(注): 本語彙集は、「グ
ノーシス主義用語集」に掲載する予定の語彙の集成です。可能な限り多くの
グノーシス主義語彙を網羅する予定です。(なお、
以下の説明文は、
すべて、私たちのオリジナル起草です。「引用」は含まれていません。また、
「引用」ある場合はそのことを明示します)。 |
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アイオーン [G] aion グノーシス主義の「神霊」。 高次のものと、低次のものがある。高次のアイオーンは「善の神霊」で、また グノーシス主義の「真の神」など。低次のアイオーンは、アルコーンと呼ばれ、 「悪霊」「偽の神」などのこと。「アイオーン」は、永遠の意味。 →「用語集,アイオーン」 アカモート [G] achamoth ヘブライ語の「ホクマー (智慧)のヴァリエーション(ホクモート chokmoth)から造られた名前とさ れる。中間世界における、アイオーン・ソピアーの分身・エイコーンの名称。 エンテュメーシスの別名。ヤルダバオートの母乃至創造者とされる。 →ソ ピアー, →「用語集,ソピアー」 『アスキュー写本』 [E] Askew Codex (Codex Askewianus) 1750年頃、英国の外科医A・アスキューが古物商よ り購入した羊皮紙写本。エジプト起源らしいが詳細不明。ロンドンの大英博物 館が所蔵。単一のグノーシス文書より構成され、それは復活のイエズスと弟子 たちの対話を含み、「ピスティス・ソピアー(ピスティス・ソフィアー)」と 呼ばれる天的存在の地上への落下と、天界への帰還を語っていた。この故に、 この写本は、通称で、『ピスティス・ソピアー Pistis Sophia 』と呼ばれる。 (独立した文書である第四部は、内容的に幾分異なる)(0518)。 →『ピスティス・ソピアー』。 『アスクレピウス』 [E] "Asclepius" ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-8」(32)(原題なし),D)ヘルメス文書。 アスタファイオス [C] Astaphaios 『ヨハネのアポク リュフォン』(ベルリン写本)に現れる権力アルコーンの名。ヘブドマスの第 三者。 →ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス」 『アダムの黙示録』 [E] The "Revelation (Apocalypse) of Adam" ナグ・ハマディ文書。「NH-V-5」 (24),A)非キリスト教的グノーシス文書。『ナグ・ハマディ写本』中 のグノーシス主義文書。 →「用語集,ナグ・ハマディ写本」 アドーニ [C] Adooni 『ヨハネのアポクリュフォ ン』(ベルリン写本)に現れる権力アルコーンの名。ヘブドマスの第六者。 → ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス」 アブラクサス [G] abraxas ヘッセの『デーミアン』 に出てくる神霊の名。実は、グノーシス主義バシレイデース派のアイオーン の名。別形=アブラサクス、アブラクシス。 →「用語集,アブラクサス」, →「アイオーン・アブラクサス詳細説明」 アプラクサス [D] Abraxas アブラクサスのドイツ語 読み。 →アブラクサス アブラクサス石 [E] Abraxas stone アブラクサスの名 が彫られた石など。 →アブラクサス アブラクシス [G] abraxis アブラクサスの別形。 → アブラクサス アブラサクス [G] abrasax アブラクサスの別形。 → アブラクサス 『アポクリファ』 [G] apokrypha 「聖書外典」のこ と。単数形は「アポクリフォン, apokryphon」。キリスト教が、正典=カノンを 制定して 行った、紀元二世紀頃、カノンに組み入れられなかったキリスト教文書が多数存 在した。これらの裡、正典を補う位置をカトリック教会が与えたものが、アポク リファである。カトリックが、アポクリファとは認めていないが、それ以外にも 多数の文書があり、これらも「アポクリファ」とも呼ぶ。これはキリスト教のア ポクリファであるが、ユダヤ教においても、正典を定めており、従って、アポク リファが存在する。アポクリファは、『旧約聖書アポクリファ』と『新約聖書ア ポクリファ』に二大別される。なお、「アポクリュフォン」と原語の発音通りに 読むと、これは、「秘書・奥義書」などの意味になり、『ナグ・ハマディ写本』 中の『ヨハネのアポクリュフォン』は、『ヨハネの奥義書・秘密の書』の意味で ある。 荒井,S [J] Arai Sasagu 荒井献。新約聖書学者。グ ノーシス主義研究者。Dr. Teol. 『ナグ・ハマディ写本』文書である『真理の福 音, Evangelium Veritatis(原題不明,通称)』のキリスト論が学位論文。日本 語著書多数。『原始キリスト教とグノーシス主義,岩波書店1971年』、『新 訳聖書とグノーシス主義,岩波書店1986年』、『ナグ・ハマディ文書,全4 巻,岩波書店1997−98年,編訳』等。 アルコーン [G] archon グノーシス主義の「悪霊・悪 の原理・暗黒と悪のアイオーン・偽の神」等。この世=宇宙(コスモス)の支 配者。ギリシア語で支配者・統治者の意味。 →「用語集,アルコーン」 アルコンテス [G] archontes ギリシア語で「支配者た ち」の意味。アルコーンの複数形。七人のアルコーンからなる「ヘブドマス」な どがある。また360人乃至365人のアルコーンがいるとも云われる。 →「用語集,アルコーン」, 「用語集,アルコンテス」 『アルコーンの本質』 [E] The "Nature (hypostasis) of the Archons" ナグ・ハマディ文書。「NH-II-4」 (09),B)キリスト教化過程グノーシス文書。『ナグ・ハマディ写本』 中のグノーシス主義文書。 →ナグ・ハマディ写本 アレーテイア [G] aletheia 「真理」の意味。プト レマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイ オーン。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 『アロゲネス』 [E] "The Alien (allogenes)" ナグ・ハマディ文書。「NH-XI-3」 (46),A)非キリスト教的グノーシス文書。 アンドロギュノス [G] androgynos ギリシア語で、両 性具有のこと。 →「用語集,両性具有,ア ンドロギュノス」 アントローポス [G] anthropos 「人間」を意味する。 プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高ア イオーン。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 イーオン [E] aeon アイオーンの英語読み。 →アイ オーン イエス [L] Iesus イエズスの日本語での慣用的表記。 →イエズス。 『イエス・キリストの智慧』 [E] The "Wisdom (sophia) of Jesus Christ" ナグ・ハマディ文書。「NH-III-4」 (16),B)キリスト教化過程グノーシス文書。 イエズス [L] Iesus 通常、日本語では「イエス」 と呼ぶ。キリスト教における救世主で、クリストスの人間としての名前。ヘブ ライ語の「ヨシュア」或いは「イェホシュア」と云うような名のアラム語的形 態をギリシア語表記した形(イエースース,Ieesous)。ラテン語で、Iesus (Jesus) と書くが、この発音が、「イエズス」になる。→クリストス。 イェホヴァ [H] JeHoVaH ヤハウェの別名。 → 「Y」の項目の「イェホヴァ」を参照。 →ヤハウェ。 異端 [L] haeresis 異端とは、「正統」との対比的・ 相対的定位において成立し得る。正統がない場合は、当然ながら異端もないの であり、逆に、「正統性」の確立のため、異端論争が生じるとも云える。救済 宗教に限定して考えれば、「救済されるべき」世界と人間の存在様態の把握乃 至様式化と、「救済の原理と過程」において、「或る共通了解」のある者のあ いだで、正統をめぐる異端論争が成立すると云える。外見的に、救済者や至高 者の名称や姿が同一に見えても、内在的な「世界と人間の存在把握様式」と 「救済原理」に様式的差異が明瞭にある場合は、当事者の一方或いは双方が、 相互に相手を異端だと論難していたとしても、実存的位相からは、これらは 「異端」論争としては成立していないと考えるべきである。この場合、一方或 いは双方が、相手に対し刻印した「異端」の階位規定は、「無意味」であると 云うべきである。競合する二者があれば、彼らは「異教」関係にあるのであり、 どちらかが他方の異端にはならない。グノーシス主義と原始キリスト教会の関 係が、このようなものであったと考えられる。 『異端反駁』 [L] Adversus Haereses リヨン司教エ イレナイオスの著作。グノーシス主義異端反駁書。ギリシア語原書は散逸し、 ラテン語訳が残る。 →エイレナイオス。 『偽りのグノーシスの告発と反駁』 [G] エイレナ イオスの著作。グノーシス主義異端反駁書。原書はギリシア語であったが、散 逸。そのラテン語訳が、伝承されている。ラテン語訳題『Adversus Haereses(異 端反駁)』。 →エイレナイオス。 イラン型グノーシス主義 [E] Iranian Gnosticism ヘ レニク・グノーシス 主義のなかで、東方イランに基盤があったグノーシス思想は、地中海世界まで 展開して大きな勢力となった。その特徴は、シリア・エジプト型グノーシス主 義が、光と善の原理の一元論的原初より、存在流出の途上で、垂直下降的に悪 の二元論世界が創造されたとしたのに対し、神話的原初において、善の原理と 悪の原理を既存前提として、本来的故郷と魂・霊の救済を「光の原理」に要請 する、非垂直的反宇宙的本質的二元論を主張したことにある。その起源地域及 び展開地域よりして、東方グノーシス主義とも称するこの型のグノーシス主義 は、マニ教グノーシス主義がその代表で、マニ教は、肉の生殖を認め、世俗的 生活を営む信者の階位と、禁欲的本来的修行に勤しむ修行者階位に、教えに従 う者を二分した結果、西方グノーシス主義の「エリート的ディレンマ」の解決 を持ち、ヘレニク時代以降、千年以上に渡り存続した。 →ヘレニク・グ ノーシス主義。 →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義」 イレナイウス [L] Irenaeus エイレナイオスのラテ ン語での呼称。 →エイレナイオス。 宇宙 [G] cosmos デーミウルゴスが創造した、「この 世界」のこと。そこは、暗黒と悪に満ちているとされる。「この世」とも云う。 →「用語集,宇宙」 運命 [G] heimarmene ヘイマルメネーは、meiromai の 分詞女性形で、「定まっている・既定であること」の意味で、プラトーン は運命・宿業の意味で使った。ヴァレンティノス派の教えでは、人間は運 命として三種類の人間に生まれた時より分かれているとされる。それは霊 的人間・心魂的人間・質料的人間で、第一は救済が既定で、第三は救済が 可能性としてもない。第二の心魂的人間は、その行いや、智慧への覚醒に 応じて救済の可能性があるとされる。グノーシス主義には、ヴァレンティ ノス派のこの考えほどではないが、救済の可能性をめぐり、「運命論的」 思考が基底にはあると云える。……また、この語の対立語として、プロノ イア(摂理)があるとされる。 →ヘイマルメネー,→プロノイア, → 救済, →心魂(しんこん), →霊的人間, →心魂的人間, →質料 的人間, →「グノーシス主義略論」 エイコーン [G] eikon 影像・似像。ギリシア語で、 鏡に映った像、幻像等を意味する。アカモートは、アイオーン・ソピアーの 中間世界でのエイコーンであった。エイドーロン(幻像,eidoolon)とも云 う。 →「用語集,ソピアー」, 「用語集,アルコンテス」 影像 [G] eikon エイコーンのこと。或いはエイドー ロンのこと。 →エイコーン,エイドーロン エイドーロン [G] eidolon 影像・幻像を意味するギ リシア語。宇宙の初源、ヤルダバオートは、水に映ったソピアーの姿を見て、高 次世界の存在を知ったとも、これが動機となって、「この世=宇宙」の創造を開 始したともされる。ヤルダバオートは、このエイコーンを自分の姿と錯覚したの であるともされる。ヘルメス文書である『ポイマンドレース』に同じモチーフの 神話が述べられており、ヘルメス思想の「コレスポンダンス原理」の一つの表現 と考えられる。 