グノーシス主義用語語彙集


Collected Gnostic Terms and Words



 (注): 本語彙集は、「グノーシス主義用語集」に掲載する予定の語彙の集成です。可能な限り多くのグノーシス主義語彙を網羅する予定です。(以下の説明文は、原則、すべて、私たちのオリジナル起草です。「引用」は含まれていません。また、「引用」ある場合はそのことを明示します)。

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Mirandaris * Compilation 2001-2015


[G]=ギリシア語, [L]=ラテン語, [E]=英語, [F]=フランス語,

[D]=ドイツ語, [H]=ヘブライ語, [S]=セム語一般, [J]=日本語



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  アイオーン [G] aion  グノーシス主義の「神霊」。高次のものと、低次のものがある。高次のアイオーンは「善の神霊」で、またグノーシス主義の「真の神」など。低次のアイオーンは、アルコーンと呼ばれ、「悪霊」「偽の神」などのこと。「アイオーン」は、永遠の意味。 →「用語集,アイオーン
  アカモート [G] achamoth  ヘブライ語の「ホクマー(智慧)のヴァリエーション(ホクモート chokmoth)から造られた名前とされる。中間世界における、アイオーン・ソピアーの分身・エイコーンの名称。エンテュメーシスの別名。ヤルダバオートの母乃至創造者とされる。 →ソピアー, →「用語集,ソピアー
  『アスキュー写本』 [E] Askew Codex (Codex Askewianus)  1750年頃、英国の外科医A・アスキューが古物商より購入した羊皮紙写本。エジプト起源らしいが詳細不明。ロンドンの大英博物館が所蔵。単一のグノーシス文書より構成され、それは復活のイエズスと弟子たちの対話を含み、「ピスティス・ソピアー(ピスティス・ソフィアー)」と呼ばれる天的存在の地上への落下と、天界への帰還を語っていた。この故に、この写本は、通称で、『ピスティス・ソピアー Pistis Sophia 』と呼ばれる。(独立した文書である第四部は、内容的に幾分異なる)(0518)。  →『ピスティス・ソピアー』。
  『アスクレピウス』 [E] "Asclepius"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-8」(32)(原題なし),D)ヘルメス文書。
  アスタファイオス [C] Astaphaios  『ヨハネのアポクリュフォン』(ベルリン写本)に現れる権力アルコーンの名。ヘブドマスの第三者。 →ヘプドマス,  →「用語集,アルコンテス
  アタナシオス [G] Athanasios  アタナシオス(298年 - 373年5月2日)。ラテン語名、アタナシウス(Athanasius)。紀元4西紀の古代キリスト教の神学者・教父。アレクサンドリア司教であり、ニカイア公会議において、神とキリストの関係において、キリストは、父なる神と、同質・同一本質(ホモウーシオス, homo-ousios)であると主張し、この時点まで優越していたアレイオス的なキリスト概念を却けた。御父と御子の本質(ウーシア)における同一性の主張は、キリストの神格を認め、更に、キリストと聖父神との同一性を主張するもので、三位一体教義の成立の前提となる神学的規定である(150509)。 →ニカイア公会議 →三位一体
  『アダムの黙示録』 [E] The "Revelation (Apocalypse) of Adam"  ナグ・ハマディ文書。「NH-V-5」(24),A)非キリスト教的グノーシス文書。『ナグ・ハマディ写本』中のグノーシス主義文書。 →「用語集,ナグ・ハマディ写本
  アドーニ [C] Adooni  『ヨハネのアポクリュフォン』(ベルリン写本)に現れる権力アルコーンの名。ヘブドマスの第六者。 →ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス
  アブラクサス [G] abraxas  ヘルマン・ヘッセの小説『デーミアン』に出てくる神霊の名。実は、グノーシス主義バシレイデース派のアイオーンの名。別形=アブラサクス、アブラクシス。 →「用語集,アブラクサス」, →「アイオーン・アブラクサス詳細説明
  アプラクサス [D] Abraxas  アブラクサスのドイツ語読み。 →アブラクサス
  アブラクサス石 [E] Abraxas stone アブラクサスの名が彫られた石など。 →アブラクサス
  アブラクシス [G] abraxis  アブラクサスの別形。 →アブラクサス
  アブラサクス [G] abrasax  アブラクサスの別形。 →アブラクサス
  『アポクリファ』 [G] apokrypha  「聖書外典」のこと。単数形は「アポクリフォン, apokryphon」。キリスト教が、正典=カノンを制定して行った、紀元二世紀頃、カノンに組み入れられなかったキリスト教文書が多数存在した。これらの裡、正典を補う位置をカトリック教会が与えたものが、アポクリファである。カトリックが、アポクリファとは認めていないが、それ以外にも多数の文書があり、これらも「アポクリファ」とも呼ぶ。これはキリスト教のアポクリファであるが、ユダヤ教においても、正典を定めており、従って、アポクリファが存在する。アポクリファは、『旧約聖書アポクリファ』と『新約聖書アポクリファ』に二大別される。なお、「アポクリュフォン」と原語の発音通りに読むと、これは、「秘書・奥義書」などの意味になり、『ナグ・ハマディ写本』中の『ヨハネのアポクリュフォン』は、『ヨハネの奥義書・秘密の書』の意味である。
  荒井,S [J]  Arai Sasagu 荒井献(1930年5月6日 - )。新約聖書学者。グノーシス主義研究者。Dr. Theol. 『ナグ・ハマディ写本』文書である『真理の福音, Evangelium Veritatis(原題不明,通称)』のキリスト論が学位論文。日本語著書多数。『原始キリスト教とグノーシス主義,岩波書店1971年』、『新訳聖書とグノーシス主義,岩波書店1986年』、『ナグ・ハマディ文書,全4巻,岩波書店1997−98年,編訳』等。
  アルコーン [G] archon  グノーシス主義の「悪霊・悪の原理・暗黒と悪のアイオーン・偽の神」等。この世=宇宙(コスモス)の支配者。ギリシア語で支配者・統治者の意味。 →「用語集,アルコーン
  アルコンテス [G] archontes  ギリシア語で「支配者たち」の意味。アルコーンの複数形。七人のアルコーンからなる「ヘブドマス」などがある。また360人乃至365人のアルコーンがいるとも云われる。 →「用語集,アルコーン」, 「用語集,アルコンテス
  『アルコーンの本質』 [E] The "Nature (hypostasis) of the Archons"  ナグ・ハマディ文書。「NH-II-4」(09),B)キリスト教化過程グノーシス文書。『ナグ・ハマディ写本』中のグノーシス主義文書。 →ナグ・ハマディ写本
  アレーテイア [G] aletheia  「真理」の意味。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  アレイオス [G] Areios  アレイオス(250年 - 336年)。ラテン語名、アリウス(Arius)。紀元3世紀から4世紀の古代キリスト教の神学者。アンティオキアに居住し、後にアレクサンドリアの司祭となった。父なる神の唯一性を認め、イエズス・キリストはこの世に生まれて来た者である以上、被造者であり、神とは本質を異にする「本質異質性」(hetero-ousios, ヘテロウーシオス)を唱えた。そのキリスト解釈は合理的で、一般に理解可能なものであった為、広く、地中海世界に広がり、多くのキリスト教徒は、アレイオスが代表する、このようなキリスト解釈を受け入れていた。しかし、西暦325年のニカイア公会議において、ローマ皇帝(ビザンティン皇帝)コンスタンティヌス一世は、アレイオスの主張を異端とし、アレクサンドリア司教アタナシオスが主張する、神とキリストの本質同一性説を正統と決定した為、アレイオスは追放された。このようにして、キリスト教の妄想教義「三位一体」が、政治権力によって導入される結果となった。(150509)。 →ニカイア公会議 →三位一体
  『アロゲネス』 [E] "The Alien (allogenes)"  ナグ・ハマディ文書。「NH-XI-3」(46),A)非キリスト教的グノーシス文書。
  アンドロギュノス [G] androgynos  ギリシア語で、両性具有のこと。 →「用語集,両性具有,アンドロギュノス
  アントローポス [G] anthropos  「人間」を意味する。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  イーオン [E] aeon  アイオーンの英語読み。 →アイオーン
  イエス [L] Iesus  イエズスの日本語での慣用的表記。 →イエズス。
  『イエス・キリストの智慧』 [E] The "Wisdom (sophia) of Jesus Christ"  ナグ・ハマディ文書。「NH-III-4」(16),B)キリスト教化過程グノーシス文書。
  イエズス [L] Iesus  通常、日本語では「イエス」と呼ぶ。キリスト教における救世主で、クリストスの人間としての名前。ヘブライ語の「ヨシュア」或いは「イェホシュア」と云うような名のアラム語的形態をギリシア語表記した形(イエースース,Ieesous)。ラテン語で、Iesus (Jesus) と書くが、この発音が、「イエズス」になる。なお、キリスト教徒(カトリック派、聖公会派、プロテスタント諸派、正教会派、その他、諸派)において、また広く一般の人々において、イエズスは、歴史的に実在したと云うことが自明なこととして考えられている。しかし、イエズスなる人物が、歴史的に実在したのかどうか、実は、存在の確かな証拠がない。歴史的に存在したと想定される、イエズスの原形像の人物を「歴史的イエズス」あるいは「ナザレのイエズス」と呼ぶが、その実在性については、現在も議論が続いている。add (150509) →歴史的イエズス →クリストス。
