八経ヶ岳

(第二部)

行者還岳をあとにして分岐点まで戻ってくると、今日3人目の登山者がやってきた。「行者還岳はすぐですよ」と言うと「水場、出てますよ。五分でコップ一杯ぐらいかな」との話。そんなに少ないのかとちょっとがっかりしたが、ありがたい情報だ。早速、歩き始める。しかし注意深く探していたにもかかわらず水場は発見出来なかった。実は今回初めて飲み水にポカリスウェット(粉体)を使ってみたのだが予想外に消費量が大きく1.4Lを使い切り、調理用の水に手が付いてしまう始末。しかも朝食後に補給をしていなかったためにこれも初めから半分の0.5Lしか持参していない状態。そんな事情で水場には期待していたのだ。ただ、今回は非常食としてたまたま家にあった嚥下障害用の水分補給ゼリーを3つ持参していたので焦らずに済んだ。ちょっとした梯子を下り、少し歩けば行者還小屋。15人程度は泊まれそうな大きな無人小屋だ。ここで昼食。ただ水を節約したためラーメンは汁なしになった。

         
左:行者還小屋
右:気持ちの良い縦走路

時間的に余裕が出てきたので、食後はゆっくり過ごす。しばらくして小笹の宿で一緒だった二人がやってきた。やはり水場を見つけられなかった様子。しかし十分な水を持っているとの事だった。安心して先に進む。多少のアップダウンはあるもののさっきまでの険路が嘘のような気持ちの良い登山道が続いている。時々樹間から望める景色が良いアクセントだ。途中、一ノタワの避難小屋らしき建物を見かけたが、既に床は落ち窓も無くなっており使用に耐えない状態だった。登山道は稜線に沿って西に折れてゆき、やがて行者還トンネルからの登山道と合流する。

         
左:縦走路から西に弥山を望む
右:弥山(テン場)から大普賢岳

ここで少し休憩。傍らにはザックがデポしてあった。こんな所から一体どこへ行ってしまったのだろうか。それにしても八経ヶ岳で一番利用されるはずの登山道なのに時間帯が悪いのか誰も来ない。十分に休んだので歩き始める。弁天の森のピークを越え、聖宝の宿跡で再び休憩。最期の水を飲み干した。残るは今日最後の登り300M。時間があるので余裕ではあるが、やはりここまで来てこの登りはかなり苦しい。途中、すれ違った人に何度か励まされながらゼリーも一つ消費してようやく弥山小屋に到着した。テン場はまたも一番乗り。小屋でビールと水を買い、五分ほど先の弥山を往復しておく。夕方には鹿の親子を見ることが出来た。弥山のテン場は15基以上は入るぐらい広いが今日は5基。小屋の客は4人だそうでお盆休みにしてはあまりに閑散としている状態だ。

  
左:ご来光
右:八経ヶ岳の山頂

夕方にはガスが出て明朝のご来光を心配したが、朝起きてみるとすっかり空が晴れ渡っていた。時間を見てテントを抜け出し、薄明かりの中を八経ヶ岳に向けて歩き始める。昨日の夕食が早かった為に空腹で足が重い。鞍部までのわずかの下りで浮き石を踏んで転倒。あっさり後続のおっさんに抜かされてしまった。登り返してしばらくして鹿の食害を防ぐ為のフェンスが現れ、4,5回扉をくぐる。昨日、鹿を見たばかりなので嫌に現実味がある。山頂に着いてから5分ほどでご来光。周囲の絶景を楽しんだ。東側の大台の山々、南北に延びる大峰の山々、遠くには金剛山と大和葛城山の連なりも良く見える。

  
左:八経ヶ岳から弥山(手前)、大普賢岳(奧)
右:狼平避難小屋

テン場に戻ってから朝食にする。今日は下山のみで行程も短く余裕だ。二晩を共にした二人を見送り、おもむろに出発。予定時間をかなりオーバーしたがマイカー登山なので全く問題はない。長い階段が続く登山道を下ってゆく。樹林帯を抜けると急に開けた場所に出た。狼平に到着。新しそうな狼平避難小屋が弥山川のすぐ横に建っている。吊り橋を渡ると今度はほぼ水平の心地よい樹林帯のトラバース道。かなりハイペースで歩ける。当初の予定に十分間に合いそうな感じになってきた。

  
左:栃尾辻の避難小屋
右:観音峰

登山道は頂仙岳を巻き、尾根筋に沿って再び下り始める。中途半端に変化する地形で現在地が分かりづらい。もうだいぶ来ただろうかと思い始めたとき、「弥山−坪内」と書かれた看板と出くわしてしまった。なぜ坪内。まさかと思うが栃尾辻を過ぎてしまったのだろうか、快速でとばしてきた手前何とも言えない。看板の意味が分からず、前にも後ろにも進めなくなってしまった。こんな時は人に聞くしかない。ザックをおろして待ちの体勢。幸い、十五分ほどで登山者が現れて栃尾辻がまだ先だと確認できた。さらにピークを一つ越え、ようやく避難小屋のある栃尾辻に到着。ここの分岐を過ぎれば川合まで一本道になるのでもう安心だ。


洞川温泉センター

小さなアップダウンを繰り返しながら尾根沿いに歩いてゆくとやがて登山道に平行するように林道が現れた。しばらくは林道を見下ろして歩く。天気がよいので稲村ヶ岳の稜線、観音峰の景色も見栄えがいい。わずかな林道歩きがありすぐに登山道に入る。鉄塔の建つ見晴らしの良い場所を過ぎ、最後は急な階段を下りきって登山口に出た。とりあえず300Mほど先の天ノ川を渡り、ミタライ渓谷へと向かう。緩やかな登りではあるが日差しが厳しくとにかく暑い。水を飲んでもすぐ汗になって体がバテ気味だ。すぐそばで川遊びをしている家族連れを何度も見ながらの苦しい車道歩き。そして景勝を期待したミタライ渓谷でもいきなり長い階段を見上げる事となり、暑さと戦いながら無我夢中で登る意外になかった。観音峰登山口で車に乗り、洞川温泉センターへ。温泉街で食べたかき氷が何とも言えずおいしかった。

余談 最後はとにかく暑かった。山行中は人が少ないのを不思議に思っていたけど時期が悪かったようだ。
他人の話や地図に出ている水場を鵜呑みにしてやってくる者・・・参った。非常食は大事です。
全体的に変化のある登山で面白くもあったけど、地図で見る以上に堪えるコースだった。
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