エイレナイオス [G] Eirenaios 代表的なグノーシス 主義異端反駁論者(c.126−202)。ルグドゥヌム(現リヨン,フランス)の司 教であった。『偽りのグノーシスの告発と反駁』と云う題のギリシア語著作を 著したが、原書は散逸、そのラテン語訳が部分的に残っている。『Adversus Haereses(反異端論・異端反駁)』がそのラテン語タイトル。ラテン語名、イ レナイウス(Irenaeus)。彼は、グノーシス主義の起源について、『聖書』の 誤った解釈より生じたと主張し、ヒッポリュトスの説と競合した。この二つの 起源説は、その後も長く西欧におけるグノーシス主義の起源問題で論じられた。 →グノーシス主義異端反駁論者, →ヒッポリュトス, →「用語集,グノーシス主義異端反駁者」 エイン [H] #YN 無。全無。存在宇宙の初源にあって、 一切が神の無の深淵にあった状態を示す。カバッラーでの概念(0518)。 エイン・ソフ [H] #YN SWPh エイン・ソーフ。限りな き。無限状態。全有。カッバラーにおける「神」は、エインであり、無限なる 状態=エイン・ソフにあった。グノーシス主義の「プレーローマ(充満)」に 比定される存在の原初状態。エインとエイン・ソーフの神は人格神ではなく、 存在の絶対無と、絶対無限の状態であった。このような「神」が、或る一つの 契機において、「存在の流出」を開始する。セフィロートとして、神性の流出 が開始されるのである(0518)。 『エウグノストス』 [E] Eugnostos ナグ・ハマ ディ文書。「NH-V-1」(20),B)キリスト教化過程グノーシス文書。 →『聖 なるエウグノストス』。 エオーン [D] Äon アイオーンのドイツ語読み。 →アイオーン エオン [G] aion アイオーンの別読み形。 →アイオーン エクレシアー [G] ecclesia 「教会」或いは「会衆」 を意味する。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを 構成する至高アイオーン。第八アイオーン。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 『エジプト人の福音書』 [E] The "Gospel of the Egiptians" ナグ・ハマディ文書。「NH-III-2」 (14),B)キリスト教化過程グノーシス文書。 『エジプト人の福音書』 [E] The "Gospel of the Egiptians" ナグ・ハマディ文書。「NH-IV-2」 (19)(原題失),B)キリスト教化過程グノーシス文書。第二ヴァージョン。 『エノク書』 [H] Enoch 『旧約聖書外典』。第一・第二 ・第三などのエノク書がある。数多くの、正典・カノンに出てこない天使が登 場し、天使の名等は多く、この書より援用された。 エピファニオス [G] Epiphanios 代表的なグノーシ ス主義異端反駁者。4世紀のキプロスのサラミス司教であった。彼は、著書 『パナリオン(薬籠)』において、80種の異端を論じたとされるが、重複・ 水増ししているか、捏造の疑いもある。異端の数字「80」はキリストの「真 の花嫁」はただ一人で、それは「正統キリスト教会」で、80人の娼婦は、偽 の妻であると云うキリスト教の喩え話から取られた数字と考えられる。彼は、 グノーシス主義者たちの「道徳的頽落」や、反倫理性、就中、「性的放縦性」 などを記載し糾弾しているが、内容的に疑わしいとされる。 →グノーシス主 義異端反駁者, →「用語集,グノーシス主義異端反駁者」 エホバ [J] Ehoba イェホヴァの日本語での読み方。 →イェホヴァ,ヤハウェ。 エル・シャッダイ [H/?] 「偉大なる神」「全能者」 の意味で、ヤハウェの称号であったと記憶するが、現在、未確認。 エローアイオス [C] Elooaios 『ヨハネのアポクリュ フォン』(ベルリン写本,NH-III)に現れる権力アルコーンの名。ヘブドマスの 第二者。 →ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス」 エンテュメーシス [G] enthumesis 配慮・崇敬などの 意味のギリシア語。プトレマイオス派の創世神話で、ソピアーは、至高の父へ の知識慾に取り付かれ、パトスとエンテュメーシスを生み出し、プレーローマ より落下する。エンテュメーシスは、アカモートの別名で、中間世界で、ヤル ダバオートを生み出す。 →ソピアー, アカモート。 『エンネアデス』 [G] enneades プロティーノスの代 表的著作。弟子が纏めた論文集。『エネアデス』とも日本語で言う。「エンネア デス」は「九組」と云うのがギリシア語の原義で、九と云う数を軸として、論文 が配列されているのでこの名がある。 →プロティーノス。 エンノイア [G] Ennoia 「思考」「思い」の意味。別 名シーゲー(沈黙・静寂)。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プ レーローマを構成する至高アイオーン。プロパトールの伴侶で、その女性的位相 を示す。第二アイオーン。 →プロパトール, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 オイクーメネー [G] oikoumene 人が住む世界を意味す る。 王国 [G] basileia キリスト教では、「神の王国」 即ち「天国」を意味する。グノーシス主義では、「王国」とは、プレーロ ーマ乃至霊の本来的故郷を意味する。 →神の国, →プレーローマ 黄道十二宮 [G] zoidia 「獣帯」とも云う。黄道に 沿って並ぶ、十二の星座。これらの星座がまた、アルコーンであると、グノー シス主義では考えられ、十二体の権力アルコーンが存在し、支配しているとさ れた。 →星辰。 →「用語集,アルコンテス」 『大いなるセツの第二の教え』 [E] "The Second Logos of the Great Seth" ナグ・ハマディ文書。「NH-VII-2」 (34),C)キリスト教的グノーシス文書。 オクシュリュンコス・パピルス [E] 19世紀より 20世紀にかけて、エジプトのオクシュリュンコスで発見されたパピルス断片 群。ギリシア語で、未知のイエズスの言葉が記されていた。『ナグ・ハマディ 写本,トマスの福音書』と比較すると、多くが、『トマス福音書』のイエズス の言葉と一致することが確認された(0518)。 オグドアス [G] ogdoas ギリシア語で、「八個の組」 「八組系」或いは「第八」の意味。プトレマイオス派グノーシス主義で、プレー ローマの中心である「オグドアス・アイオーン」を構成する。オグドアスの八個 のアイオーンは、根元的な四つのアイオーンの男性位相と女性位相の顕現である ともされる。それぞれは対を構成している。オグドアスのアイオーンは、至高の 先在の父なる1)プロパトール(プロパテール)=ビュトスと2)シーゲー=エ ンノイアの対にはじまり、3)ヌース=モノゲネースと4)アレーテイアの対、 5)ロゴスと6)ゾーエーの対、7)アントローポスと8)エクレーシアの対よ り構成される。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 『オグドアスとエンネアスについて』 [E] (Dialogue between Father (Hermes) and Son (Tat) concerning Heavenly World) ナグ・ ハマディ文書。「NH-VI-6」(30)(原題欠),D)ヘルメス文書。 「オピス派」 [G] ophis グノーシス主義の一派。オ フィス派。(ナハシュ派)。『創世記』の蛇に、肯定的意味を与える。オピス は、ギリシア語で「蛇」の意味。 「オフィス派」 [G] ophis オピス派の別読み。 → オピス派 ガイスト [D] Geist ドイツ語で「霊」あるいは、 精神のこと。 →霊。 『外典』 [G] apokrypha 『聖書外典』のこと。また、 「アポクリファ」のこと。 →アポクリファ。 神の国 [G] basileia theou 「神の王国」の意味で、 キリスト教で「天国」と呼んでいるものの原語。キリスト教・ユダヤ教・イ スラム教等は、「神の国」での霊肉の完全な復活が「救済」であるとする。 グノーシス主義では、神の王国或いは「王国 Basileiaa」とは、プレ−ロー マ或いは霊の本来的故郷を意味する。 →プレーローマ。 「カタリ派」 [F] cathare 十二世紀頃、南フラン ス、ラングド ック地方で繁栄したキリスト教的・マニ教グノーシス主義的教派。或いは、 マニ教の影響を受けたキリスト教の分派、従って、「異端」であると云う解 釈も存在する。十三世紀、領土的野心を持ったフランス王と教皇庁の利害の 一致から、アルヴィジョワ十字軍と呼ばれる、南フランス征服軍が編成され た。半世紀に及ぶ戦いの後、カタリ派指導者と信者多数を、モンセギュール の城で滅ぼし、こうして、南フランスはフランス王の領土となり、また、カ トリック教会の勢力圏となった。「カタリ」と云う言葉は、ギリシア語の 「カタルシス」即ち「浄化」と云う言葉から来ているとされる。 『雷・完きヌース』 [E] "Thunder : the Perfect Mind" ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-2」 (26),A)非キリスト教的グノーシス文書。 体 [G] soma 体(からだ)。 →体(たい) 身体 [G] soma 身体(からだ)。 →体(たい) 救済 [G] soteria グノーシス主義における「救 済」は、裡なる「霊」が保証する「本来的故郷」への帰還、乃至、自己の 「本来性」の再現である。これは、霊がプレーローマにあって保っていた 永遠的な善と光の調和状態、そして「両性具有」で象徴される、霊と魂の 「完全性」の回復を意味する。キリスト教等では、霊・肉の「生きていた 姿のままの復活」を救済の条件にするが、グノーシス主義では、「肉」は 地上に朽ちるままに放置される。肉は救済の与件には入っていないのであ る。人間の「裡なる霊」に呼応して、天よりプレーローマの使者として超 霊が「救済者」として地上に訪れ、本来の故郷へと帰る方法や、「この世 の真実」についての「真の知識(グノーシス, Gnosis)」を啓示する。こ れに従い、人間の霊、そして心魂は、知識・認識を得て、死後、プレーロ ーマの永遠の故郷へと帰還する。神話的には、帰還の途上、天に昇って行 く霊または心魂に対し、途上の天球の支配者であるアルコーンが、霊の上 昇を妨げようとする。これに対し、心魂は、「我は、知られざる者の世界 を故郷とし、そこに属する者である」と、「先在の父」に属する者である ことを宣言するともされる。死者の霊魂は、こうして途上のアルコーンた ちの関門を潜り抜け、上天の永遠界=プレーローマの世界に帰還するとも される。或いは、この世が滅びる時、霊はプレ−ローマ界に帰還して救済 され、一方、心魂は中間世界で生き延び、これも救済に与れると云う説も ある。 →運命, →救済者, →「用語集,救済者」, →「グノーシス主義略論」 救済者 [G] soter グノーシス主義では、人間は、永 遠の救済に与れる「霊の破片」を魂の裡に持ちつつ、そのことについて「無 知(agnoia)」な状態にあり、肉に閉じこめられているとされる。この宇宙 が偽の神やその配下のアルコーンによって造られた「偽の世界」で、「真の 世界」が、遙か高次の永遠界にあることも、誰か或いは何かが教えねば、人 間は無知のままに留まる。それ故、アイオーン界より、人間の救済のため、 真実開示を目的に、超霊=救済者がこの世に訪れ、人間を「無知状態」より 解放し、また、本来性の故郷への帰還の教えを啓示するとされる。例えば、 キリストが、キリスト教的グノーシス主義では、そのような救済者と見做さ れた。 →「用語集,救済者」 『Q』 [D] Q ドイツ語の Quelle(資料・出典)の頭文 字を取ってこう呼ばれる。キリスト教『新約聖書』の四つの福音書の裡、三 つは、内容が極めて類似しており、特に、イエズスの言葉について類似性があ る。これらの三福音書(マタイ・マルコ・ルカ)を、この故に「共観福音書」 と呼ぶが、この類似性・対応性の背後に、三福音書の著者たちが参照した「イ エズスの語録集」が想定され、この語録集を、通常『Q』と略称する。 境界 [G] horos ホロスのこと。 →ホロス。 キリスト [J] Kirisuto クリストスのこと。日本語で の慣用表記。 →ク リストス。 グノーシス主義 [E] Gnosticism 歴史的に存在したグ ノーシス主義は、紀元1世紀頃より、ヘレニク時代の地中海世界に出現したも のが代表的なものである。