  イェホヴァ [H] JeHoVaH  ヤハウェの別名。 →「」の項目の「イェホヴァ」を参照。 →ヤハウェ。
  異端 [L] haeresis  異端とは、「正統」との対比的・相対的定位において成立し得る。正統がない場合は、当然ながら異端もないのであり、逆に、「正統性」の確立のため、異端論争が生じるとも云える。救済宗教に限定して考えれば、「救済されるべき」世界と人間の存在様態の把握乃至様式化と、「救済の原理と過程」において、「或る共通了解」のある者のあいだで、正統をめぐる異端論争が成立すると云える。外見的に、救済者や至高者の名称や姿が同一に見えても、内在的な「世界と人間の存在把握様式」と「救済原理」に様式的差異が明瞭にある場合は、当事者の一方或いは双方が、 相互に相手を異端だと論難していたとしても、実存的位相からは、これらは「異端」論争としては成立していないと考えるべきである。この場合、一方或いは双方が、相手に対し刻印した「異端」の階位規定は、「無意味」であると云うべきである。競合する二者があれば、彼らは「異教」関係にあるのであり、どちらかが他方の異端にはならない。グノーシス主義と原始キリスト教会の関係が、このようなものであったと考えられる。
  『異端反駁』 [L] Adversus Haereses  リヨン司教エイレナイオスの著作。グノーシス主義異端反駁書。ギリシア語原書は散逸し、ラテン語訳が残る。 →エイレナイオス。
  『偽りのグノーシスの告発と反駁』 [G]   エイレナイオスの著作。グノーシス主義異端反駁書。原書はギリシア語であったが、散逸。そのラテン語訳が、伝承されている。ラテン語訳題『Adversus Haereses(異端反駁)』。 →エイレナイオス。
  イラン型グノーシス主義 [E] Iranian Gnosticism  ヘレニク・グノーシス主義のなかで、東方イランに基盤があったグノーシス思想は、地中海世界まで展開して大きな勢力となった。その特徴は、シリア・エジプト型グノーシス主義が、光と善の原理の一元論的原初より、存在流出の途上で、垂直下降的に悪の二元論世界が創造されたとしたのに対し、神話的原初において、善の原理と悪の原理を既存前提として、本来的故郷と魂・霊の救済を「光の原理」に要請する、非垂直的反宇宙的本質的二元論を主張したことにある。その起源地域及び展開地域よりして、東方グノーシス主義とも称するこの型のグノーシス主義は、マニ教グノーシス主義がその代表で、マニ教は、肉の生殖を認め、世俗的生活を営む信者の階位と、禁欲的本来的修行に勤しむ修行者階位に、教えに従う者を二分した結果、西方グノーシス主義の「エリート的ディレンマ」の解決を持ち、ヘレニク時代以降、千年以上に渡り存続した。 →ヘレニク・グノーシス主義。 →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義
  イレナイウス [L] Irenaeus  エイレナイオスのラテン語での呼称。 →エイレナイオス。
  ウァレンティノス [L] Valentinos  Vの項目の「ウァレンティノス」を参照。 →ウァレンティノス
  宇宙 [G] cosmos  デーミウルゴスが創造した、「この世界」のこと。そこは、暗黒と悪に満ちているとされる。「この世」とも云う。 →「用語集,宇宙
  運命 [G] heimarmene  ヘイマルメネーは、meiromai の分詞女性形で、「定まっている・既定であること」の意味で、プラトーンは運命・宿業の意味で使った。ウァレンティノス派の教えでは、人間は運命として三種類の人間に生まれた時より分かれているとされる。それは霊的人間・心魂的人間・質料的人間で、第一は救済が既定で、第三は救済が可能性としてもない。第二の心魂的人間は、その行いや、智慧への覚醒に応じて救済の可能性があるとされる。グノーシス主義には、ウァレンティノス派のこの考えほどではないが、救済の可能性をめぐり、「運命論的」思考が基底にはあると云える。……また、この語の対立語として、プロノイア(摂理)があるとされる。 →ヘイマルメネー,→プロノイア, →救済, →心魂(しんこん), →霊的人間, →心魂的人間, →質料的人間, →「グノーシス主義略論
  エイコーン [G] eikon  影像・似像。ギリシア語で、鏡に映った像、幻像等を意味する。アカモートは、アイオーン・ソピアーの中間世界でのエイコーンであった。エイドーロン(幻像,eidoolon)とも云う。 →「用語集,ソピアー」, 「用語集,アルコンテス
  影像 [G] eikon  エイコーンのこと。或いはエイドーロンのこと。 →エイコーン,エイドーロン
  エイドーロン [G] eidolon  影像・幻像を意味するギリシア語。宇宙の初源、ヤルダバオートは、水に映ったソピアーの姿を見て、高次世界の存在を知ったとも、これが動機となって、「この世=宇宙」の創造を開始したともされる。ヤルダバオートは、このエイコーンを自分の姿と錯覚したのであるともされる。ヘルメス文書である『ポイマンドレース』に同じモチーフの神話が述べられており、ヘルメス思想の「コレスポンダンス原理」の一つの表現と考えられる。
  エイレナイオス [G] Eirenaios  代表的なグノーシス主義異端反駁論者(c.126−202)。ルグドゥヌム(現リヨン,フランス)の司教であった。『偽りのグノーシスの告発と反駁』と云う題のギリシア語著作を著したが、原書は散逸、そのラテン語訳が部分的に残っている。『Adversus Haereses(反異端論・異端反駁)』がそのラテン語タイトル。ラテン語名、イレナイウス(Irenaeus)。彼は、グノーシス主義の起源について、『聖書』の誤った解釈より生じたと主張し、ヒッポリュトスの説と競合した。この二つの起源説は、その後も長く西欧におけるグノーシス主義の起源問題で論じられた。 →グノーシス主義異端反駁論者, →ヒッポリュトス, →「用語集,グノーシス主義異端反駁者
  エイン [H] #YN  無。全無。存在宇宙の初源にあって、一切が神の無の深淵にあった状態を示す。カバッラーでの概念(0518)。
  エイン・ソフ [H] #YN SWPh  エイン・ソーフ。限りなき。無限状態。全有。カッバラーにおける「神」は、エインであり、無限なる状態=エイン・ソフにあった。グノーシス主義の「プレーローマ(充満)」に比定される存在の原初状態。エインとエイン・ソーフの神は人格神ではなく、存在の絶対無と、絶対無限の状態であった。このような「神」が、或る一つの契機において、「存在の流出」を開始する。セフィロートとして、神性の流出が開始されるのである(0518)。
  『エウグノストス』 [E] "Eugnostos"  ナグ・ハマディ文書。「NH-V-1」(20),B)キリスト教化過程グノーシス文書。 →『聖なるエウグノストス』。
  エオーン [D] Äon  アイオーンのドイツ語読み。 →アイオーン
  エオン [G] aion  アイオーンの別読み形。 →アイオーン
  エクレシアー [G] ecclesia  「教会」或いは「会衆」を意味する。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。第八アイオーン。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  『エジプト人の福音書』 [E] The "Gospel of the Egiptians"  ナグ・ハマディ文書。「NH-III-2」(14),B)キリスト教化過程グノーシス文書。
  『エジプト人の福音書』 [E] The "Gospel of the Egiptians"  ナグ・ハマディ文書。「NH-IV-2」(19)(原題失),B)キリスト教化過程グノーシス文書。第二ヴァージョン。
  『エノク書』 [H] Enoch  『旧約聖書外典』。第一・第二・第三などのエノク書がある。数多くの、正典・カノンに出てこない天使が登場し、天使の名等は多く、この書より援用された。
  エピファニオス [G] Epiphanios  代表的なグノーシス主義異端反駁者。4世紀のキュプロスのサラミス司教であった。彼は、著書『パナリオン(薬籠)』において、80種の異端を論じたとされるが、重複・水増ししているか、捏造の疑いもある。異端の数字「80」はキリストの「真の花嫁」はただ一人で、それは「正統キリスト教会」で、80人の娼婦は、偽の妻であると云うキリスト教の喩え話から取られた数字と考えられる。彼は、グノーシス主義者たちの「道徳的頽落」や、反倫理性、就中、「性的放縦性」などを記載し糾弾しているが、内容的に疑わしいとされる。 →グノーシス主義異端反駁者,  →「用語集,グノーシス主義異端反駁者
  エホバ [J] Ehoba  イェホヴァの日本語での読み方。 →イェホヴァ,ヤハウェ。
  エル・シャッダイ [H/?]   「偉大なる神」「全能者」の意味で、ヤハウェの称号であったと記憶するが、現在、未確認。
  エローアイオス [C] Elooaios  『ヨハネのアポクリュフォン』(ベルリン写本,NH-III)に現れる権力アルコーンの名。ヘブドマスの第二者。 →ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス
  エンテュメーシス [G] enthumesis  配慮・崇敬などの意味のギリシア語。プトレマイオス派の創世神話で、ソピアーは、至高の父への知識慾に取り付かれ、パトスとエンテュメーシスを生み出し、プレーローマより落下する。エンテュメーシスは、アカモートの別名で、中間世界で、ヤルダバオートを生み出す。 →ソピアー, アカモート。
  『エンネアデス』 [G] "Enneades"  プロティーノスの代表的著作。弟子が纏めた論文集。『エネアデス』とも日本語で言う。「エンネアデス」は「九組」と云うのがギリシア語の原義で、九と云う数を軸として、論文が配列されているのでこの名がある。 →プロティーノス。
  エンノイア [G] Ennoia  「思考」「思い」の意味。アイオーンとしての別名は、シーゲー(沈黙・静寂)。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。プロパトールの伴侶で、その女性的位相 を示す。第二アイオーン。 →プロパトール, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  オイクーメネー [G] oikoumene  人が住む世界を意味する。「エクメーネ」。人類生存圏。人類生存世界。
