何度か転びはしたが、危険なところは全くなく難なく突破することが出来た。もっとも絶対に登り返しだけは勘弁である。雪渓の末端を過ぎると間もなく真砂沢ロッジが見えてきた。諦めかけていた紅葉がまだ綺麗に残っていて驚かされた。

              
左:剱沢(南股)
右:北股を眺める

真砂沢ロッジを過ぎると登山道は谷沿いにトラバースしながら河原へと下ってゆく。そして、途中ちょっとしたへつりを鎖を使って越える場所がある以外は快適な河原歩きが続く。道の状態が良いのでかなりコースタイムを縮める事ができた。それにしても紅葉が綺麗だ。全く見飽きない。思ったより早く南股と北股の合流点、二股に到着。吊り橋はもう終いなのか、ちょうど取り外している最中だった。すぐそばを渡渉し、ここで昼食にする。景色は格別で吊り橋の作業員の人に話しかけたりしながら気持ちよく時間を過ごすことが出来た。

             
左:尾根上から沢を眺める
右:三ノ窓雪渓

150Mほど北股に沿って歩き、いよいよ尾根に取り付く。すぐに長い階段が始まる。ここからあと600M近く登らなければならない。今日最後で最大の登り、しかし先月の早月尾根に比べれば大したことはないと自分に言い聞かせどんどん高度を稼いでゆく。展望のない樹林帯の急登はかなり暑かった。さっきまでの雪渓を幻の様に思い始めた頃、三ノ窓雪渓がよく見えるポイントに出た。かなりの絶景。思わず立ち止まる場所だ。この辺りから歩くにつれて少しずつ周囲の景色が開けて来て長い登りを忘れさせてくれた。仙人峠を越え、まっすぐ仙人池ヒュッテに向かう。思ったよりもかなり早い時間に到着することが出来た。ヒュッテに入るなり勧められるまま風呂へ。おかげで体が休養モードに。まだ池ノ平山まで行く予定もあったが、時間も気力も尽きたので結局は池ノ平小屋で引き返した。

         
左:仙人池ヒュッテ
右:仙人池を挟んで裏剱

この日の仙人池ヒュッテの混み具合は思ったほどでなく、だいたい一人に布団一枚が当たったようだった。連泊の常連客がかなりいて改めてこの小屋の人気を確認する。また食事もかなりいい物が出てこれも人気の理由らしい。仙人池は写真で見て思っていたより小さくあっけにとられた。それでも絶好の撮影ポイントであることに間違いはない。しかしトロッコが止まってもこんな所まで来るなんてここにいる人達はみんな山が好きなんだなあ。雰囲気が非常によかった。またトロッコが止まったら来ようかな。


剣沢を渡り、ダムに向かう

翌朝、天候はあいにくの曇り空だ。今日中に立山駅に戻るにはどうしても黒部湖駅16:00のケーブルカーに乗る必要がある。朝食を済ませ時間を見ながら早々に出発した。剣岳が雲の向こうで昨日ほどの絶景は期待できそうにないので写真も撮らずさっさと歩く。仙人新道の長い階段を下り、二股で徒渉、そして河原歩きをこなす。内蔵助平に向かう分岐点の道標を確認し、橋を渡ったところで休憩。これからの急登に備える。

              
左:剱沢
右:ハシゴを登る

ダムと書かれた登山口から岩場の急登に取り付く。滑りやすいのでロープが設置してある。岩場はすぐに終わったが、登りはまだまだ続く。樹林帯の中を休みなしに続く坂道。落ち葉が滑りやすくてかなり歩きづらい。やがて樹林の切れた景色の良い岩場に出る。苦しい登りの後にはなかなか爽快だ。そのまま登山道はトラバース気味となって続き、折り返して梯子の連続する急登となってゆく。道すがら剣岳は雲の中だったが剱沢雪渓は見る事ができた。

         
左:展望台から内蔵助平
右:振り返って仙人池ヒュッテ

梯子が終わると稜線の反対側に出てハシゴ谷乗越までダラダラしたトラバース道が続く。ハシゴ谷乗越の展望台には既に10人くらいの人が休んでいてもう満員だった。中には昨日の晩からビバークしている人もいた。展望台からは内蔵助平が一望できる。また、後を振り返ればかすかに仙人池ヒュッテを望むことが出来た。剣岳が見えるかと期待して十五分ほど待っていたがそれは期待はずれに終わった。

             
左:内蔵助平の登山道
右:大タテガビン

ハシゴ谷乗越を越え、九十九折りの急斜面を下りる。それをこなすと石がゴロゴロした涸沢の様な所を歩くようになった。道幅は十分に広いのだが浮き石が多く歩きにくい。樹林に阻まれて景色も今ひとつ、内蔵助平の平らな部分がどうにも堪能できない。そう思い始めた頃、登山道は一時的に沢から離れて内蔵助カールからの道と合流した。この辺りからだんだん立山の裏側が見え始めて景色が良くなって来る。再び沢に沿って歩き、橋のある合流点で休憩。大タテガビンの特徴ある姿が際だって目に付いた。

             
左:丸山東壁
右:黒部ダム

橋を渡ると笹に覆われた道を通り、徐々に内蔵助谷の方へと下りてゆく。谷沿いの登山道は渓谷が深くなるにつれ険しくなって来るが、紅葉に彩られた景色が素晴らしく何度も足を止めながら歩いた。内蔵助谷出合で休憩、さらに黒部川に沿ってダムへと向かう。ここまで来ればもう安心。やはり紅葉を楽しみながらダムまで悠々と歩いた。こんなに早く着くのならもっと紅葉を楽しむべきだった。


ダムから大タテガビン

ダムの上は思った通り観光客であふれていた。時間があるので昼食を食べてから遊覧船乗り場に行ってみたが一時間半待ち。諦めてケーブルカーの整理券を取りに行く。団体客が多くわずかの差でかなりの待ち時間を食わされる。黒部平でさらに一時間待ち。気が付くとハシゴ谷乗越で抜かしてきた人に声をかけられていた。そのままアルペンルートを立山駅へ。家に着いてもまだ明るく、仙人池が今まで思っていたよりも随分と近くなった様な気がした。

余談 とにかく紅葉が綺麗だった。ピークに立つ事はなかったがたまにはこういう登山もいいかもしれない。
剱沢雪渓の状態が良くて助かった。
2002年 HOME 明神ヶ岳