当時、ローマ帝国による迫害を受けつつ擡頭してい た原始キリスト教会は、これを教義上の最大の敵とし、「異端」の烙印を押し、 排斥しようと試みた。グノーシス主義はしかし、このヘレニク時代のグノーシ ス主義とは別に、歴史性を超越した普遍的位相があり、これを私たちは「普遍 的グノーシス主義」と呼ぶ。グノーシス乃至グノーシス主義のこの普遍的概念 把握を含め、史的グノーシス主義の本質等をめぐり、1966年の「メッシー ナ提案」が一応の学問的答えを提示した。グノーシス主義は、キリスト教の異 端ではなく、或る種の「現存在の姿勢」を持つ者が、存在世界の存在の解釈を 求めて、既存神話枠に依拠して、「存在解釈」を構成する処に成立するもので あるとの大きな枠での共通認識が成立したとも云える。歴史的なヘレニク時代 のグノーシス主義は、西方型と東方型の二つに分かれるとされる。 →ヘレニ ク・グノーシス主義, メッシーナ提案, →「用語集,ヘレニク・グノーシス 主義」, →「グノーシス主義略論」 グノーシス主義異端反駁者 [L] Adversi Haeresium Gnosticorum 紀元1世紀より4世紀頃、地中海世界においてグノー シス主義運動が展開された。当時擡頭しつつあった原始キリスト教の指導者 たちは、これを重大な危機或いはキリスト教布教の障碍と見做し、グノーシ ス主義に対し「異端」の烙印を押し、その教義の誤謬を論じる「反駁書」を 著した。異端反駁者としては、代表的には、リヨン司教エイレナイオス、ロ ーマ人司祭ヒッポリュトス、サラミス司教エピファニオスの三人が有名であ る。それぞれは、2世紀、3世紀、4世紀に活躍した異端反駁者であった。 →「用語集,グノーシス主義異端反駁者」 『グノーシスの解釈』 [E] "The Interpretation of Knowledge (gnosis)" ナグ・ハマディ文書。「NH-XI-1」 (44),C)キリスト教的グノーシス文書。 クリストス [G] Khristos ヘブライ語で「油注がれ た者」を意味する「メシア」のギリシア語表現。キリスト教の救世主で、その 神学教義に従えば、三位一体の神の「一位格(ペルソナ)」で、「父・子・聖 霊」の」三位格の一つ(聖子の位格)。この三位格は、「神として、本質(ousia) は一であり、その表現乃至顕現のモードの違い」であるとされる。父なる神は、 人間を「原罪」より解放するため、自らが人間として生まれ、イエズスとなり、 人間のため、十字架に昇り、苦しみを受け、「人間の原罪」について、「神 (聖父=天主)」に対し、取りな しを行い、人間の原罪を身に負った。それ故、イエズスは救世主であり、メシ アでありクリストスである。しかし、グノーシス主義では、かような三位一体 教義は無論、考慮の外にあり、クリストスを救済者と見做す時、彼は、プレ− ローマの永遠なる父のもとより訪れた超霊であると見做す。「キリスト」は、 クリストスの日本語での訛った呼び方。 →「用語集,救済者」 『ケノボスキオン文書』 [E] Chenoboskion Library 『ナ グ・ハマディ写本』の別称。古代よりケノボスキアと呼ばれていた地域(現在 のナグ・ハマディ近郊)で発見されたので、この名がある。 →ナグ・ハマディ 写本, →「用語集,ナグ・ハマディ写本」 幻像 [G] eidolon エイドーロンのこと。またエイ コーンのこと。 →エイコーン,エイドーロン 現存在的姿勢 [D] Daseinshaltung 現存在の姿勢の 言い換え表現。 →現存在の姿勢。 現存在の姿勢 [D] Daseinshaltung ハンス・ヨナス が、グノーシス主義の根本規定を求めて、ハイデッガーの実存主義思想を元 に、グノーシス主義は、現存在(Dasein)の或る特徴的な姿勢・態度(ハル トゥング, Haltung)に由来するとした考え。「精神の姿勢」とほぼ同義。 →存在の解釈。 →「現代グノーシス主義原理試論」 原父 [G] propator 「先在の父」「知られざる神」 「上なる父・至高神」とも呼ばれる。グノーシス主義一般において、原初の 神的一者。プトレマイオス派では、第一アイオーンとして、シーゲー(沈黙) を伴侶とする(エイレナイオスの報告に従えば。ヒッポリュトスは、幾分異 なる説を報告している)。 →プロパトール。 →「用語集,プロパテール」, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 光明 [G] phos ポース。光のこと。 →光。 コスモス [G] cosmos 「宇宙」のこと。ギリシア語 での呼称。 →「用語集,宇宙」 『国家』プラトン [E] (passage from Plato's Republic) ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-5」 (29)(原題なし),F)非キリスト教・非グノーシス文書。 この世 [G] cosmos 「宇宙」のこと。造物主(デー ミウルゴス)が創造した偽りと暗黒の苦しみの世界。 →宇宙, →「用語集,宇宙」 『この世の起源について』 [E] On the Origin of the World ナグ・ハマディ文書。「NH-II-5」 (10)(原題なし),B)キリスト教化過程グノーシス文書。『ナグ・ハマディ 写本』中の文書の一つ。 →「用語集,ナグ ・ハマディ写本」 『この世の起源について』(部分) [E] The begining (ten lines) of "On the Origin of the World" ナグ・ハマディ文 書。「NH-XIII-2」(52)(原題なし),B)キリスト教化過程グノー シス文書。十行分断片。 コプト語 [E] Coptic 紀元前後のエジプト語。セム 語の系統にあり、『ナグ・ハマディ写本』は、この言語のサヒディック方言で 記されていた。 →ナグ・ハマディ写本 サーターン [H] Satan 『旧約聖書・ヨブ記』に出てくる 神霊の名前。高位天使であるが、後に、下落した解釈が行われ、キリスト教 では「悪魔」の意味となる。 →天使, →「用語集,天使」 サバオート [H] Sabaoth サバオトとも云う。ユダ ヤ教の至高神ヤハウェの別名乃至称号。ヘブライ語で「万軍」の意味。日本 語訳では、「万軍の主」とも云う。グノーシス主義では、ヤルダバオートの 息子の一人ともされる。また、『ヨハネのアポクリュフォン』(ベルリン写 本)に現れる権力アルコーンの名でもある。この場合、ヘブドマスの第五 者。 →ヘプドマス, →「用語集,ヤルダバオート」, →「用語集,アルコンテス」 サバタイオス [C] Sabattaios 『ヨハネのアポク リュフォン』(ベルリン写本)に現れる権力アルコーンの名。ヘブドマスの 第七者。 →ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス」 サマエル [H] Samael ヘブライ語で、「毒(悪) の天使」の意味と解される。サマエルは「死の天使」とされ、悪魔の王とも され、サーターンと同一視されるが、他方、高次天使で、数百万の天使を従え ているともされる。サーターンが両義的であったように、サマエルも、高位天 使と悪魔の二つの面を伝承では持っている。 →サーターン, →天使。 『三体のプローテンノイア』 [E] "The Trimorphic Protennoia" ナグ・ハマディ文書。「NH-XIII-1」 (51),B)キリスト教化過程グノーシス文書。 『三部の教え』 [E] A "Tripartite Tractate" ナグ・ ハマディ文書。「NH-I-5」(05)(原題なし),C)キリスト教的グノーシス文書。 シーゲー [G] sige 「沈黙・静寂」の意味。別名エ ンノイア(思考・思い)。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プ レーローマを構成する至高アイオーン。第二アイオーン。プロパトールの伴 侶。 →エンノイア, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 シゲー [G] sige シーゲーの別表記。プトレマイ オス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオー ン。 →シーゲー 質料的人間 [G] hyulikos ヒューリコス。ヴァ レンティノス派の教えにおける、三種類の人間の一つ。「肉の人」。プレ ーローマへの救済の可能性がまったくない者。生得的な運命である。パウ ロスがその司牧書翰(『コリント前書』14章)において述べた「土の人」 にも当たり、「地より出たが故に地に還る」。つまり、地上にあって「土」 に崩れ、神の王国(プレーローマ)に行く可能性のない者。「物質的人間」 「肉的人間」とも呼ぶ。 →救済。 →運命。 『使徒パウロの祈り』 [E] A Prayer of the Apostle Paul ナグ・ハマディ文書。「NH-I-1」(01),C)キリスト教的 グノーシス文書。 「シモン派」 [L] Simon サマリア人シモン・マグ ス Simon Magus の教えを信奉する最初期グノーシス主義の一派。『新約聖書 ・使徒行伝』に記述がある。紀元一世紀初頭のヘレニク・グノーシス主義。 シャーマニズム [E] shamanism ユーラシアを中心 として、世 界的に存在する「宗教」の一形態。明確な教義を持ち、理性的釈義を持つ高 等宗教に比すれば、「原始宗教」とも云える。特異な個性の人物が「シャー マン(シャーマニズムにおける霊能者)」の修行を積み、資格の確認を受け た上で、先輩シャーマンに選ばれて、シャーマンとなる。シャーマンは、祖 先の歴史や、祖霊についての知識を持ち、霊界・異界についての知識も持つ。 祭儀を主催する場合もあるが、多くの時、夢見による予言、部族の厄災につ いての悪霊との戦い、悪霊が原因と考えられる病の治癒などに当たる。グノ ーシス主義にも、その秘儀的側面にシャーマニズムの影響があると考えられ る。 シャーマン [E] shaman シャーマニズムにおける 職業的霊能者。離魂を経験し、自己の魂を異界に送り、異界の旅により、世 界や人間の真理を把握する。「呪術師」「呪師」とも云われる。 →シャー マニズム。 十字架 [G] stauros スタウロスのこと。 →スタ ウロス。 シュジュギア [G] syzygia シュジュゴス(伴侶・ 妻/夫)から造られた言葉で、二つの要素が結合され、完全状態を構成した 時の系を云う。プレーローマにあって、至高アイオーンたちは、その伴侶と シュジュギアを構成している。 →「用語集,両性具有」, →「三十アイオーン・プレーローマ構成表」 シュジュゴス [G] syzygos ギリシア語で、「伴侶(妻 /夫)」或いは、対を構成する要素。 →「 用語集,両性具有」 『シェームの釈義』 [E] "The Paraphrase of Shem" ナグ・ハマディ文書。「NH-VII-1」 (33),A)非キリスト教的グノーシス文書。 知られざる父 [G] propator 「知られざる神・至 高者」「上なる父・神」「先在の父」、また「プロパトール」と呼ばれる。 →先在の父。 シリア・エジプト型グノーシス主義 [E] Syrio-Egiptian Gnosticism ヘレニク・ グノーシス主義の一方の極で、西方グノーシス主義とも呼ぶ。特徴は、創造神 話において、グノーシス主義的二元論の成立の機構を、原初の光にして善なる 一者の垂直的存在展開乃至流出で説明し、調和的流出の過程で、何らかの瑕疵乃 至事故・過失によって、不調和成分、すなわち闇と悪の宇宙要素が流出してし まったとする。「ソピアー神話」が、この垂直的な存在流出を象徴的に示して いる。また、『ナグ・ハマディ写本』の諸文書は、シリア・エジプト型に属す ると考えられ、地中海世界の辺縁、主としてエジプト・シリアで発祥したと見 做されるグノーシス主義が、この型に属する。西方グノーシス主義は、肉の生 殖を否定したため、いわゆる「エリートのディレンマ」に陥った。それらは、 紀元四世紀には、教派としては自滅したものとも想定される。 →ヘレニク・ グノーシス主義。 →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義」 『シルウァヌスの教え』 [E] The "Teaqchings of Silvanus" ナグ・ハマディ文書。「NH-VII-4」 (36),E)キリスト教文書。 心魂(しんこん・たましい) [G] psyche 人間 は、グノーシス主義では、三つの実体要素からなり、それは肉・霊・心魂 の三要素で、心魂は、その裡の一つ。救済に与れるか否かは、心魂の浄化 のレヴェルにあるとも 云える。魂(たましい)。霊魂とも云う。