  王国 [G] basileia  古代ギリシアで、バシレウス(basileus)と呼ばれる首長、官職者が支配・管掌した都市を「バシレイア」と云った。バシレウスは世俗政治首長と宗教的首長が存在したが、日本語では、これを「王」と訳す。キリスト教では、「神の王国」即ち「天国」を意味する。グノーシス主義では、「王国」とは、プレーローマ乃至霊の本来的故郷を意味する。 →神の国, →プレーローマ
  黄道十二宮 [G] zoidia  「獣帯」とも云う。黄道に沿って並ぶ、十二の星座。これらの星座がまた、アルコーンであると、グノーシス主義では考えられ、十二体の権力アルコーンが存在し、支配しているとされた。 →星辰。 →「用語集,アルコンテス」
  『大いなるセツの第二の教え』 [E] "The Second Logos of the Great Seth"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VII-2」(34),C)キリスト教的グノーシス文書。
  大貫,T [J] Oonuki Takashi 大貫隆(1945年4月26日 - )。新約聖書学者。グノーシス主義研究者。Dr. Theol. 著書『グノーシスの神話,岩波書店1999年』他。『ナグ・ハマディ文書,全4巻,岩波書店1997−98年』の共同編訳者。(150509)。
  オクシュリュンコス・パピルス [E]   19世紀より20世紀にかけて、エジプトのオクシュリュンコス(オクシリンコス)で発見されたパピルス断片群。紀元2世紀乃至3世紀頃の様々な廃棄されたパピルスで、ギリシア語で記されている。そのなかに、正典『新約聖書』には記録されていない、未知のイエズスの言葉が記されているパピルス断片が含まれていた。『ナグ・ハマディ写本,トマスの福音書』と比較すると、多くが、『トマス福音書』のイエズスの言葉と一致することが確認された(0518), corr(150509)。
  オクシリンコス・パピルス [E]   →オクシュリュンコス・パピルス。
  オグドアス [G] ogdoas  ギリシア語で、「八個の組」「八組系」或いは「第八」の意味。プトレマイオス派グノーシス主義で、プレーローマの中心である「オグドアス・アイオーン」を構成する。オグドアスの八個のアイオーンは、根元的な四つのアイオーンの男性位相と女性位相の顕現であるともされる。それぞれは対を構成している。オグドアスのアイオーンは、至高の先在の父なる1)プロパトール(プロパテール)=ビュトスと2)シーゲー=エンノイアの対にはじまり、3)ヌース=モノゲネースと4)アレーテイアの対、5)ロゴスと6)ゾーエーの対、7)アントローポスと8)エクレーシアの対より構成される。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  オグドアド [E] ogdoad  ギリシア語では、「オグドアース」であり、「八個の組」を意味する。オグドアドは英語起源の呼称。古代エジプトの神話にあって、ヘルモポリスの八柱の神々をこのように呼ぶ。グノーシス主義のオグドアスは、ヘルモポリスのオグドアスをなぞっていると考えられる。男神と女神の組み合わせ四体でオグドアドが構成される。1)ヌンとナウネトの対。2)アメンとアマウネトの対。3)ククとカウケトの対。4)フフとハウヘトの対。以上で八神となる。(150509)。
  『オグドアスとエンネアスについて』 [E] (Dialogue between Father (Hermes) and Son (Tat) concerning Heavenly World)  ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-6」(30)(原題欠),D)ヘルメス文書。
  男女 [J] ome  日本語で、両性具有を示す。二成・双成(ふたなり)とも呼ばれる。人間の場合、生物遺伝学的に、男性遺伝子と女性遺伝子のあいだで中間状態、または混合状態が起こるとき、不完全な両性具有が発生する。現実世界では、人間の自然的両性具有は、必ず不完全であるが、理念的・イデアー的な理想像として、「両性具有」が考えられることがある(150509)。 →両性具有
  「オピス派」 [G] ophis  グノーシス主義の一派。オフィス派。(ナハシュ派)。『創世記』の蛇に、肯定的意味を与える。オピスは、ギリシア語で「蛇」の意味。
  「オフィス派」 [G] ophis  オピス派の別読み。 →オピス派


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[K]

  ガイスト [D] Geist  ドイツ語で「霊」あるいは、精神のこと。 →霊。
  『外典』 [G] apokrypha  『聖書外典』のこと。また、「アポクリファ」のこと。 →アポクリファ。
  神の国 [G] basileia theou  バシレイアー・テウー。「神の王国」の意味で、キリスト教で「天国」と呼んでいるものの原語。キリスト教・イスラム教等は、「神の国」での霊肉の完全な復活が「救済」であるとする。「天の王国」(basileiaa ouranou, バシレイアー・ウーラヌー)とも呼ぶ。グノーシス主義では、神の王国或いは「王国 Basileiaa」とは、プレ−ローマ或いは霊の本来的故郷を意味する。 →王国 →プレーローマ
  「カタリ派」 [F] cathare  十二世紀頃、南フランス、ラングドック地方で繁栄したキリスト教的・マニ教グノーシス主義的教派。或いは、マニ教の影響を受けたキリスト教の分派、従って、「異端」であると云う解釈も存在する。十三世紀、領土的野心を持ったフランス王と教皇庁の利害の一致から、アルヴィジョワ十字軍と呼ばれる、南フランス征服軍が編成された。半世紀に及ぶ戦いの後、カタリ派指導者と信者多数を、モンセギュールの城で滅ぼし、こうして、南フランスはフランス王の領土となり、また、カトリック教会の勢力圏となった。「カタリ」と云う言葉は、ギリシア語の「カタルシス」即ち「浄化」と云う言葉から来ているとされる。
  『雷・完きヌース』 [E] "Thunder : the Perfect Mind"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-2」 (26),A)非キリスト教的グノーシス文書。
   [G] soma  体(からだ)。 →体(たい)
  身体 [G] soma  身体(からだ)。 →体(たい)
  カール・グスタフ・ユング [D] Carl Gustav Jung  スイスの精神医学者。分析心理学の創始者。グノーシス主義研究者。 →ユング, C. G.
  救済 [G] soteria  グノーシス主義における「救済」は、裡なる「霊」が保証する「本来的故郷」への帰還、乃至、自己の「本来性」の再現である。これは、霊がプレーローマにあって保っていた永遠的な善と光の調和状態、そして「両性具有」で象徴される、霊と魂の「完全性」の回復を意味する。キリスト教等では、霊・肉の「生きていた姿のままの復活」を救済の条件にするが、グノーシス主義では、「肉」は地上に朽ちるままに放置される。肉は救済の与件には入っていないのである。人間の「裡なる霊」に呼応して、天よりプレーローマの使者として超霊が「救済者」として地上に訪れ、本来の故郷へと帰る方法や、「この世の真実」についての「真の知識(グノーシス, Gnosis)」を啓示する。これに従い、人間の霊、そして心魂は、知識・認識を得て、死後、プレーローマの永遠の故郷へと帰還する。神話的には、帰還の途上、天に昇って行く霊または心魂に対し、途上の天球の支配者であるアルコーンが、霊の上昇を妨げようとする。これに対し、心魂は、「我は、知られざる者の世界を故郷とし、そこに属する者である」と、「先在の父」に属する者であることを宣言するともされる。死者の霊魂は、こうして途上のアルコーンたちの関門を潜り抜け、上天の永遠界=プレーローマの世界に帰還するともされる。或いは、この世が滅びる時、霊はプレ−ローマ界に帰還して救済され、一方、心魂は中間世界で生き延び、これも救済に与れると云う説もある。 →運命, →救済者, →「用語集,救済者」, →「グノーシス主義略論
  救済者 [G] soter  グノーシス主義では、人間は、永遠の救済に与れる「霊の破片」を魂の裡に持ちつつ、そのことについて「無知(agnoia)」な状態にあり、肉に閉じこめられているとされる。この宇宙が偽の神やその配下のアルコーンによって造られた「偽の世界」で、「真の世界」が、遙か高次の永遠界にあることも、誰か或いは何かが教えねば、人間は無知のままに留まる。それ故、アイオーン界より、人間の救済のため、真実開示を目的に、超霊=救済者がこの世に訪れ、人間を「無知状態」より 解放し、また、本来性の故郷への帰還の教えを啓示するとされる。例えば、キリストが、キリスト教的グノーシス主義では、そのような救済者と見做された。 →「用語集,救済者
  『』 [D] Q  ドイツ語の Quelle(資料・出典)の頭文字を取ってこう呼ばれる。キリスト教『新約聖書』の四つの福音書の裡、三つは、内容が極めて類似しており、特に、イエズスの言葉について類似性がある。これらの三福音書(マタイ・マルコ・ルカ)を、この故に「共観福音書」と呼ぶが、この類似性・対応性の背後に、三福音書の著者たちが参照した「イエズスの語録集」が想定され、この語録集を、通常『Q』と略称する。
  境界 [G] horos  ホロスのこと。 →ホロス。
  キリスト [J] Kirisuto  クリストスのこと。日本語での慣用表記。 →ク リストス。
  グノーシス主義 [E] Gnosticism  歴史的に存在したグノーシス主義は、紀元1世紀頃より、ヘレニク時代の地中海世界に出現したものが代表的なものである。当時、ローマ帝国による迫害を受けつつ擡頭していた原始キリスト教会は、これを教義上の最大の敵とし、「異端」の烙印を押し、排斥しようと試みた。グノーシス主義はしかし、このヘレニク時代のグノーシス主義とは別に、歴史性を超越した普遍的位相があり、これを私たちは「普遍的グノーシス主義」と呼ぶ。グノーシス乃至グノーシス主義のこの普遍的概念把握を含め、史的グノーシス主義の本質等をめぐり、1966年の「メッシーナ提案」が一応の学問的答えを提示した。グノーシス主義は、キリスト教の異端ではなく、或る種の「現存在の姿勢」を持つ者が、存在世界の存在の解釈を求めて、既存神話枠に依拠して、「存在解釈」を構成する処に成立するものであるとの大きな枠での共通認識が成立したとも云える。歴史的なヘレニク時代のグノーシス主義は、西方型と東方型の二つに分かれるとされる。 →ヘレニク・グノーシス主義, メッシーナ提案, →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義」, →「グノーシス主義略論
  グノーシス主義異端反駁者 [L] Adversi Haeresium Gnosticorum  紀元1世紀より4世紀頃、地中海世界においてグノーシス主義運動が展開された。当時擡頭しつつあった原始キリスト教の指導者たちは、これを重大な危機或いはキリスト教布教の障碍と見做し、グノーシス主義に対し「異端」の烙印を押し、その教義の誤謬を論じる「反駁書」を著した。異端反駁者としては、代表的には、リヨン司教エイレナイオス、ローマ人司祭ヒッポリュトス、サラミス司教エピファニオスの三人が有名である。それぞれは、2世紀、3世紀、4世紀に活躍した異端反駁者であった。 →「用語集,グノーシス主義異端反駁者
  『グノーシスの解釈』 [E] "The Interpretation of Knowledge (gnosis)"  ナグ・ハマディ文書。「NH-XI-1」(44),C)キリスト教的グノーシス文書。
  クリストス [G] Khristos  ヘブライ語で「油注がれた者」を意味する「メシア」のギリシア語表現。キリスト教の救世主で、その神学教義に従えば、三位一体の神の「一位格(ペルソナ)」で、「父・子・聖霊」の」三位格の一つ(聖子の位格)。この三位格は、「神として、本質(ousia)は一であり、その表現乃至顕現のモードの違い」であるとされる。父なる神は、人間を「原罪」より解放するため、自らが人間として生まれ、イエズスとなり、人間のため、十字架に昇り、苦しみを受け、「人間の原罪」について、「神(聖父=天主)」に対し、取りなしを行い、人間の原罪を身に負った。それ故、イエズスは救世主であり、メシアでありクリストスである。しかし、グノーシス主義では、かような三位一体教義は無論、考慮の外にあり、クリストスを救済者と見做す時、彼は、プレ−ローマの永遠なる父のもとより訪れた超霊であると見做す。「キリスト」は、クリストスの日本語での訛った呼び方。 →「用語集,救済者
  『ケノボスキオン文書』 [E] Chenoboskion Library  『ナグ・ハマディ写本』の別称。古代よりケノボスキアと呼ばれていた地域(現在のナグ・ハマディ近郊)で発見されたので、この名がある。 →ナグ・ハマディ写本, →「用語集,ナグ・ハマディ写本
  幻像 [G] eidolon  エイドーロンのこと。またエイコーンのこと。 →エイコーン,エイドーロン
  現存在的姿勢 [D] Daseinshaltung  現存在の姿勢の言い換え表現。 →現存在の姿勢。
  現存在の姿勢 [D] Daseinshaltung  ハンス・ヨナスが、グノーシス主義の根本規定を求めて、ハイデッガーの実存主義思想を元に、グノーシス主義は、現存在(Dasein)の或る特徴的な姿勢・態度(ハルトゥング, Haltung)に由来するとした考え。「精神の姿勢」とほぼ同義。 →存在の解釈。 →「現代グノーシス主義原理試論
  原父 [G] propator  「先在の父」「知られざる神」「上なる父・至高神」とも呼ばれる。グノーシス主義一般において、原初の神的一者。プトレマイオス派では、第一アイオーンとして、シーゲー(沈黙)を伴侶とする(エイレナイオスの報告に従えば。ヒッポリュトスは、幾分異なる説を報告している)。 →プロパトール。 →「用語集,プロパテール」, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  光明 [G] phos  ポース。光のこと。 →光。
  孤児 [G] orphanos  オルパノス。基本的に、父母のいない者を指す。グノーシス主義では、人間は此の世にあって孤児であるとする。それは本来の父母がこの世にはいないからである。人間としての肉体と心における父母は存在するが、霊の父母は不在である。『新約聖書・ヨハネス福音書』においては、イエズスは、弟子達との最後の別れのときにあって、「わたしはあなた方を地上に身なし児として放置しない」と述べている。「天の父こそは、あなた方の霊の父である。わたし(イエズス)が世を去った後、あなた達は、地上の孤児として見捨てられるのではない。天の父は、わたしに代わって、あなた方を慰めるパラクレートス(聖霊)を遣わしてくださる」。この『ヨハネス福音書』の言葉より、聖父、聖子(イエズス)、パラクレートス(聖霊)の一体性(三位一体)をキリスト教は導入するが、妄想解釈としか言えない。率直に読めば、霊において人間は地上にあって孤独であるが、「希望や慰め」は存在すると云う自明なことを述べている。
  コスモス [G] cosmos  「宇宙」のこと。ギリシア語での呼称。 →「用語集,宇宙
  『国家プラトン [E] (passage from Plato's Republic)  ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-5」(29)(原題なし),F)非キリスト教・非グノーシス文書。
  この世 [G] cosmos  「宇宙」のこと。造物主(デーミウルゴス)が創造した偽りと暗黒の苦しみの世界。 →宇宙, →「用語集,宇宙
  『この世の起源について』 [E] On the Origin of the World  ナグ・ハマディ文書。「NH-II-5」(10)(原題なし),B)キリスト教化過程グノーシス文書。『ナグ・ハマディ写本』中の文書の一つ。 →「用語集,ナグ・ハマディ写本
  『この世の起源について』(部分) [E] The begining (ten lines) of "On the Origin of the World"  ナグ・ハマディ文書。「NH-XIII-2」(52)(原題なし),B)キリスト教化過程グノーシス文書。十行分断片。
  コプト語 [E] Coptic  紀元前後のエジプト語。セム語の系統にあり、『ナグ・ハマディ写本』は、この言語のサヒディック方言で記されていた。 →ナグ・ハマディ写本


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[S]

  サーターン [H] Satan  『旧約聖書・ヨブ記』に出てくる神霊の名前。高位天使であるが、後に、下落した解釈が行われ、キリスト教では「悪魔」の意味となる。 →天使, →「用語集,天使
  サバオート [H] Sabaoth  サバオトとも云う。ユダヤ教の至高神ヤハウェの別名乃至称号。ヘブライ語で「万軍」の意味。日本語訳では、「万軍の主」とも云う。グノーシス主義では、ヤルダバオートの息子の一人ともされる。また、『ヨハネのアポクリュフォン』(ベルリン写本)に現れる権力アルコーンの名でもある。この場合、ヘブドマスの第五者。 →ヘプドマス, →「用語集,ヤルダバオート」, →「用語集,アルコンテス
  サバタイオス [C] Sabattaios  『ヨハネのアポクリュフォン』(ベルリン写本)に現れる権力アルコーンの名。ヘブドマスの第七者。 →ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス
  サマエル [H] Samael  ヘブライ語で、「毒(悪)の天使」の意味と解される。サマエルは「死の天使」とされ、悪魔の王ともされ、サーターンと同一視されるが、他方、高次天使で、数百万の天使を従えているともされる。サーターンが両義的であったように、サマエルも、高位天使と悪魔の二つの面を伝承では持っている。 →サーターン, →天使。
  『三体のプローテンノイア』 [E] "The Trimorphic Protennoia"  ナグ・ハマディ文書。「NH-XIII-1」(51),B)キリスト教化過程グノーシス文書。
  『三部の教え』 [E] A "Tripartite Tractate"  ナグ・ハマディ文書。「NH-I-5」(05)(原題なし),C)キリスト教的グノーシス文書。
  シーゲー [G] sige  「沈黙・静寂」の意味。別名エンノイア(思考・思い)。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。第二アイオーン。プロパトールの伴侶。 →エンノイア, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  シゲー [G] sige  シーゲーの別表記。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。 →シーゲー
  質料的人間 [G] hyulikos  ヒューリコス。ウァレンティノス派の教えにおける、三種類の人間の一つ。「肉の人」。プレーローマへの救済の可能性がまったくない者。生得的な運命である。パウロスがその司牧書翰(『コリント前書』14章)において述べた「土の人」にも当たり、「地より出たが故に地に還る」。つまり、地上にあって「土」に崩れ、神の王国(プレーローマ)に行く可能性のない者。「物質的人間」「肉的人間」とも呼ぶ。 →救済。 →運命。
  『使徒パウロの祈り』 [E] A Prayer of the Apostle Paul  ナグ・ハマディ文書。「NH-I-1」(01),C)キリスト教的グノーシス文書。
  「シモン派」 [L] Simon  サマリア人シモン・マグス Simon Magus の教えを信奉する最初期グノーシス主義の一派。『新約聖書・使徒行伝』に記述がある。紀元一世紀初頭のヘレニク・グノーシス主義。
  シャーマニズム [E] shamanism  ユーラシアを中心として、世界的に存在する「宗教」の一形態。明確な教義を持ち、理性的釈義を持つ高等宗教に比すれば、「原始宗教」とも云える。特異な個性の人物が「シャーマン(シャーマニズムにおける霊能者)」の修行を積み、資格の確認を受けた上で、先輩シャーマンに選ばれて、シャーマンとなる。シャーマンは、祖先の歴史や、祖霊についての知識を持ち、霊界・異界についての知識も持つ。祭儀を主催する場合もあるが、多くの時、夢見による予言、部族の厄災についての悪霊との戦い、悪霊が原因と考えられる病の治癒などに当たる。グノーシス主義にも、その秘儀的側面にシャーマニズムの影響があると考えられる。