ヴァレンティノス派には、「新 婦の部屋」の秘儀があり、これは、心魂(女性名詞)を花嫁とする、霊と の象徴的結婚儀式で、プレーローマにおける、心と霊の聖婚による「両性 具有」の実現を象徴的に実現する儀式であった。ヴァレンティノス派はま た、人間の三つの種類を唱え、霊的人間、心的人間、肉的・物質的・質料 的人間の三種は、それぞれ、「運命」が決まっているともした。 →「用語集,心魂(しんこん)」, →「用語集,両性具有」 心魂的人間 [G] psyuchikos プシューキコス。ヴァ レンティノス派の教えにおける、三種類の人間の一つ。霊的人間と質料的 人間が、生得的に救済の可否が定まっているに対し、この世での行いや、 グノーシス(知識)の獲得程度に応じて、救済の可能性のある者。ヴァレ ンティノス派及びその派生教派は、当時の原始キリスト教の信者を、「心 的人間」と見做し、考えを改め、グノーシスの獲得に努力すれば、救済の 可能性もあると主張していた。 →救済。 →運命。 『真正な教え』 [E] "The Original (Authentic) Doctrine" ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-3」 (27),C)キリスト教的グノーシス文書。 新婦の部屋 [G] ヴァレンティノス派の秘儀とされ、 象徴的に「心魂」と「霊」の聖婚が成立する。 →「用語集,両性具有」 『真理の証言』 [E] "The Testimony of Truth" 「ナグ・ハマディ文書。NH-IX-3」 (42)(原題なし),C)キリスト教的グノーシス文書。 『真理の福音』 [E] The "Gospel of Truth", [L] Evangelium Veritatis ナグ・ハ マディ文書。「NH-I-3」(03)(incipit),C)キリスト教的グノーシス文書。 (注:「incipit」は、原題のない場合、文書冒頭の「言葉」でタイトルとする形 式。『旧約聖書』には、この形式の題名がかなりある)。『ナグ ・ハマディ写本』中のグノーシス主義文書。原題はなく、文書冒頭の言葉の ラテン語訳を元に、『真理の福音』と通称される。ヴァレンティノスの説教 を文書として記録したものではないかと云う仮説がある。 →ナグ・ハマ ディ写本 『真理の福音』(部分) [E] Part of the "Gospel of Truth" ナグ・ハマディ文書。「NH-XII-2」 (49)(原題なし),C)キリスト教的グノーシス文書。 『救い主の対話』 [E] The "Dialogue of the Redeemer" ナグ・ハマディ文書。「NH-III-5」 (17),C)キリスト教的グノーシス文書。 スタウロス [G] stauros ギリシア語の原義は「杭」 であるが、キリスト教『新約聖書』では、キリストが磔刑にされた「十字架」 を意味する。グノーシス主義の言葉としては、恐らく、キリスト教の用語を 借用したのであろうが、プトレマイオス派の創世神話で、ソピアーの落下事件 において、プレーローマを護るため築かれた「境界(ホロス)」の別名。中 間世界に取り残されたアカモートの求めに応じて、アイオーン・クリストスが、 プレーローマから、スタウロスの上に身を延ばして、アカモートを救おうと したとされるが、これは、十字架に磔されたキリストの姿のパロディではない かと私たちは考えている。 →ホロス, →ソピアー。 スピリトゥス [L] spiritus ラテン語の「霊・精神」 のこと。英語の spirit, フランス語の esprit は、スピリトゥスから派生し た。 →霊。 生気 [/] 生命の本源を構成すると考えられる「気 体的実体」。インド思想のプラーナなどが、それに該当する。霊や魂と同様に、 「息」「気息」或いは「風」などの言葉から派生して概念構成される。 →霊, 魂。 『聖書外典』 [G] apokrypha 「アポクリファ」の こと。 →アポクリファ。 星辰 [G] asteres 星のこと。古代宇宙論では、恒星 天に鏤められた天体を云うが、ここでは、惑星も含めて、地球外の天体を云う。 古代宇宙論では、星辰は神或いは神霊の宿る場であった。しかし、グノーシス 主義では、星辰は、アルコーンの支配の場であり、星辰そのものが、アルコー ンとも見做された。 →惑星。 →「用語集,アルコーン」 精神 [L] spiritus spiritus は、精神或いは精神機 能を意味する。しかし、霊の意味もあり、「酒精」のことを spiritus で表現 する。ギリシア語では、霊(pneuma)乃至、理法・理性(nous)が対応してい るとも云える。ドイツ語では、Geist(ガイスト)と云う。 →霊, →ヌース。 精神的姿勢 [D] Geisteshaltung 精神の姿勢の言い換 え表現。現存在の姿勢とほぼ同義。 →現存在の姿勢。 精神の姿勢 [D] Geisteshaltung ハンス・ヨナスの グノーシス主義の基本原理規定をめぐる考察に基づき、荒井献が原理規定で援 用する概念。現存在の姿勢とほぼ同義。 →現存在の姿勢。 『聖なるエウグノストス』 [E] The Blessed Eugnostos ナグ・ハマディ文書。「NH-III-3」 (15),B)キリスト教化過程グノーシス文書。 →『エウグノストス』。 西方グノーシス主義 [E] Western Gnosticism シリア ・エジプト型グノーシス主義の別称。 →シリア・エジプト型グノーシス主義。 聖マリア [L] Sancta Maria キリスト教において、 救世主イエズスの母にして、処女母。「神の母」の称号を持つが、その原型 的存在は、地中海世界の「神々の母・レアー」であるだろう。他方、グノー シス主義の立場から見れば、聖マリアは、プトレマイオス派のプレーローマ における第二アイオーン・シーゲーの位置にあると云える。或いは、まさに 「ソピアー」のキリスト教的に変形され、抑圧された様態が聖マリアである と考えるのが妥当である。 →ソピアー, →「用語集,ソピアー」 生命 [G] zoe ゾーエーは生命・生物の意味である。キ リスト教では、『新約聖書・ヨハネ福音書』などに、救世者キリストは純粋なる 「生命=ゾーエー」であると云う考えが述べられている。グノーシス主義では、 オグドアス・プレーローマの第六アイオーンである。 →ゾーエー, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 『セクストゥスの金言』 [E] The "Senteces of Sextus" ナグ・ハマディ文書。「NH-XII-1」 (48)(原題なし),F)非キリスト教・非グノーシス文書。 『セツの三つの柱』 [E] "The Three Pillars (Stelae) of Seth" ナグ・ハマディ文書。「NH-VII-5」 (37),A)非キリスト教的グノーシス文書。 『全異端反駁』 [L] Reftatio Omnium Haeresium ローマ 人司祭ヒッポリュトスの著作。グノーシス主義異端反駁書。 →ヒッポリュトス。 先在の父 [G] propator 「知られざる神・至高者」 「上なる父・神」とも呼ばれる。プレーローマの「無の深淵」に存在した、 存在の充満の根源アイオーン。プトレマイオス派の体系で、第三アイオーン となる「ヌース(叡智)」は、この「先在の父」に対応して、「万物の父」 と呼ばれる。「先在の父」は、「独り子(モノゲネース)」として、ヌース を生み出し、ヌースは、父の独り子として「世界」を創造し、「万物の父」 と呼ばれた。ヌースが創造したのは、しかし、「この世=宇宙」ではなく、 プレーローマの永遠世界であった。 →プロパトール。 →「用語集,プロパテール」, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 造物主 [G] demiourgos デーミウルゴスのこと。プ ラトーンの著作に現れる、下級の世界創造者。 →デーミウルゴス。 ゾーエー [G] zoe 「生命」の意味。プトレマイオ ス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。 第六アイオーン。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 ソピアー [G] Sophiaa ギリシア語で「智慧」の 意味。プトレマイオス派を初め、多くの西方グノーシス主義において、「宇 宙」と「アルコーンたち」が創造される契機となる宇宙的事件を引き起こし た高次アイオーン。エイレナイオスの報告によるプトレマイオス派の神話で は、第三十アイオーンである彼女が、伴侶テレートスとの合意なくして、「 知られざる父」への知識慾・認識慾(パトス)を抱いたのが、プレーローマ の調和の破綻の開始である。ソピアーは落下し、様々な分身・エイコーンに 分化する。(ソピアー本体は、プレーローマを護るため築かれた「ホロス (境界)」によって救済され、プレーローマに帰還することができた。しか し、ソピアーの分身は、ホロスの外に取り残され、中間世界が構成される)。 アイオーン・ソピアーの分身たちの流浪の運命がこの時より始まり、影像 (エンテュメーシス乃至ア カモート)は、中間世界でヤルダバオートを創造する他方、ソピアーは更に 落下して、地上世界で、魂として、娼婦となって放浪し、陵辱されるが、光 のグノーシスを得て、救済されると云う神話も存在する。バルベロ派の至高 女性アイオーンであるバルベロはソピアーの役割を果たしており、ソピアー は、グノーシス主義一般において、或る神話的原型であると云える。それは、 「救済される者」が即ち「救済者」でもあると云う矛盾的事態を象徴的に表 現する存在でもある。救済者は、キリスト教的グノーシス主義では、クリス トスであるが、原型的には、ソピアー或いはそれに相同な女性高次霊が救済 者であったと考えられる。 →ホロス, →聖マリア, →「用語集,ソピアー」 ソフィア [G] Sophiaa ソピアーの別読み。 → ソピアー, →「用語集,ソピアー」 ゾロアスター教 [D] Die Lehre des Zoroaster (Zarathustra) ゾロアスター(ザラトゥストラ)が創始したと される古代ペルシアの宗教で、光と闇の二元論で知られる。グノーシス主 義の二元論や、その神話構成に影響したことは認められるが、グノーシス主 義とは神学構造が異質であり、明らかに別の宗教である。ペルシアの国教で あり、その神官・僧を、ギリシア語でマゴス(magos)と呼んだ。イエズス の誕生の時訪れた、東方の三博士は、マゴスたちであり、ゾロアスター教の 司祭であったとも考えられる。 存在解釈 [D] Seinsdeutung 存在の解釈の別表現。 →存在の解釈。 存在の解釈 [D] Seinsdeutung ハンス・ヨナスのグ ノーシス主義の本質規定をめぐり、荒井献が援用した概念。グノーシス主義的 「現存在の姿勢」より、存在世界の「存在 Sein」について、グノーシス主義的 実存は「説明」を求め、これを、既存の宗教や神話の枠組み・神話素を元に、 「創作神話」によって、「解釈 deuten」する作業を云う。この「存在の解釈」 によって、グノーシス主義の世界観が表現され、また救済の原理機構が提示さ れる。「存在解釈」とも云う。 →現存在の姿勢。 →「現代グノーシス主義原理試論」 体 [G] soma 肉に対応する部分があるが、また別の 意味を持つ。「身体」とも云う。グノーシス主義は、人間は、霊・心魂・肉 の三元より構成され、救済に与れるのは、霊と心魂の一部であるとするが、 キリスト教では、人間は、霊と肉の二元または、霊・肉・魂・体の四元で構 成されるとし、救済に与れる者は、「神の国」で、四元が揃った形で「復活」 するとされる。 →肉, →「グノーシス主義略論」 第一のアルコーン [G] Proto-Archon アルコーンた ちの第一人者。デーミウルゴスの別称。 →デーミウルゴス ダイモーン [G] daimon 古代ギリシアの「神霊」の ことであり、ソークラテースに霊感或いは預言を与えたことで有名。後に下 落して、西欧では、悪魔のこととなり、英語の damon となる。 魂 [G] psyche グノーシス主義では、人間を構成する 三要素の一つ。 →心魂(しんこん)。 『魂の解明』 [E] Exegesis on the Soul ナグ・ ハマディ文書。「NH-II-6」(11),C)キリスト教的グノーシス文書。『ナグ ・ハマディ写本』中のグノーシス主義文書。 →ナグ・ハマディ写本 『(断片)』 [E] ナグ・ハマディ文書。「NH-XII-3」 (50)(原題なし)。 父 [G] pater キリスト教では、イエズスが祈った「天 の父なる神」。マルキオーンのシステムでは、ユダヤ教の神=ヤハウェと対立す る、異邦の知られざる「救済の主」。