  シャーマン [E] shaman  シャーマニズムにおける職業的霊能者。離魂を経験し、自己の魂を異界に送り、異界の旅により、世界や人間の真理を把握する。「呪術師」「呪師」とも云われる。 →シャーマニズム。
  十字架 [G] stauros  スタウロスのこと。 →スタウロス。
  シュジュギア(スュズュギア) [G] syzygiaσυζυγια)  シュジュゴス(伴侶・妻/夫)から造られた言葉で、二つの要素が結合され、完全状態を構成した時の系を云う。プレーローマにあって、至高アイオーンたちは、その伴侶とシュジュギアを構成している。 →「用語集,両性具有」, →「三十アイオーン・プレーローマ構成表
  シュジュゴス(スュズュゴス) [G] syzygosσυζυγος)  ギリシア語で、「伴侶(妻/夫)」或いは、対を構成する要素。 →「用語集,両性具有
  シュツギー [D] Syzygie  カール・ユングの分析心理学の用語で、ギリシア語のシュジュゴスから導入された。「心的伴侶」の意味で、男性にとっては、アニマがシュツギーであり、女性にとっては、アニムスがシュツギーとなる。アニマ、アニムスを総称して呼ぶとき、シュツギーという言葉が使われる。
  『シェームの釈義』 [E] "The Paraphrase of Shem"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VII-1」(33),A)非キリスト教的グノーシス文書。
  処女受胎 [F] conception virginale  聖マリアは、夫ヨセプとの性的な交わりなしに子を身籠もったとされる。これを「処女受胎」と呼ぶ。此れ故にマリアは、「乙女マリア Virgo Maria」と「聖母マリア Mater Maria」の矛盾した称号を持つことになる。イエズスは、母は人間であるが、父が人間ではなく、神乃至神霊であったという神話を構成している。古代ギリシアの神話では、英雄は、「半神」とも呼ばれ、母は人間であるが、父は、ゼウスなどの神である場合が多い。ケルススは、ギリシア語の文書において、「『イエズスは、アブデス・パンテラ(Abdes Panthera)というローマの兵士と交わって生まれた』とユダヤ人たちが話しているのを聞いた」と記しているとされる。ケルススは、ユダヤ人たちが、訛りの強いコイネーで「処女の子供だそうだ」と話しているのを聞き、これを聞き間違えた可能性がある。「処女・乙女(パルテノス, parthenos)の子」が、「Panthera の子」に聞こえたのかも知れない。Abdes はどこから来たのか不明であるが、ケルススの述べていることは、「雑談を耳にした記憶がある」というような、曖昧でいい加減な話である。ルカが『福音書』に記している、「処女受胎」の根拠付けも、天使ガブリエルの言葉を聞いたのはマリア一人で、マリアがそれを誰かに伝えたのでなければ、ガブリエルが何を言ったのか誰にも分からない。また、そもそもマリアがそう伝えたからと云って、事実である証拠もない。「聖処女母マリアが嘘を云う訳がない」のか、「嘘を云った(あるいは、自分自身で幻想・願望を信じた)ので、マリアは処女母になった」のか。後者の方が現実的である。とはいえ、これらは「誕生神話」であるので、現実性は関係がないとも言える。(150509)。 →歴史的イエズス
  知られざる父 [G] propator  「知られざる神・至高者」「上なる父・神」「先在の父」、また「プロパトール」と呼ばれる。 →先在の父。
  シリア・エジプト型グノーシス主義 [E] Syrio-Egiptian Gnosticism  ヘレニク・グノーシス主義の一方の極で、西方グノーシス主義とも呼ぶ。特徴は、創造神話において、グノーシス主義的二元論の成立の機構を、原初の光にして善なる一者の垂直的存在展開乃至流出で説明し、調和的流出の過程で、何らかの瑕疵乃至事故・過失によって、不調和成分、すなわち闇と悪の宇宙要素が流出してしまったとする。「ソピアー神話」が、この垂直的な存在流出を象徴的に示している。また、『ナグ・ハマディ写本』の諸文書は、シリア・エジプト型に属すると考えられ、地中海世界の辺縁、主としてエジプト・シリアで発祥したと見做されるグノーシス主義が、この型に属する。西方グノーシス主義は、肉の生殖を否定したため、いわゆる「エリートのディレンマ」に陥った。それらは、紀元四世紀には、教派としては自滅したものとも想定される。 →ヘレニク・グノーシス主義。 →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義
  『シルウァヌスの教え』 [E] The "Teachings of Silvanus"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VII-4」(36),E)キリスト教文書。
  心魂(しんこん・たましい) [G] psyche  人間は、グノーシス主義では、三つの実体要素からなり、それは肉・霊・心魂の三要素で、心魂は、その裡の一つ。救済に与れるか否かは、心魂の浄化のレヴェルにあるとも云える。魂(たましい)。霊魂とも云う。ウァレンティノス派には、「新婦の部屋」の秘儀があり、これは、心魂(女性名詞)を花嫁とする、霊との象徴的結婚儀式で、プレーローマにおける、心と霊の聖婚による「両性具有」の実現を象徴的に実現する儀式であった。ウァレンティノス派はまた、人間の三つの種類を唱え、霊的人間、心的人間、肉的・物質的・質料的人間の三種は、それぞれ、「運命」が決まっているともした。 →「用語集,心魂(しんこん)」, →「用語集,両性具有
  心魂的人間 [G] psyuchikos  プシューキコス。ウァレンティノス派の教えにおける、三種類の人間の一つ。霊的人間と質料的人間が、生得的に救済の可否が定まっているに対し、この世での行いや、グノーシス(知識)の獲得程度に応じて、救済の可能性のある者。ウァレンティノス派及びその派生教派は、当時の原始キリスト教の信者を、「心的人間」と見做し、考えを改め、グノーシスの獲得に努力すれば、救済の 可能性もあると主張していた。 →救済。 →運命。
  『真正な教え』 [E] "The Original (Authentic) Doctrine"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-3」(27),C)キリスト教的グノーシス文書。
  新婦の部屋 [G]   ウァレンティノス派の秘儀とされ、象徴的に「心魂」と「霊」の聖婚が成立する。 →「用語集,両性具有
  『真理の証言』 [E] "The Testimony of Truth"  「ナグ・ハマディ文書。NH-IX-3」(42)(原題なし),C)キリスト教的グノーシス文書。
  『真理の福音』 [E] The "Gospel of Truth", [L] Evangelium Veritatis  ナグ・ハマディ文書。「NH-I-3」(03)(incipit),C)キリスト教的グノーシス文書。(注:「incipit」は、原題のない場合、文書冒頭の「言葉」でタイトルとする形式。『旧約聖書』には、この形式の題名がかなりある)。『ナグ・ハマディ写本』中のグノーシス主義文書。原題はなく、文書冒頭の言葉のラテン語訳を元に、『真理の福音』と通称される。ウァレンティノスの説教を文書として記録したものではないかと云う仮説がある。 →ナグ・ハマディ写本
  『真理の福音』(部分) [E] Part of the "Gospel of Truth"  ナグ・ハマディ文書。「NH-XII-2」(49)(原題なし),C)キリスト教的グノーシス文書。
  『救い主の対話』 [E] The "Dialogue of the Redeemer"  ナグ・ハマディ文書。「NH-III-5」(17),C)キリスト教的グノーシス文書。
  スタウロス [G] stauros  ギリシア語の原義は「杭」であるが、キリスト教『新約聖書』では、キリストが磔刑にされた「十字架」を意味する。グノーシス主義の言葉としては、恐らく、キリスト教の用語を借用したのであろうが、プトレマイオス派の創世神話で、ソピアーの落下事件において、プレーローマを護るため築かれた「境界(ホロス)」の別名。中間世界に取り残されたアカモートの求めに応じて、アイオーン・クリストスが、プレーローマから、スタウロスの上に身を延ばして、アカモートを救おうとしたとされるが、これは、十字架に磔されたキリストの姿のパロディではないかと私たちは考えている。 →ホロス, →ソピアー。
  スピリトゥス [L] spiritus  ラテン語の「霊・精神」のこと。英語の spirit, フランス語の esprit は、スピリトゥスから派生した。 →霊。
  生気 [/]   生命の本源を構成すると考えられる「気体的実体」。インド思想のプラーナなどが、それに該当する。霊や魂と同様に、「息」「気息」或いは「風」などの言葉から派生して概念構成される。 →霊,魂。
  『聖書外典』 [G] apokrypha  「アポクリファ」のこと。 →アポクリファ。
  星辰 [G] asteres  星のこと。古代宇宙論では、恒星天に鏤められた天体を云うが、ここでは、惑星も含めて、地球外の天体を云う。古代宇宙論では、星辰は神或いは神霊の宿る場であった。しかし、グノーシス主義では、星辰は、アルコーンの支配の場であり、星辰そのものが、アルコーンとも見做された。 →惑星。 →「用語集,アルコーン
  精神 [L] spiritus  spiritus は、精神或いは精神機能を意味する。しかし、霊の意味もあり、「酒精」のことを spiritus で表現する。ギリシア語では、霊(pneuma)乃至、理法・理性(nous)が対応しているとも云える。ドイツ語では、Geist(ガイスト)と云う。 →霊, →ヌース。
  精神的姿勢 [D] Geisteshaltung  精神の姿勢の言い換え表現。現存在の姿勢とほぼ同義。 →現存在の姿勢。
  精神の姿勢 [D] Geisteshaltung  ハンス・ヨナスのグノーシス主義の基本原理規定をめぐる考察に基づき、荒井献が原理規定で援用する概念。現存在の姿勢とほぼ同義。 →現存在の姿勢。
  『聖なるエウグノストス』 [E] The Blessed Eugnostos  ナグ・ハマディ文書。「NH-III-3」(15),B)キリスト教化過程グノーシス文書。 →『エウグノストス』。
  西方グノーシス主義 [E] Western Gnosticism  シリア・エジプト型グノーシス主義の別称。 →シリア・エジプト型グノーシス主義。
  聖マリア [L] Sancta Maria  キリスト教において、救世主イエズスの母にして、処女母。「神の母」の称号を持つが、その原型的存在は、地中海世界の「神々の母・レアー」であるだろう。他方、グノーシス主義の立場から見れば、聖マリアは、プトレマイオス派のプレーローマにおける第二アイオーン・シーゲーの位置にあると云える。或いは、まさに「ソピアー」のキリスト教的に変形され、抑圧された様態が聖マリアであると考えるのが妥当である。 →ソピアー, →「用語集,ソピアー
  生命 [G] zoe  ゾーエーは生命・生物の意味である。キリスト教では、『新約聖書・ヨハネ福音書』などに、救世者キリストは純粋なる「生命=ゾーエー」であると云う考えが述べられている。グノーシス主義では、オグドアス・プレーローマの第六アイオーンである。 →ゾーエー, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  『セクストゥスの金言』 [E] The "Senteces of Sextus"  ナグ・ハマディ文書。「NH-XII-1」(48)(原題なし),F)非キリスト教・非グノーシス文書。
  『セツの三つの柱』 [E] "The Three Pillars (Stelae) of Seth"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VII-5」(37),A)非キリスト教的グノーシス文書。
  『全異端反駁』 [L] Reftatio Omnium Haeresium  ローマ人司祭ヒッポリュトスの著作。グノーシス主義異端反駁書。 →ヒッポリュトス。
  先在の父 [G] propator  「知られざる神・至高者」「上なる父・神」とも呼ばれる。プレーローマの「無の深淵」に存在した、存在の充満の根源アイオーン。プトレマイオス派の体系で、第三アイオーンとなる「ヌース(叡智)」は、この「先在の父」に対応して、「万物の父」と呼ばれる。「先在の父」は、「独り子(モノゲネース)」として、ヌースを生み出し、ヌースは、父の独り子として「世界」を創造し、「万物の父」と呼ばれた。ヌースが創造したのは、しかし、「この世=宇宙」ではなく、 プレーローマの永遠世界であった。 →プロパトール。 →「用語集,プロパテール」, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  造物主 [G] demiourgos  デーミウルゴスのこと。プラトーンの著作に現れる、下級の世界創造者。 →デーミウルゴス。
  ゾーエー [G] zoe  「生命」の意味。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。第六アイオーン。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  ソピアー [G] Sophiaa  ギリシア語で「智慧」の意味。プトレマイオス派を初め、多くの西方グノーシス主義において、「宇宙」と「アルコーンたち」が創造される契機となる宇宙的事件を引き起こした高次アイオーン。エイレナイオスの報告によるプトレマイオス派の神話では、第三十アイオーンである彼女が、伴侶テレートスとの合意なくして、「知られざる父」への知識慾・認識慾(パトス)を抱いたのが、プレーローマの調和の破綻の開始である。ソピアーは落下し、様々な分身・エイコーンに分化する。(ソピアー本体は、プレーローマを護るため築かれた「ホロス(境界)」によって救済され、プレーローマに帰還することができた。しかし、ソピアーの分身は、ホロスの外に取り残され、中間世界が構成される)。アイオーン・ソピアーの分身たちの流浪の運命がこの時より始まり、影像(エンテュメーシス乃至アカモート)は、中間世界でヤルダバオートを創造する他方、ソピアーは更に落下して、地上世界で、魂として、娼婦となって放浪し、陵辱されるが、光のグノーシスを得て、救済されると云う神話も存在する。バルベロ派の至高女性アイオーンであるバルベロはソピアーの役割を果たしており、ソピアーは、グノーシス主義一般において、或る神話的原型であると云える。それは、「救済される者」が即ち「救済者」でもあると云う矛盾的事態を象徴的に表現する存在でもある。救済者は、キリスト教的グノーシス主義では、クリストスであるが、原型的には、ソピアー或いはそれに相同な女性高次霊が救済者であったと考えられる。 →ホロス, →聖マリア, →「用語集,ソピアー
  ソフィア [G] Sophiaa  ソピアーの別読み。 →ソピアー, →「用語集,ソピアー
  ゾロアスター教 [D] Die Lehre des Zoroaster (Zarathustra)  ゾロアスター(ザラトゥストラ)が創始したとされる古代ペルシアの宗教で、光と闇の二元論で知られる。グノーシス主義の二元論や、その神話構成に影響したことは認められるが、グノーシス主義とは神学構造が異質であり、明らかに別の宗教である。ペルシアの国教であり、その神官・僧を、ギリシア語でマゴス(magos)と呼んだ。イエズスの誕生の時訪れた、東方の三博士は、マゴスたちであり、ゾロアスター教の司祭であったとも考えられる。
  存在解釈 [D] Seinsdeutung  存在の解釈の別表現。 →存在の解釈。
  存在の解釈 [D] Seinsdeutung  ハンス・ヨナスのグノーシス主義の本質規定をめぐり、荒井献が援用した概念。グノーシス主義的「現存在の姿勢」より、存在世界の「存在 Sein」について、グノーシス主義的実存は「説明」を求め、これを、既存の宗教や神話の枠組み・神話素を元に、「創作神話」によって、「解釈 deuten」する作業を云う。この「存在の解釈」によって、グノーシス主義の世界観が表現され、また救済の原理機構が提示される。「存在解釈」とも云う。 →現存在の姿勢。 →「現代グノーシス主義原理試論


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   [G] soma  肉に対応する部分があるが、また別の意味を持つ。「身体」とも云う。グノーシス主義は、人間は、霊・心魂・肉の三元より構成され、救済に与れるのは、霊と心魂の一部であるとするが、キリスト教では、人間は、霊と肉の二元または、霊・肉・魂・体の四元で構成されるとし、救済に与れる者は、「神の国」で、四元が揃った形で「復活」するとされる。 →肉, →「グノーシス主義略論
  第一のアルコーン [G] Proto-Archon  アルコーンたちの第一人者。デーミウルゴスの別称。 →デーミウルゴス
  ダイモーン [G] daimon  古代ギリシアの「神霊」のことであり、ソークラテースに霊感或いは預言を与えたことで有名。後に下落して、西欧では、悪魔のこととなり、英語の damon となる。
   [G] psyche  グノーシス主義では、人間を構成する三要素の一つ。 →心魂(しんこん)。
  『魂の解明』 [E] Exegesis on the Soul  ナグ・ハマディ文書。「NH-II-6」(11),C)キリスト教的グノーシス文書。『ナグ・ハマディ写本』中のグノーシス主義文書。 →ナグ・ハマディ写本
  『(断片)』 [E]   ナグ・ハマディ文書。「NH-XII-3」(50)(原題なし)。
   [G] pater  キリスト教では、イエズスが祈った「天の父なる神」。マルキオーンのシステムでは、ユダヤ教の神=ヤハウェと対立する、異邦の知られざる「救済の主」。グノーシス主義では、プレーローマの第一アイオーン=ビュトスのことでもあるが、また、ビュトス=プロパトールの生み出した、その「独り子」たる「ヌース Nous」が、万物の「父」とも呼ばれる。 →ヌース, →先在の父, →「用語集,マルキオーン」, →「用語集,オグドアス
  『チャコス写本』 [L] "Codex Tchacos"  1970年代に、エジプトのエル・ミニヤ(El Minya)で発見されたコプト語古パピュルス写本。紀元300年頃。専門知識のない古物商が、いい加減な保存法を試したりした為(例えば、冷凍庫に保存して、凍結させたりした。この結果、インクが剥がれ、パピュルス繊維が崩れた)、発見時の状態から激しく劣化した。また、発見当初は存在していた十ページ分ほどが消えている。切り分けられて売られたと思われるが、見つかっていない。エイレナイオスが異端文書として言及していた『ユダ福音書』が含まれる。写本には、四種類の文書が収載されていた。1)「ペトロスからピリッポスへの書信(ペテロからフィリポへの手紙)」、2)「ヤコブの第一の黙示録」、3)「ユダ福音書」、4)「アロゲネス」(『ナグ・ハマディ写本』中の文書とは別ヴァージョン。損傷が極めて著しい)。2001年に写本の所有者が、文書の劣化の程度を確認しようと、解読・翻訳を専門家に依頼した結果、内容が判明した。写本の名は、現在の所有者フリーダの父親ディマラトス・チャコス(Dimaratos Tchacos)の名にちなんで命名された。(150515)0447。
  『ツォストゥリアヌス』 [E] "Zostrianos" (The Teaching of Zoroaster)  ナグ・ハマディ文書。「NH-VIII-1」 (38),A)非キリスト教的グノーシス文書。
  ディオニュシウス [L] Dionysius  ディオニュシオスの ラテン語形。 →ディオニュシオス。
  ディオニュシオス [G] Dionysios  古代及び中世キリス ト教神学、神秘主義思想等では、通常、「偽ディオニュシオス・アレオパギテ ス Pseudo-Dionyusios Areoopagitees 」 を指す。ラテン語名ディオニュシウス・アレオパギタ。 「ディオニュシオス・アレオパギテス」の名で、『天上位階論』など複数の著作 のある古代哲学者。原始キリスト教に、その名の人物が別におり、長く、この人 物と混同されて来たが、別人であるので、「偽 pseudo-」が、名前の前に慣習的 に付けられる。 →「キリスト教天上位階論