グノーシス主義では、プレーローマの第一 アイオーン=ビュトスのことでもあるが、また、ビュトス=プロパトールの生み 出した、その「独り子」たる「ヌース Nous」が、万物の「父」とも呼ば れる。 →ヌース, →先在の父, →「用語集,マルキオーン」, →「用語集,オグドアス」 『ツォストゥリアヌス』 [E] "Zostrianos" (The Teaching of Zoroaster) ナグ・ハマディ文書。「NH-VIII-1」 (38),A)非キリスト教的グノーシス文書。 ディオニュシウス [L] Dionysius ディオニュシオスの ラテン語形。 →ディオニュシオス。 ディオニュシオス [G] Dionysios 古代及び中世キリス ト教神学、神秘主義思想等では、通常、「偽ディオニュシオス・アレオパギテ ス Pseudo-Dionyusios Areoopagitees 」 を指す。ラテン語名ディオニュシウス・アレオパギタ。 「ディオニュシオス・アレオパギテス」の名で、『天上位階論』など複数の著作 のある古代哲学者。原始キリスト教に、その名の人物が別におり、長く、この人 物と混同されて来たが、別人であるので、「偽 pseudo-」が、名前の前に慣習的 に付けられる。 →「キリスト教天上位階論」 『ディオニュシオス偽書』 [G] pseudo-Dionysios 偽デ ィオニュシオスの著作。四世紀頃、ギリシア語で記された。四つの著書と十数通 の書翰など。 →ディオニュシオス。 『ティマイオス』 [G] Timaios プラトーンの著作。そ こで語られる世界創造神話における、下級の「世界造形者」である造物主(デー ミウルゴス, demiourgos」をグノーシス主義諸派は援用し、これを、光の永遠 界=プレーローマに対立する愚かな下級神であるとした。 デカス [G] dekas ギリシア語で、「十個の組」「十 組系」或いは「第十」の意味。プトレマイオス派グノーシス主義で、三十アイ オーンを構成する。オグドアス(八組系)より派生した、下位の高次アイオー ン群。 →「用語集,プレーローマ」, →「三十アイオーン・プレーローマ構成表」 テトラクテュス [G] tetraktys ギリシア語で、「四 個の組」「四組系」或いは「第四」の意味。プトレマイオス派グノーシス主義 における至高中の至高プレーローマ界。原初、「認識を超えた先在の父」より、 光の存在流出が生じ、先在の父は、その女性的位相であるシーゲーを通じて、 ヌース(叡智)とアレーテイア(真理)を創造した。先在の父=プロパトール と、その対シーゲー、そしてこの両者より流出した二つのアイオーンが構成す る四つの至高アイオーンの組を、テトラクテュスと呼ぶ。 →「用語集,テトラクテュス」, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 デーミウルゴス [G] demiourgos デミウルゴス、 デーミウールゴスとも云う。ギリシア語で「職人」等の意味であるが、グ ノーシス主義では、プラトーンの著作の神話より援用して、光のプレーロー マに対抗する闇の勢力の第一人者で、この宇宙を創造した者=「造物主」と する。「第一のアルコーン」「偽の神」、或いは「ヤルダバオート」とも呼 ぶ。 →ヤルダバオート, →「用語集,デーミウルゴス」 デミウルク [D] Demiurg デーミウルゴスのドイツ 語読み。 →デーミウルゴス。 テレートス [G] Theletos プトレマイオス派のシス テム(エイレナイオス報告)で、 第二十九アイオーン。アイオーン・ソピアーの伴侶。その名前は「意欲」を 意味する。ソピアーが、テレートスとの合意なしに、「知られざる父」への 認識慾・知識慾を持ったのが、「この世」の起源であると云われる。 →「用語集,ソピアー」 天使 [G] angelos 使者の意味より派生した言葉。 古代オリエントで、神と人間のあいだを繋ぐ神霊として考えられた。ユダヤ 教・キリスト教・イスラム教、またゾロアスター教には「天使」が概念とし てあるが、グノーシス主義では、アイオーン乃至アルコーンがそれに対応す る。当然、アイオーンやアルコーンの名として、ユダヤ教・キリスト教など の天使の名を援用した。なお、天使には、堕天使が含まれ、サーターン、サ マエル、ベリアルなどはグノーシス主義のアルコーンとも比定可能である。 →「用語集,天使」, →「キリスト教天上位階論・天使位階表」 『闘技者トマスの書』 [E] The "Book of Thomas (the athlete)" ナグ・ハマディ文書。「NH-II-7」 (12),C)キリスト教的グノーシス文書。 東方グノーシス主義 [E] Eastern Gnosticism イ ラン型グノーシス主義の別称。 →イラン型グノーシス主義。 ドーデカス [G] dodekas ギリシア語で、「十二個の 組」「十二組系」或いは「第十二」の意味。プトレマイオス派グノーシス主義 で、三十アイオーンを構成する。オグドアス(八組系)より派生した、下位の 高次アイオーン群。 →「用語集,プ レーローマ」, →「三十アイオーン・プレーローマ構成表」 『唱えられた祈り』 [E] A Prayer ナグ・ハマディ 文書。「NH-VI-7」(31)(incipit),D)ヘルメス文書。 『トマスによる福音書』 [E] The "Gospel of Thomas" [D] Evangelium nach Thomas ナグ・ハマディ文 書。「NH-II-2」(07),C)キリスト教的グノーシス文書。『ナグ・ハマディ写 本』中のグノーシス主義文書。古来より、正典(カノン)『新約聖書』四福 音書以外に、『トマスによる福音書』と呼ばれる第五の福音書が存在したこ とが、記録として残っていた。原本は湮滅したものと考えられ、内容を僅か に伝える記録しかなかった。『ナグ・ハマディ写本』の発見において、その 第一コーデックスに、この往古の福音書と比定される文書が含まれていた。 内容は、イエズスの語録集で、形態的には『Q』に近い。荒井献の翻訳解説 で講談社より出版されている。 →ナグ・ハマディ写本。 『ナグ・ハマディ写本』 [E] Nag Hammadi Codices 上 エジプトのナイル川流域にあるナグ・ハマディで1945年に発見された、原典 グノーシス主義文書を多数含むパピルス・コーデックス群(全十三写本)。 『ケノボスキオン文書』とも呼ばれる。写本はサヒディック方言コプト語で 記されており、筆 写されたのが四世紀であり、ギリシア語原書より翻訳されたものと考えられ る。従来、異端反駁論者たちの著作を通じて、間接的にしか知り得なかった グノーシス主義について、直接的に知ることができるようになり、グノーシ ス主義研究に新しい展望をもらした。オランダの出版社ブリルが、原典ファ クシミリ版及び、英語による全訳(The Nag Hammai Library in English)を 出版した。日本では、荒井献・大貫隆等が編集翻訳して、岩波書店より『ナ グ・ハマディ文書』全四巻として出版されている。日本語訳は、原典全52 文書の裡、保存状態のよかった33文書の翻訳である。(『ナグ・ハマディ 写本』中の文書は、「NH-I-1」と云うように略する。これは、「ナグ・ハマ ディ第一写本第1文書」の意味で、具体的な題名では、『使徒パウロの祈り』 を意味する) →「用語集,ハグ・ハマディ写本」 「ナハシュ派」 [H] グノーシス主義の一派。オ ピス派と同じものではないかと云われている。『旧約聖書・創世記』におけ る、アダムとヘーヴァを誘惑した蛇に、肯定的意味を与えるので、このよう に、異端反駁論者ヒッポリュトスが名付けた。 →オピス派 肉 [G] sarks 人間を構成する三つの要素の一つ。 グノーシス主義では、光のプレーローマと、暗黒の宇宙(この世)の二元論 を主張するが、光のプレーローマに属する「霊, pneuma」に対し、暗黒のこ の世に属するのが「肉(サルクス)」である。グノーシス主義の世界観では 世界は三世界よりなり、いま一つ「中間世界」と云うものが考えられるが、 それに対応するのは「心魂」であり、肉と心魂は、デーミウルゴスやアルコ ーンたちが創造したもので、それ故、可壊であり、不完全で、滅びの定めに あるとされる。肉・肉体よりの、霊そして心魂の「救済」がグノーシス主義 の基本教義である。 →霊, →心魂(しんこん), →「用語集,肉,肉体」 肉体 [G] sarkosoma 肉と同義。肉による身体 (sooma)の意味。「体(ソーマ)」は肉とはまた区別される。 →肉。 肉的人間 [G] sarkikos 質料的人間のこと。複数 形は、サルキコイ(sarkikoi)。 →質料的人間。 肉の衣 [G] キリストの霊は、地上に降下する時、 「肉の衣」を纏ったとされる。グノーシス主義では、これは、アルコーンた ちの目を幻惑するためであったとも云われている。人間の霊と魂は肉の衣を 纏っている、或いは、牢獄としての肉に閉じこめられているとされる。 →「用語集,肉,肉体」 偽の神 [G] pseudos theos 通常、第一のアルコー ン、デーミウルゴスを指す。 →デーミウルゴス 偽ディオニュシオス・アレオパギテス [G] pseudo-Dionysios Areopagites 偽ディオニュシオスのこと。 →ディオニュシオス。 偽ディオニュシウス・アレオパギタ [L] pseudo-Dionysius Areopagita 偽ディオニュシオスのラテン語名。 →ディオニュシオス。 似像 [G] eikon エイコーンのこと。或いはエイドー ロンのこと。 →エイコーン,エイドーロン 二元論 [D] Dualisumus 一般に、世界=存在世界が、 二つの根本原理の対立と両者の相互作用より成り立っているとする世界観。プ ラトーンの哲学が、質料の地上世界とイデアーの永遠界を対比させる、観念論的 二元論の典型とされる。宗教としては、光・善の原理と闇・悪の原理が、相克 しているとするゾロアスター教が典型的二元論宗教。グノーシス主義は、「こ の世=宇宙」を否定する、本質的二元論とされる。 →反宇宙的二元論, →「用語集,反宇宙的二元論」, →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義」 二神論 [D] Dualisumus Dualisumus 或いは英語の dualism は、「二神論」と云う意味も含む。二元論の或る限定的な場合と 考えることができる。対立する二元が、神格である場合に、二神論となる。 グノーシス主義の場合、デーミウルゴスも「神格」であるので、「二神論」 とも云える。 →二元論。 ヌース [G] nous 古代ギリシアで考えられた、「叡 智存在」乃至「叡智」そのもの。アリストテレースは、星辰にはヌースが宿っ ているとした。叡智・理法・宇宙理性などとも訳する。グノーシス主義におい ては、プトレマイオス派を代表として、「オグドアス」を構成する至高アイオ ーンの名。第一アイオーンである「プロパトール=ビュトス」が、「原父」乃 至「先在の父」と呼ばれるに対し、アイオーン・ヌースは、「万物の父」或い は「独り子」と呼ばれる。また、彼だけが、「知られざる父=プロパトール」 を認識し得たとされる。オグドアスの第三アイオーンである。伴侶はアレーテ イア(真理)。(ギリシア語では、「ノオス noos」と云う別形がある)。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 ヌミノーゼ [D] Numinose ルドルフ・オットーが提 唱した、神や神霊の有する、人に対し「畏怖」を喚起させる特質。「霊的権 威」の顕現とも云える。神や天使などが、人の前に出現する時、通常、「恐怖 ・畏怖」の感情が生じる。これをヌミノーゼとオットーは定義した。 『ノーレアの思い』 [E] "Ode about Norea" ナグ・ハマディ文書。「NH-IX-2」 (41),C)キリスト教的グノーシス文書。 『パウロの黙示録』 [E] The "Apocalypse of Paul" ナグ・ハマディ文書。「NH-V-2」 (21),C)キリスト教的グノーシス文書。 パコミオス [G] Pakhomios 『ナグ・ハマディ写本』 の起源についての有力な仮説として、四世紀当時、パコミオスが創設した、コプ ト・キリスト教修道院が、ナグ・ハマディの近くにあり、写本群は、この修 道院が収集していた「禁欲主義」「グノーシス」についての文書ライブラリ ーであったのではないかと推定されている。 →ナグ・ハマディ写本, →「用語集,ナグ・ハマディ写本」 パトス [G] pathos 通常のギリシア語として、意 図せずに捕らわれる「情熱・熱狂」で、「受苦」とも云う。グノーシス主義で は、プトレマイオス派の創世神話で、ソピアーが、知られれざる父への知識慾・ 情熱(パトス)に捉えられ、プレーローマより落下する。