  『ディオニュシオス偽書』 [G] pseudo-Dionysios  偽デ ィオニュシオスの著作。四世紀頃、ギリシア語で記された。四つの著書と十数通 の書翰など。 →ディオニュシオス。
  『ティマイオス』 [G] Timaios  プラトーンの著作。そ こで語られる世界創造神話における、下級の「世界造形者」である造物主(デー ミウルゴス, demiourgos」をグノーシス主義諸派は援用し、これを、光の永遠 界=プレーローマに対立する愚かな下級神であるとした。
  デカス [G] dekas  ギリシア語で、「十個の組」「十 組系」或いは「第十」の意味。プトレマイオス派グノーシス主義で、三十アイ オーンを構成する。オグドアス(八組系)より派生した、下位の高次アイオー ン群。 →「用語集,プレーローマ」,  →「三十アイオーン・プレーローマ構成表
  テトラクテュス [G] tetraktys  ギリシア語で、「四個の組」「四組系」或いは「第四」の意味。プトレマイオス派グノーシス主義における至高中の至高プレーローマ界。原初、「認識を超えた先在の父」より、光の存在流出が生じ、先在の父は、その女性的位相であるシーゲーを通じて、ヌース(叡智)とアレーテイア(真理)を創造した。先在の父=プロパトールと、その対シーゲー、そしてこの両者より流出した二つのアイオーンが構成する四つの至高アイオーンの組を、テトラクテュスと呼ぶ。 →「用語集,テトラクテュス」, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  デーミウルゴス [G] demiourgos  デミウルゴス、デーミウールゴスとも云う。ギリシア語で「職人」等の意味であるが、グノーシス主義では、プラトーンの著作の神話より援用して、光のプレーローマに対抗する闇の勢力の第一人者で、この宇宙を創造した者=「造物主」とする。「第一のアルコーン」「偽の神」、或いは「ヤルダバオート」とも呼ぶ。 →ヤルダバオート, →「用語集,デーミウルゴス
  デミウルク [D] Demiurg  デーミウルゴスのドイツ語読み。 →デーミウルゴス。
  テレートス [G] Theletos  プトレマイオス派のシステム(エイレナイオス報告)で、第二十九アイオーン。アイオーン・ソピアーの伴侶。その名前は「意欲」を意味する。ソピアーが、テレートスとの合意なしに、「知られざる父」への認識慾・知識慾を持ったのが、「この世」の起源であると云われる。 →「用語集,ソピアー
  天使 [G] angelos  使者の意味より派生した言葉。古代オリエントで、神と人間のあいだを繋ぐ神霊として考えられた。ユダヤ教・キリスト教・イスラム教、またゾロアスター教には「天使」が概念としてあるが、グノーシス主義では、アイオーン乃至アルコーンがそれに対応する。当然、アイオーンやアルコーンの名として、ユダヤ教・キリスト教などの天使の名を援用した。なお、天使には、堕天使が含まれ、サーターン、サマエル、ベリアルなどはグノーシス主義のアルコーンとも比定可能である。 →「用語集,天使」, →「キリスト教天上位階論・天使位階表
  『闘技者トマスの書』 [E] The "Book of Thomas (the athlete)"  ナグ・ハマディ文書。「NH-II-7」(12),C)キリスト教的グノーシス文書。
  東方グノーシス主義 [E] Eastern Gnosticism  イラン型グノーシス主義の別称。 →イラン型グノーシス主義。
  ドーデカス [G] dodekas  ギリシア語で、「十二個の組」「十二組系」或いは「第十二」の意味。プトレマイオス派グノーシス主義で、三十アイオーンを構成する。オグドアス(八組系)より派生した、下位の高次アイオーン群。 →「用語集,プレーローマ」, →「三十アイオーン・プレーローマ構成表
  『唱えられた祈り』 [E] A Prayer  ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-7」(31)(incipit),D)ヘルメス文書。
  『トマスによる福音書』 [E] The "Gospel of Thomas" [D] Evangelium nach Thomas  ナグ・ハマディ文書。「NH-II-2」(07),C)キリスト教的グノーシス文書。『ナグ・ハマディ写本』中のグノーシス主義文書。古来より、正典(カノン)『新約聖書』四福音書以外に、『トマスによる福音書』と呼ばれる第五の福音書が存在したことが、記録として残っていた。原本は湮滅したものと考えられ、内容を僅かに伝える記録しかなかった。『ナグ・ハマディ写本』の発見において、その第一コーデックスに、この往古の福音書と比定される文書が含まれていた。内容は、イエズスの語録集で、形態的には『Q』に近い。荒井献の翻訳解説で講談社より出版されている。 →ナグ・ハマディ写本。


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  『ナグ・ハマディ写本』 [E] Nag Hammadi Codices  上エジプトのナイル川流域にあるナグ・ハマディで1945年に発見された、原典グノーシス主義文書を多数含むパピルス・コーデックス群(全十三写本)。『ケノボスキオン文書』とも呼ばれる。写本はサヒディック方言コプト語で記されており、筆写されたのが四世紀であり、ギリシア語原書より翻訳されたものと考えられる。従来、異端反駁論者たちの著作を通じて、間接的にしか知り得なかったグノーシス主義について、直接的に知ることができるようになり、グノーシス主義研究に新しい展望をもらした。オランダの出版社ブリルが、原典ファクシミリ版及び、英語による全訳(The Nag Hammai Library in English)を出版した。日本では、荒井献・大貫隆等が編集翻訳して、岩波書店より『ナグ・ハマディ文書』全四巻として出版されている。日本語訳は、原典全52文書の裡、保存状態のよかった33文書の翻訳である。(『ナグ・ハマディ写本』中の文書は、「NH-I-1」と云うように略する。これは、「ナグ・ハマディ第一写本第1文書」の意味で、具体的な題名では、『使徒パウロの祈り』を意味する) →「用語集,ハグ・ハマディ写本
  ナザレのイエズス [G] Iesous ho Nazareth  歴史的イエズスの呼称(150509)。→歴史的イエズス →クリストス
  「ナハシュ派」 [H]   グノーシス主義の一派。オピス派と同じものではないかと云われている。『旧約聖書・創世記』における、アダムとヘーヴァを誘惑した蛇に、肯定的意味を与えるので、このように、異端反駁論者ヒッポリュトスが名付けた。 →オピス派
   [G] sarks  人間を構成する三つの要素の一つ。グノーシス主義では、光のプレーローマと、暗黒の宇宙(この世)の二元論を主張するが、光のプレーローマに属する「霊, pneuma」に対し、暗黒のこの世に属するのが「肉(サルクス)」である。グノーシス主義の世界観では世界は三世界よりなり、いま一つ「中間世界」と云うものが考えられるが、それに対応するのは「心魂」であり、肉と心魂は、デーミウルゴスやアルコーンたちが創造したもので、それ故、可壊であり、不完全で、滅びの定めにあるとされる。肉・肉体よりの、霊そして心魂の「救済」がグノーシス主義の基本教義である。 →霊, →心魂(しんこん), →「用語集,肉,肉体
  肉体 [G] sarkosoma  肉と同義。肉による身体(sooma)の意味。「体(ソーマ)」は肉とはまた区別される。 →肉。
  肉的人間 [G] sarkikos  質料的人間のこと。複数形は、サルキコイ(sarkikoi)。 →質料的人間。
  肉の衣 [G]   キリストの霊は、地上に降下する時、「肉の衣」を纏ったとされる。グノーシス主義では、これは、アルコーンたちの目を幻惑するためであったとも云われている。人間の霊と魂は肉の衣を纏っている、或いは、牢獄としての肉に閉じこめられているとされる。 →「用語集,肉,肉体
  偽の神 [G] pseudos theos  通常、第一のアルコーン、デーミウルゴスを指す。 →デーミウルゴス
  偽ディオニュシオス・アレオパギテス [G] pseudo-Dionysios Areopagites  偽ディオニュシオスのこと。 →ディオニュシオス。
  偽ディオニュシウス・アレオパギタ [L] pseudo-Dionysius Areopagita  偽ディオニュシオスのラテン語名。 →ディオニュシオス。
  似像 [G] eikon  エイコーンのこと。或いはエイドーロンのこと。 →エイコーン,エイドーロン
  二元論 [D] Dualisumus  一般に、世界=存在世界が、二つの根本原理の対立と両者の相互作用より成り立っているとする世界観。プラトーンの哲学が、質料の地上世界とイデアーの永遠界を対比させる、観念論的二元論の典型とされる。宗教としては、光・善の原理と闇・悪の原理が、相克しているとするゾロアスター教が典型的二元論宗教。グノーシス主義は、「この世=宇宙」を否定する、本質的二元論とされる。 →反宇宙的二元論, →「用語集,反宇宙的二元論」, →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義
  二神論 [D] Dualisumus  Dualisumus 或いは英語の dualism は、「二神論」と云う意味も含む。二元論の或る限定的な場合と考えることができる。対立する二元が、神格である場合に、二神論となる。グノーシス主義の場合、デーミウルゴスも「神格」であるので、「二神論」とも云える。 →二元論。