パトスは、ソピアー の分身として、中間世界で機能する。 →ソピアー。 『パナリオン』 [G] panarion サラミス司教エピファ ニオスの著作。グノーシス主義異端反駁書。「薬籠」と訳される。 →エピファ ニオス。 パラクレートス [G] parakletos ギリシア語では、 「弁護者・保護者・慰安者」の意味であり、イエズスは、『福音書』の伝え る処では、自分の死後、神より、パラクレートスを弟子たちに遣わしてもら うと約束する。これがキリスト教の「聖霊」である。聖霊は、ハギオン・プ ネウマ(hagion pneuma)ともギリシア語で云う。 バルベーロー [C/?] Barbelo バルベロ。 バルベロ [C/?] Barbelo バルベロ派(バルベロ・グ ノーシス主義派)に出てくる至高アイオーンの女性的位相。また『ヨハネのア ポクリュフォン』等でも、至高霊として、原初の名付けえぬ存在の女性的位相 として出てくる(「母父 Meetropatoor」とも呼ぶ)。バルベーロー。バルベロ はまた、他のグノーシス主義諸派の「ソピアー」に当たる。 →ソピアー。 「バルベロ派」 [C/?] Barbelo グノーシス主義の一 派。バルベロと云う語源不明の女性アイオーンを、至高アイオーン=救済者 とする。 →バルベロ。 反宇宙的二元論 [D] Akosmischendualismus グノー シス主義の世界観を典型的に表す「宇宙把握」。この世=宇宙=コスモスは、 悪と暗黒の神=偽の神=デーミウルゴスの創造になるもので、自覚あるグノー シス的魂の人にとっては、本来的故郷ではなく、本来的故郷は、「真の神」で あるプレーローマの「知られざる神」の永遠世界にあるとする二元論。それは また、人間を構成する、肉と霊の二元対立にも反映する。人間の「心魂」は、 裡なる霊の光に導かれ、救済されるとする。ゾロアスター教やプラトーンの二 元論の影響を受けているが、「本質的に」この世=宇宙を否定する二元論。 →「用語集,反宇宙的二元論」, →「用語集,プレーローマ」, 「用語集,デーミウルゴス」, →「グノーシス主義略論」 光 [G] phos ポース。「光明」とも云う。ゾロアス ター教では、善悪二元論の善の原理は光であり、光明神アフラマズダが考え られた。キリスト教では、『新約聖書・ヨハネ福音書』が、キリストを永遠の 世界より訪れ「世を照らす光」であると規定している。この場合、暗闇・暗黒 (skotia)との対立が述べられている。グノーシス主義では、善なるプレーロ ーマと至高アイオーンたちは、光・光明であるとされる。 →「用語集,反宇宙的二元論」, →「グノーシス主義略論」 ピスティス・ソピアー [G] pistis sophia ピスティ スはギリシア語の「信仰」で、ソピアーは「智慧」、或るグノーシス主義の神 話では、ソピアーは、ピスティスと呼ばれる。また、ピスティス・ソピアーは、 中間世界における、ソピアーのエイコーン(影像)の名前でもある。/『ピス ティス・ソピアー』と通称される、グノーシス主義文書がある。 →「用語集,アルコンテス」 『ピスティス・ソピアー』 [G] Pistis Sophia 『ナ グ・ハマディ写本』以前に、十八世紀中葉偶然発見された、グノーシス主義文 書の通称。羊皮紙写本で、178葉、356頁あり、『アスキュー写本』とも 呼ばれる。内容は、単一の文書で、イエズスとその女性弟子マグダラのマリア などの対話が記されている膨大な著作。『ピスティス・ソピアー』とは、この グノーシス主義文書の通称でもある(0514)。大英博物館所蔵。 ピスティス・ソフィア [G] pistis sophia ピスティ ス・ソピアーの別表記。 →ピスティス・ソピアー。 ヒッポリュトス [G] Hippolytos グノーシス主義異 端反駁論書である『全異端反駁 Reftatio Omnium Haeresium』の著者と比定さ れる、3世紀後半のローマ人司祭。教皇候補(対立教皇)でもあったとされる。 グノーシス 主義異端についての報告で、エイレナイオスのそれとは異なる説明が彼の著書 には存在する。例えば、初期グノーシス主義派であるバシレイデース派の教説 として、独特の「pansperma, 汎種子」説を彼らが主張していたとヒッポリュ トスは報告している。また、グノーシス主義の起源について、彼は、エイレナ イオスとは異なり、キリスト教と異教(ギリシア哲学や、その他の諸思想・諸 宗教)の混淆によってグノーシス主義は生まれたと主張した。 →エイレナイオス, →「用語集,グノーシス主義異端反駁者」 否定神学 [/] 肯定神学の対語。超越者等を表現・ 説明するにおいて、積極的にその「属性」を列挙するのではなく、「Aでも なく、Bでもなく、Cでもなく……」と云うように、属性を否定して行く形 で超越者の(人間の思惟で把握し得る限りの)属性を「否定的」に規定し、 これによって、超越者の「超越性」を表現する形の神学システム。グノーシ ス主義は、プロパトール=知られざる父の描写について、否定神学であった。 →先在の父。 独り子 [G] monogenes 「モノゲネース」の意味。 (ラテン語では、unigentus となる)。 プトレマイオス派グノーシス主義ではオグドアス・プレーローマを構成する 至高アイオーン。万物の「父」とも呼ばれる。 →モノゲネース, →ヌー ス, →父, →「用語集,オグドアス」 ビュトス [G] bythos 「深淵」の意味。プロパトー ルの別名。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構 成する至高アイオーン。第一アイオーン。 →プロパトール, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 『ヒュプシフロネー』 [E] "The High-Minded (hypsiphrone)" ナグ・ハマディ文書。「NH-XI-4」 (47),A)非キリスト教的グノーシス文書。 ヒューリコス [G] hyulikos 質料的人間のこと。 複数形は、ヒューリコイ(hyulikoi)。 →質料的人間。 『ピリポに送ったペテロの手紙』 [E] The "Letter of Peter to Philip" ナグ・ハマディ文書。「NH-VIII-2」 (39),C)キリスト教的グノーシス文書。 『ピリポによる福音書』 [E] The "Gospel of Philip" ナグ・ハマディ文書。「NH-II-3」 (08),C)キリスト教的グノーシス文書。 プシューケー [G] psyuche ギリシア語で魂・亡霊な どの意味。グノーシス主義では、人間を構成する三要素の一つ。「心魂」のこ と。 →心魂(しんこん)。 プシューキコス [G] psyuchikos 心魂的人間の こと。複数形は、プシューキコイ(psyuchikoi)。 →心魂的人間。 『復活に関する教え』 [E] The "Treatise (Logos) on the Ressurection" ナグ・ハマディ文書。「NH-I-4」(04),C)キリ スト教的グノーシス文書。 物質的人間 [G] hyulikos 質料的人間のこと。 複数形は、ヒューリコイ(hyulikoi)。 →質料的人間。 「プトレマイオス派」 [G] Ptolemaios グノーシス主 義の一派。プトレマイオスは大ヴァレンティノスの弟子とされる。反異端論駁 者エイレナイオスの反駁書『異端反駁』にその教義が詳細に記されている。 プネウマ [G] pneuma ギリシア語の「霊」。 →霊。 プネウマティコス [G] pneumatikos 霊的人間の こと。複数形は、プネウマティコイ(pneumatikoi)。 →霊的人間。 プノイマ [D] Pneuma ドイツ語での「プネウマ」。霊 のこと。 →霊。 普遍グノーシス主義 [E] universal Gnosticism ヘレ ニク・グノーシス主義を、歴史的個別的グノーシス主義とすれば、グノーシス 主義の原理的規定において成立する、現存在の姿勢と、それより構想される存 在解釈を持つ、世界把握の様式と実存の存在様態は、原型的グノーシス主義と 称すべきであるし、これが、「普遍グノーシス主義」の原理基盤である。歴史 的個別的グノーシス主義と、超歴史的な、現存在の姿勢より来る世界解釈とし ての普遍グノーシス主義の基本概念規定は、1966年イタリアのメッシーナ 大学で開催された「国際コロキウム」において、研究者たちの概ねの合意を得 て、確認された。 →ヘレニク・グノーシス主義, →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義」 『ブルース写本』 [E] Bruce Codex (Codex Brucianus) 1773年、スコットランド人旅行者スコット・ジェイ ムス・ブルースが、上エジプトのテーベ近郊で購入したパピルス写本。78葉、 156頁あり、『ピスティス・ソピアー』同様、復活のイエズスが語る黙示録 である『大いなる神秘のロゴスの書』が含まれる。この書の通称は、『イェウ の二つの書』であるが、これは、『ピスティス・ソピアー』に言及ある処か らの推定で、正確には、上の『大いなる神秘のロゴスの書』が書名である。第 二部は、「未知のグノーシス主義文書」とされ、セツが主要な役割を果たすが、 詳細不明(写本の傷みが激しく、不完全である)。オックスフォードのボード レイアン図書館所蔵(0518)。 プレーローマ [G] pleroma ギリシア語で「充満」の 意味。人間の魂の本来的故郷があると考えられる、「超宇宙的圏域」。至高神 である「知られざる先在の父」から流出した、至高アイオーンが秩序を構成し ている善と光の世界。プレロマとも云う。 →「用語集,プレーローマ」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」, →「三十アイオーン・プレーローマ構成表」 プレロマ [G] pleroma プレーローマの別表記。ギリ シア語で充満の意味。 →プレーローマ。 →「用語集,プレーローマ」 プロノイア [G] pronoia ギリシア語として、「先 見」「先慮」の意味。『ヨハネのアポクリュフォン』等に登場する至高アイ オーンの女性位相(つまり、バルベロの別名)。岩波書店版『ナグ・ハマディ 文書』の付録用語解説では、「プロノイア」は「摂理」で、「ヘイマルメネー」 の同義語、しかし対立語として説明されている。ギリシア語の用法では、確かに そのような意味もある。他方、「Nag Hammadi Library in English」では、 forethoughts と訳されれている。「摂理」は英語で、Providence で、この 言葉自体、ラテン語語根から云えば、fore-sight である。全用例について、 「プロノイア=摂理」とするのは、少し無理があると思う。「先慮」「予見」 と云うような意味を含むことを説明する必要があるのではないかと思う(0514)。 プロティノス [G] Plotinos プロティーノスの別表記。 →プロティーノス。 プロティーノス [G] Plotinos 新プラトン主義の最高 峰(204−269)。アカデメイアとの直接の関係はないが、「一者」よりの「存 在流出」の理論を構成し、神秘主義的形而上学を提唱。グノーシス主義の世界 理論に、彼の哲学理論が、明らかに反映していると考えられる。 プローテンノイア [G] protennoia 「第一の思考」 乃至「第一・最初の思い」の意味。プレーローマの至高女性原理。その名は、 ギリシア語で、prootee + ennoia の合成である。「プローテー」が、「第 一の」を意味する形容詞の女性形で、「エンノイア」が「思い」である。 プロートアルコーン [G] Proto-Archon 第一のア ルコーンのギリシア語形。 →デーミウルゴス プロパテール [G] propater 「原父」の意味。プロ パトールとも云う。またビュトス(深淵)とも云う。プトレマイオス派グノー シス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。第一アイ オーン。 →プロパトール, →「用語集,プロパテール」, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 プロパトール [G] propator 「原父」の意味。プロ パテールとも云う。またビュトス(深淵)とも呼ぶ。プトレマイオス派グノ ーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。「先在 の父」「知られざる至高神」「上の父・神」等と呼ばれる、第一アイオーン。 シーゲーを伴侶とする。 →プロパテール, →「用語集,プロパテール」, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 ヘイマルメネー [G] heimarmene 「運命」のこと。 グノーシス主義では、特に『ヨハネのアポクリュフォン』では、プロノイア (先見・原思考・摂理、乃至バルベロの別名)に対立し、地上と中間世界は、 ヘイマルメネーに支配され、プレーローマの上天世界は、プロノイアが支配 するとされる(0514)。 →運命, →プロノイア。 『ペテロと十二使徒の行伝』 [E] The "Acts of Peter and the Twelve Apostles" ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-1」 (25),E)キリスト教文書。 『ペテロの黙示録』 [E] The "Revelation (Apocalypse) of Peter" ナグ・ハマディ文書。「NH-VII-3」 (35),C)キリスト教的グノーシス文書。 ヘプドマス [G] hepdomas ギリシア語で、「七個の 組」「七組系」或いは、「第七」の意味。通常、ヤルダバオートの下の七体の アルコーンを指す。ヘプドマスは、「ベルリン写本」での『ヨハネのアポク リュフォン』においては、1)ヤオート、2)エローアイオス、3)アスタ ファイオス、4)ヤオー、5)サバオート、6)アドーニ、7)サバタイオ スの七人とされる。これらは、惑星のアルコーンであるが、他に「一週間」 を支配するヘブドマス・アルコーンが存在する(0514)。 →「用語集,アルコンテス」 ベリアル [H] Beliar ベリエル(Beliel)とも云う。 原初、ユダヤ教の神の至高天使であったが、神の意志に背き、「暗黒の王」、 堕天使の長、神の対立者の首位者となる。グノーシス主義のヤルダバオートの ような立場に、「二元論的対立」からは立つが、ヤルダバオートは、宇宙の創 造者である。ベリアルは、神の創造した宇宙のなかで、神に反逆している対立 勢力の首位者=堕天使であると云うのは、根本的に異なる。 →天使。 『ヘルメス文書』 [L] Corpus Hermeticum ヘルメス 思想の中核を成す文書文庫。紀元二乃至三世紀頃より編集された。ギリシア語 テクストであるが、文書自体はエジプトで成立したものと考えられ、「ヘル メス・トリスメギストス(三重に偉大なヘルメス)の教え」と称された。ま た、エジプトの智慧の神「トート」の教えともされた。十八文書から構成さ れ、なかでも第一文書の『ポイマンドレース』は、グノーシス主義的教説を 語っている。1463年、マルシリオ・フィチーノによってラテン語に翻訳 され、西欧のネオプラトニズム・カッバラー魔術等の流行を引き起こした。 『ベルリン写本』 [E] Belrin Codex (Papyrus Berolinensis 8502) ベルリンのボー デ博物館が所蔵する『PBG 8502』の通称。十九世紀末、博物館は入手していた が、諸般の事情で、最初の校訂版の出版は1955年となった。四つのグノー シス主義文献を含むコプト語パピルス写本。『マリアによる福音書』『ヨハネ のアポクリュフォン』『イエスの智慧』『ペトロ行伝』の四書である。写本作 成は、5世紀初頭と考えられるが、収録論文は、2世紀に遡るものがあると考 えられている。原発見地は上エジプトのアクミーム近辺と云われるが、詳細不 明(0514)。 ヘレニク・グノーシス主義 [D] Hellenistischer Gnostizisumus この言葉は、私たちの「造語」であり、一般的にある 訳ではない。ヘレニズム時代の世界、つまり紀元1世紀より4世紀を中心とし て、ヘレニク文明を背景に成立した歴史的グノーシス主義を、このように呼称 する。この語の対語は、「普遍グノーシス主義」である。ヘレニク・グノーシ ス主義は、大きく二種類に分けることができる。1)シリア・エジプト型グノ ーシス主義、乃至西方グノーシス主義と、2)イラン型、乃至東方グノーシス 主義である。前者は、「善の永遠界」の一元論より出発し、永遠世界の何かの 瑕疵乃至事故による、不完全なる存在の流出が垂直的に起こり、こうして「二 元論」が成立する。後者は、神話時間的には、その原初から、善の原理と、悪 の原理の二元論が成立していた。前者は、異端反駁論者たちが反駁したヴァレ ンティノス派やバルベロ派、或いは『ナグ・ハマディ写本』の文書を構成した 諸派が該当する。後者は、マニ教グノーシス主義が、その代表と云える。 →シ リア・エジプト型グノーシス主義, →イラン型グノーシス主義, →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義」 『ポイマンドレース』 [G] Poimandores 『ヘルメ ス文書』の最初の文書。非キリスト教的グノーシス主義の教説書とも見なせ る。黙示録形式で、世界の起源を語る。水に映ったアイオーン・ソピアーの エイコーンと同様のモチーフが述べられている。 ホクマー [H] chokmah ヘブライ語の「智慧」。 ソピアーの機能を、この名において、またはこの名のヴァリエーションで表現 することがある。「アカモート」はその例である。 →ソピアー, →アカモ ート。 ホクモート [H] chokmoth プトレマイオス派の創世神 話に登場する、ソピアーの分身「アカモート」の元となったヘブライ語。これ は、現段階の私たちのヘブライ語の知識からすると、ホクマーの女性複数形で はないかと思える。従って、意味は「智慧」である。 →ソピアー, →アカモ ート。 「ボゴミル派」 [D] Bogumil 十世紀頃、ブルガリア で勢力のあった、マニ教グノーシス主義的教派。(「Bogumil」はスラヴ語で、 「神の愛」の意味であるが、この意味から教派名称が生じたかは未確認)。 星 [G] aster 星辰のこと。古代宇宙論では、星辰に 惑星も含める。 →星辰。 ポーステール [G] Phoster 「フォーステール」とも 云う。『ナグ・ハマディ写本,アダムの黙示録』に登場する「救済者」の名前。 「光り輝く者」と云う意味がギリシア語ではある。クリストス同様、超霊的救 済者。男性型救済者の例。 →救済者。 →「用語集,救済者」 母父(ぼふ) [G] metropator メートロパトールのこ と。バルベロの別名。 →メートロパトール, →バルベロ。 ホロス [G] horos ギリシア語で境界の意味。プトレ マイオス派の創世神話で、ソピアーが落下した時、アイオーン・ソピアーを 救済し、プレーローマを護るため、プレーローマを取り囲む「ホロス」が構成 された。これによって、ソピアー本体は、救済され、プレーローマに帰還する が、その分身アカモートや、パトスなどが、ホロスの外に閉め出され、ここか ら「中間世界」が成立し、更に、ヤルダバオートの宇宙創造へと進む。別名ス タウロス。 →ソピアー, →スタウロス。 本来的故郷 [D] eigentliche Heimat 「この世=宇 宙」は、グノーシ ス主義では、悪と暗黒の世界であるとされる。個人は、本来このような世界 の住民ではなく、善なる光明の世界がその「故郷」のはずだとの思いが、グ ノーシス主義の「現存在の姿勢」として成立する。この時、「反宇宙的二元 論」思想よりして、この宇宙と対比関係にあり、この世を超越する世界=プ レーローマの永遠世界が、個人の「本来的故郷」と考えられる。 →救済者, → 「用語集,反宇宙的二元論」, →「グノーシス主義略論」 本来的自己 [D] eigentliches Selbst グノーシス 主義の「反宇宙的二 元論」では、この世が偽の世界であると同時に、個人が「自分」だと思って いる「自己=肉体や魂」が、また、非本来的な自己で、個人は、非本来的自 己を誤って自己の本来的姿と錯覚しているとされる。従って、真の「本来的 自己」が存在する訳で、それは、個人の魂の深奥にある「霊」がそうである と云うことになる。→本来的故郷, →「用語集,反宇宙的二元論」, →「グノーシス主義略論」 フォーステール [G] Phoster ポーステールの別読み。 光り輝く者の意味。 →ポーステール。 「ヴァレンティノス派」 [L] Valentinus 中期グ ノーシス主義初期最大のグノーシス主義教派。ヴァレンティノスの教説に 従う派。具体的 にはよく分からず、異端論駁者たちの著書からは、その弟子に当たる、プトレ マイオス派やマルコス派の教義等が詳しく知られている。 『ヴァレンティノス派の解明』 [E] (An anonymous Document of Valentinian origin) ナグ・ハマディ文書。「NH-XI-2」 (45)(原題なし),C)キリスト教的グノーシス文書。 ヴェルト [D] Welt ドイツ語で「宇宙・この世」の こと。或いは、「世界・俗世」のこと。 →宇宙, →「用語集,宇宙」 マニ [G] Mani [c.216−c.275] 。マニ教の創始者。 仏陀、ゾロアスター、イエズスに次ぐ第四の「叡智」の啓示者を自称する。 →「用語集,マニ」 マニ教 [D] Manichäismus マニが3世紀半ば、 ペルシアで創始した東方グノーシス主義宗教。イラン型グノーシス主義の最 高体系とされる。西方グノーシス主義のエリート主義の矛盾を、信徒を、修 行者(完成者)と聴聞者に二分割し、聴聞者は世俗的生活が許されるとした ことで、解決し、「公教」として成立し得た。十二世紀頃南フランスで繁栄 したカタリ派は、マニ教の分派ともされる。 →「用語集,マニ教」 マラク [H] malach ヘブライ語で「天使」の意味。 →天使。 マリア [G] Maria 聖マリアのこと。 →聖マリア。 マルキオーン [G] Markion 二世紀半ばに、強力な 「反宇宙的二元論」宗教を提唱し、マルキオーン派を構成した。西方グノー シス主義が、すべて秘教的性格を帯びていたのに対し、マルキオーン神学は、 「公教」として、広くローマ帝国内に流布した。その神学は、キリストへの 「信仰」を説いたもので、「信仰(pistis)」よりも「知識(gnosis)」を 重視するグノーシス主義としては、特殊な形態を持つ。グノーシス主義では なく、「異教キリスト教」とでも呼ぶ、特殊な宗教システムであったとも云 える。 →「用語集,マルキオーン」 「マルキオーン派」 [G] Markion マルキオーンが 創始した神学に帰依した人々の教派。原始キリスト教会と、「正統キリスト 教会」の地位を争った。しかし、アレイオス(アリウス)やネストリオスの 神学の持つ「異端性」とは、異質な意味での対立キリスト教派であったとも 云える。 マルキオン [G] Markion マルキオーンの別表記。 →マルキオーン。 「マルコス派」 [G] Markos 魔術師マルコスとも呼 ばれる人物が中心であった、グノーシス主義の一派。マルコスは、ヴァレン ティノスの弟子とされる。 『マルサネス』 [E] "Marsanes" ナグ・ハマディ 文書。「NH-X-1」(43),A)非キリスト教的グノーシス文書。 マンダ教 [D] Mandäismus 現在、イランとイラクの国境近辺に 居住する人々の信仰するグノーシス主義宗教。その起源は、クムランの『死 海文書』を残した人々たちと関係があり、当時複数あった「洗礼教団」の一 つがグノーシス主義化したのではないかと云われている。ヨルダン河沿いに 展開していたのが、ローマのエルサレム破壊事件等の余波を受け、現在の地 理的位置に移動してきたのだと推定されている。洗礼を重要な儀式として備 えている。教義的には、イラン型グノーシス主義と、シリア・エジプト型グ ノーシス主義の両方の特徴を併せ持っている。 ムンドゥス [L] mundus ラテン語で「宇宙・世界」 の意味。ヘルメス思想一般に出てくる言葉。Anima Mundi(アニマ・ムンデ ィ)は、宇宙霊或いは、宇宙の魂を意味し、人間の魂と照応する。Rex Mundi (レクス・ムンディ)は、「この世の王」で、普通、悪魔を指す。 メシア [H] ヘブライ語で「油注がれた者」の意味。 本来、「油注がれた者」とは、神によって「聖別された者」の意味で、ユダヤ ・イスラエルの歴代の王たちは、油注がれて聖別された存在であった。イスラ エル・ユダの両王国が滅ぼされ、ユダヤ人に独立国家がなくなった時より、聖 なる王=救世主がイスラエルに現れ、ユダヤ人の榮光をかつてに増して輝かせ ると云う願望的思想が一般化した。これを「メシアの再来」と称したが、「再 来」であるのは、かつての偉大な預言者が、再び天の神の許よりくだされ、イ スラエルの榮光を回復すると想像されたためである。ローマ帝国の支配下にお いて、メシア願望は、政治的・宗教的、二つの意味での救世主となったが、イ エズスがメシアとして期待されたのは、この両方の次元においてであった。イ エズスはしかし、「人間的・社会的」救済を説き、彼の磔刑の後、弟子達の一 部は、イエズスの「人間的救済」の思想を核に、原始キリスト教原教義を立て たとも考えられる。グノーシス主義では、イエズスの説いた「天の王国」は、 即ち、本来的故郷としてのプレ−ローマであると解釈され、イエズス・クリス トスを、グノーシス主義の「救済者」と見做す解釈が成立し、ここで、原始キ リスト教団との対立が生まれ、原始キリスト教会の指導者たちは、異なる救済 原理に立つグノーシス主義に脅威を抱き、「異端」として排斥しようと試みた。 →クリストス, →「用語集,グノーシス主義異端反駁者」 メッシーナ提案 [E] Messina suggestions 1966 年4月、イタリアの メッシーナ大学で開催された、グノーシス主義の諸問題をめぐる「国際コロキ ウム Le Colloque International」で、確認された「グノーシス主義」の本質 規定と、将来的に解決せねばならない諸問題に関する提案。国際学会において、 グノーシス主義の定義についての本質的定義が、暫定提案であるとしても成さ れた最初の歴史的業績。 →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義」 メートロパトール [G] metropator ギリシア語では、 通常、「母方の祖父」の意味。「母の父」と云う意味である。グノーシス主義 文献『ヨハネのアポクリュフォン』に出て来る用語で、「母父(ぼふ)」と云 う奇妙な訳語を与える。バルベロの別名乃至別称号である。バルベロの父は、 至高の神で、バルベロはその至高神・アイオーンの女性的位相であり、「万物 の母胎」とも、「三倍男性的なる者」とも呼ばれているが、バルベロは、その 創造物の立場からは、母であり、またその父なる至高の見えざる神である。バ ルベロを、その父なる至高の神として把握すると「母方の祖父」となり、至高 神の女性的位相と把握すると、「母なる父」つまり「母父」となるのではない だろうか。英語でも、これは Mother-Father と訳されている(0514)。 → バルベロ。 『メルキセデク』 [E] "Melchizedek" ナグ・ハマ ディ文書。「NH-IX-1」(40),C)キリスト教的グノーシス文書。 モノゲネース [G] monogenes 「独り子」の意味。 『新約聖書・ヨハネ福音書』冒頭に、キリストの称号として出てくる。グノー シス主義においては、ヌースの別名。プトレマイオス派グノーシス主義のオ グドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。 →ヌース, →父, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 ヤー [H] Jah ヤハウェの別名乃至称号の一つ。ヤルダ バオートの別名でもある。 →「用語集,ヤルダバオート」 ヤーウェ [H] Jahaweh ヤハウェの別表現。 → ヤハウェ。 ヤーヴェ [D] Jahve ヤハウェのドイツ語読 み。 →ヤハウェ。 ヤオー [C] Jaoo 『ヨハネのアポクリュフォン』(ベ ルリン写本)に現れ る権力アルコーンの名。ヘブドマスの第四者。 →ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス」 ヤオート [C] Jaooth 『ヨハネのアポクリュフォ ン』(ベルリン写本)に現れ る権力アルコーンの名。ヘブドマスの第一者。 →ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス」 『ヤコブのアポクリュフォン』 [E] An Apocryphal Letter of James ナグ・ハマディ文書。「NH-I-2」(02)(原題な し),C)キリスト教的グノーシス文書。 『ヤコブの黙示録(一)』 [E] The (first) "Revelation (Apocalypse) of James" ナグ・ハマディ文書。「NH-V-3」 (22),C)キリスト教的グノーシス文書。 『ヤコブの黙示録(二)』 [E] The (second) "Revelation (Apocalypse) of James" ナグ・ハマディ文書。「NH-V-4」 (23),C)キリスト教的グノーシス文書。 ヤハウェ [H] JaHaWeH ユダヤ教の至高神。世界の 創造神。ヤーウェ、イェホヴァ、エホバとも云う。キリスト教的グノーシス 主義では、ユダヤ教神学を援用して、ヤハウェを、彼らの「反宇宙的二元論」 における一方の極である、「偽の神」「造物主=デーミウルゴス」と同一視 する。デーミウルゴスの固有名として、「ヤルダバオート」と云う名が使用 されるが、ヤハウェはヤルダバオートの別名となる。 →「用語集,ヤハウェ」 ヤルダバオート [H] Jaldabaoth 第一のアルコー ン、デーミウルゴスの固有名。ユダヤ教の神ヤハウェと比定される。その 名は、古来から、ヘブライ語で「混沌の子」から派生したと考えられていた が、近年、シリア語での「若者よ、渡り来たれ」から来たと云う説が出され た。別名サクラス、サクラ。 →「用語集,ヤルダバオート」 ヤルダバオト [H] Jaldabaoth ヤルダバオートの こと。 →ヤルダバオート 『ユング写本』 [E] Codex Jung 1946年にエジ プト人農夫によって発見された『ナグ・ハマディ写本』は、発見者が当時、複 雑な立場にあったことと、古物商等を通じてばらばらに売却されて行った為、 正確な発見場所や発見の経緯が明らかになるのに、二十年の歳月が要した。世 に明らかになった第二の写本(後に、分類され「第一写本」とされる)は、ベ ルギー人の古物商を通じ、ニューヨークのボーリンゲン財団が購入しようと試 みたがうまく行かず、その後、オランダの教会史学者ギレス・クイスペルの仲介等で、当時、 著名であったユングの名で購入資金を調達することによって、テューリッヒのC ・G・ユング協会が入手し、ユングの誕生日の贈り物として、1952年に渡さ れた。このような経緯の故に、第一コーデクスは『ユング写本』と呼ばれてい た(030508)(0518)。 イェホヴァ [H] JeHoVaH ヤハウェの別名。ヤハウェ は、ユダヤ教では、神聖この上ない存在である為、「YHWH(ヨッド・ヘー ・ワウ・ヘー)」の子音四文字(テトラグラマトン=神聖四文字)で表現され るこの神の名を、ユダヤ教徒たちは具体的に発音することを避けたため、何時 しかこの至高神の正確な発音は忘却されてしまった。『ユダヤ聖典』を音読す る時、ユダヤ教徒は、この神聖四文字を、ヘブライ語の「主」に当たる、「ア ドーナイ Adonai」の発音で読んだ。「イェホヴァ」と云う名称は、「YHW H」の子音に、この「主=アドーナイ」の母音を付加して造られた。単純に考 えると、「YaHoWaiH」即ち、ヤホウァイまたはヤホヴァイとなるが、ヘブライ 語の音韻規則では、「YeHoWaH」となる。 →ヤハウェ。 ヨナス,H [D] Hans Jonas ハンス・ヨナス(1903− 1993)。グノーシス主義研究者。著書に『The Gnostic Religion, 1958, 1963』 (邦訳『グノーシスの宗教』人文書院1986年)、『Gnosis und spaetantiker Geist, Teil I. 1934, 1964, Teil II.1993, Goettingen』、『Gnosticism and Modern Nihilism』等がある。 『ヨハネのアポクリュフォン』 [G] Apokryphon kata Ioannes 『ナグ・ハマ ディ写本』中のグノーシス主義文書。同写本群には、三種類の異本があった。 また、それとは別に、もう一つの異本(『ベルリン写本』と略称)が知られて いる。長文ヴァージョンと短文ヴァージョンに分かれ、「NH-II-1」と「N H-IV-1」は長文、「ベルリン写本」と「NH-III-1」は短文ヴァージョン である。 →「用語集,ナグ・ハマディ写本」 『ヨハネのアポクリュフォン』 [E] The "Secret Book (apocryphon) of John" ナグ・ハマディ文書。「NH-II-1」 (06),B)キリスト教化過程グノーシス文書。長文ヴァージョン。 『ヨハネのアポクリュフォン』 [E] The "Secret Book (apocryphon) of John" ナグ・ハマディ文書。「NH-III-1」 (13),B)キリスト教化過程グノーシス文書。短文ヴァージョン。 『ヨハネのアポクリュフォン』 [E] The "Secret Book (apocryphon) of John" ナグ・ハマディ文書。「NH-IV-1」 (18),B)キリスト教化過程グノーシス文書。長文ヴァージョン。 リリス [H] Lilith 悪の天使サマエル(サーターン) の花嫁であり、女性の悪魔とされる。また、ヘーヴァ以前のアダムの最初の妻 であった。カッバラーでは、彼女は裸身の女で、両脚の代わりに、蛇の尾が付 いている姿で表象されている。グノーシス主義には、直接的には引用されてい ない。 →サマエル。 ルアハ [H] ruach ヘブライ語の「霊」。→霊。 霊 [G] pneuma 人間を超える神格や、超自然的な精 神、生命存在等。プネウマはギリシア語での名称。ラテン語では、spiritus, ドイツ語では、Geist(ガイスト)と云う。グノーシス主義では、人間は、永 遠世界の至高霊と同質な「霊・光の霊」をその存在の裡に持つとされる。これ が、人間の救済の原理となる。人間は、グノーシス主義では、「霊」と、「心 魂(プシュケー)」、「肉(サルクス)」より構成されるとする。後二者は、 デーミウルゴスや、アルコーンたちが創造したとする。 →「用語集,霊」 霊的人間 [G] pneumatikos プネウマテコス。ヴァ レンティノス派の教えにおける、三種類の人間の一つ。「霊の人」。プレ ーローマへの救済が、生まれながらに定まっている者。パウロスはその書 翰(『コリント前書』14章)において、「霊の人」と「土の人」を分け、 「霊の人」は死後、天に還ると述べたが、それと相同な運命による振り分 けが存在する。 →救済。 →運命。 霊の破片 [L] scintilla 霊の火花、光の破片とも 云う。人間の肉体や心魂をデーミウルゴスが創造した時、ひそかに人間の魂 に紛れ込んだ、「永遠の霊」と本質を同じくする霊(pneuma)の分与。(な お、scintilla(スキンティッラ,火花)は、中世の神秘主義神学者マイス ター・エックハルトの用語で、人間の魂の奥に伏在する神の霊の火花を指す)。 →「用語集,霊」 両性具有 [G] androgynos ギリシア神話に出てく る形象であり、古代ギリシア・ローマでの人間の理想像。グノーシス主義 では、高次アイオーンは、男女アイオーンの対で、両性具有を構成している とされる。造物主ヤルダバオートや、その従属アルコーンも両性具有であっ たとされる。人間の心魂は、霊との聖なる結合による「両性具有」の実現で、 救済されるとも主張される。 →「用語集,両性具有」 ロゴス [G] logos 「言葉・理性」等多様な意味 を持つ。ギリシア哲学における根本概念である。キリスト教では、『新約 聖書・ヨハネ福音書』において、神の傍らに原初、ロゴスがいたとされ、 ロゴスは神であって、至高の神のもとより地上に遣わされて、万物を創造 したとされる。彼は、光、命とも称され、「独り子(モノゲネース)」と も呼ばれる。すなわち、これが、キリストであるとするのが、『ヨハネ福 音書』である。グノーシス主義では、プトレマイオス派グノーシス主義の オグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーンで、第五アイオーン。 ゾーエー(生命・命)の伴侶。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」 [TOP]
惑星 [G] planetoi 惑星・遊星。古代宇宙論では、 太陽・月も含め、「七惑星」が考えられた。これらは、地球の球体を中心と して、円軌道を組み合わせた複雑な軌道で運動しているとされた。惑星は、グ ノーシス主義では、アルコーン(支配者)の場で、惑星そのものがアルコーン とも見做された。惑星を支配するアルコーンとして、七体の低次アイオーン が考えられた。 →星辰。 →ヘプドマス。 →「用語集,アルコンテス」 『我らの大いなる力の概念』 [E] "The Thoughts (noeema) of our Great Power" ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-4」 (28),B)キリスト教化過程グノーシス文書。 |
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