  ヌース [G] nous  古代ギリシアで考えられた、「叡智存在」乃至「叡智」そのもの。アリストテレースは、星辰にはヌースが宿っているとした。叡智・理法・宇宙理性などとも訳する。グノーシス主義においては、プトレマイオス派を代表として、「オグドアス」を構成する至高アイオーンの名。第一アイオーンである「プロパトール=ビュトス」が、「原父」乃至「先在の父」と呼ばれるに対し、アイオーン・ヌースは、「万物の父」或いは「独り子」と呼ばれる。また、彼だけが、「知られざる父=プロパトール」を認識し得たとされる。オグドアスの第三アイオーンである。伴侶はアレーテ イア(真理)。(ギリシア語では、「ノオス noos」と云う別形がある)。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  ヌミノーゼ [D] Numinose  ルドルフ・オットーが提唱した、神や神霊の有する、人に対し「畏怖」を喚起させる特質。「霊的権威」の顕現とも云える。神や天使などが、人の前に出現する時、通常、「恐怖・畏怖」の感情が生じる。これをヌミノーゼとオットーは定義した。
  『ノーレアの思い』 [E] "Ode about Norea"  ナグ・ハマディ文書。「NH-IX-2」(41),C)キリスト教的グノーシス文書。


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  『パウロの黙示録』 [E] The "Apocalypse of Paul"  ナグ・ハマディ文書。「NH-V-2」(21),C)キリスト教的グノーシス文書。
  パコミオス [G] Pakhomios  『ナグ・ハマディ写本』の起源についての有力な仮説として、四世紀当時、パコミオスが創設した、コプト・キリスト教修道院が、ナグ・ハマディの近くにあり、写本群は、この修道院が収集していた「禁欲主義」「グノーシス」についての文書ライブラリーであったのではないかと推定されている。 →ナグ・ハマディ写本, →「用語集,ナグ・ハマディ写本
  バシレイア [G] basileia  古代ギリシアで、バシレウスが管掌した領域・都市。 →王国
  パトス [G] pathos  通常のギリシア語として、意図せずに捕らわれる「情熱・熱狂」で、「受苦」とも云う。グノーシス主義では、プトレマイオス派の創世神話で、ソピアーが、知られれざる父への知識慾・情熱(パトス)に捉えられ、プレーローマより落下する。パトスは、ソピアーの分身として、中間世界で機能する。 →ソピアー。
  『パナリオン』 [G] panarion  サラミス司教エピファニオスの著作。グノーシス主義異端反駁書。「薬籠」と訳される。 →エピファニオス。
  パラクレートス [G] parakletos  ギリシア語では、「弁護者・保護者・慰安者」の意味であり、イエズスは、『ヨハネ福音書』の伝える処では、自分の死後、神より、パラクレートスを弟子たちに遣わしてもらうと約束する。これがキリスト教の「聖霊」である。聖霊は、ハギオン・プネウマ(hagion pneuma)ともギリシア語で云う。(ハギオン・プネウマとは、pneuma が「霊」で、hagion が「聖なる」を意味する形容詞の単数中性形主格で、文字通り「聖なる霊、聖霊」である。イエズスが、洗礼者ヨハネスより洗礼を受けたとき、天から「ハギオン・プネウマ=聖霊」が降りたって彼に宿ったとされる)。パラクレートスとハギオン・プネウマでは意味が異なり、また使用される場面が異なっている。従って、これらは別の表象・神霊像と想定されるが、キリスト教では、教義の辻褄を合わせるためか、同一視している。add(150509/0517)。
  バルダイサン [S/H] Bardaisan  (153−222)別名、イブン・ダイサンibn Daisan)。科学者、占星術者、哲学者、詩人、グノーシスの教師。バルダイサン派の祖。アッシリア人として、153年にエデッサに生まれる。エデッサは、ローマ帝国と、パルティア王国、後にサーサーン朝ペルシア帝国の両勢力の拮抗する位置にあり、シリアの宗教的シュンクレティズムの交差点であった。バルダイサンはキリスト教に帰依し、敬虔なキリスト教徒となるが、同時に、神秘的テーゼとキリスト教を混淆させ、新しい宗教を造ろうと試みた。彼は、当時の代表的なグノーシスの教師であったマルキオーンとウァレンティノスの思想に対し、反論文を記した。しかし、バルダイサンが開いた新宗教は、むしろ、ウァレンティノスの東方分枝とも言えるグノーシス教義であった。シリア、そしてメソポタミアにあって、彼は大きな宗教的影響をもたらした。マーニーは彼の影響の元で、新しい宗教「マニ教」を構想し生み出す。バルダイサン自身は、エデッサがローマによって滅ぼされた後、自己の宗教を棄てるよう、ローマ皇帝カラカラに求められたが、これに抗して、わたしは死を恐れてはいないと述べ、自己の宗教を護った。しかし、63歳の年、彼はアルメニアへの亡命を強要された。アニの要塞で、彼は福音を広めようと努力したが、華々しい成果はなかった。69歳の年、バルダイサンはアニで、また別の説ではエデッサで死去した。彼は精力的な著作家で、多数の書物を著したが、すべて湮滅した。ただ、断片が、引用などの形で伝わっており、彼の執筆活動の輪郭を知ることはできる。(150515) →ウァレンティノス
  バルベーロー [C/?] Barbelo  バルベロ。
  バルベロ [C/?] Barbelo  バルベロ派(バルベロ・グノーシス主義派)に出てくる至高アイオーンの女性的位相。また『ヨハネのアポクリュフォン』等でも、至高霊として、原初の名付けえぬ存在の女性的位相として出てくる(「母父 Meetropatoor」とも呼ぶ)。バルベーロー。バルベロはまた、他のグノーシス主義諸派の「ソピアー」に当たる。 →ソピアー。
  「バルベロ派」 [C/?] Barbelo  グノーシス主義の一派。バルベロと云う語源不明の女性アイオーンを、至高アイオーン=救済者とする。 →バルベロ。
  反宇宙的二元論 [D] Akosmischendualismus  グノーシス主義の世界観を典型的に表す「宇宙把握」。この世=宇宙=コスモスは、悪と暗黒の神=偽の神=デーミウルゴスの創造になるもので、自覚あるグノーシス的魂の人にとっては、本来的故郷ではなく、本来的故郷は、「真の神」であるプレーローマの「知られざる神」の永遠世界にあるとする二元論。それはまた、人間を構成する、肉と霊の二元対立にも反映する。人間の「心魂」は、裡なる霊の光に導かれ、救済されるとする。ゾロアスター教やプラトーンの二元論の影響を受けているが、「本質的に」この世=宇宙を否定する二元論。 →「用語集,反宇宙的二元論」, →「用語集,プレーローマ」, 「用語集,デーミウルゴス」, →「グノーシス主義略論
  ハンス・ヨナス [D] Hans Jonas  実存主義哲学者。グノーシス主義研究者。 →ヨナス, H
   [G] phos  ポース。「光明」とも云う。ゾロアスター教では、善悪二元論の善の原理は光であり、光明神アフラマズダが考えられた。キリスト教では、『新約聖書・ヨハネ福音書』が、キリストを永遠の世界より訪れ「世を照らす光」であると規定している。この場合、暗闇・暗黒(skotia)との対立が述べられている。グノーシス主義では、善なるプレーローマと至高アイオーンたちは、光・光明であるとされる。 →「用語集,反宇宙的二元論」, →「グノーシス主義略論
  ピスティス・ソピアー [G] pistis sophia  ピスティスはギリシア語の「信仰」で、ソピアーは「智慧」、或るグノーシス主義の神話では、ソピアーは、ピスティスと呼ばれる。また、ピスティス・ソピアーは、中間世界における、ソピアーのエイコーン(影像)の名前でもある。/『ピスティス・ソピアー』と通称される、グノーシス主義文書がある。 →「用語集,アルコンテス
  『ピスティス・ソピアー』 [G] Pistis Sophia  『ナグ・ハマディ写本』以前に、十八世紀中葉偶然発見された、グノーシス主義文書の通称。羊皮紙写本で、178葉、356頁あり、『アスキュー写本』とも呼ばれる。内容は、単一の文書で、イエズスとその女性弟子マグダラのマリアなどの対話が記されている膨大な著作。『ピスティス・ソピアー』とは、このグノーシス主義文書の通称でもある(0514)。大英博物館所蔵。
  ピスティス・ソフィア [G] pistis sophia  ピスティス・ソピアーの別表記。 →ピスティス・ソピアー。
  ヒッポリュトス [G] Hippolytos  グノーシス主義異端反駁論書である『全異端反駁 Reftatio Omnium Haeresium』の著者と比定される、3世紀後半のローマ人司祭。教皇候補(対立教皇)でもあったとされる。グノーシス主義異端についての報告で、エイレナイオスのそれとは異なる説明が彼の著書には存在する。例えば、初期グノーシス主義派であるバシレイデース派の教説として、独特の「pansperma, 汎種子」説を彼らが主張していたとヒッポリュトスは報告している。また、グノーシス主義の起源について、彼は、エイレナイオスとは異なり、キリスト教と異教(ギリシア哲学や、その他の諸思想・諸宗教)の混淆によってグノーシス主義は生まれたと主張した。 →エイレナイオス, →「用語集,グノーシス主義異端反駁者
  否定神学 [/]   肯定神学の対語。超越者等を表現・説明するにおいて、積極的にその「属性」を列挙するのではなく、「Aでもなく、Bでもなく、Cでもなく……」と云うように、属性を否定して行く形で超越者の(人間の思惟で把握し得る限りの)属性を「否定的」に規定し、これによって、超越者の「超越性」を表現する形の神学システム。グノーシス主義は、プロパトール=知られざる父の描写について、否定神学であった。 →先在の父。
  独り子 [G] monogenes  「モノゲネース」の意味。(ラテン語では、unigentus となる)。プトレマイオス派グノーシス主義ではオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。万物の「父」とも呼ばれる。 →モノゲネース, →ヌース, →父, →「用語集,オグドアス
  ビュトス [G] bythos  「深淵」の意味。プロパトールの別名。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。第一アイオーン。 →プロパトール, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  『ヒュプシフロネー』 [E] "The High-Minded (hypsiphrone)"  ナグ・ハマディ文書。「NH-XI-4」 (47),A)非キリスト教的グノーシス文書。
  ヒューリコス [G] hyulikos  質料的人間のこと。複数形は、ヒューリコイ(hyulikoi)。 →質料的人間。
  『ピリポに送ったペテロの手紙』 [E] The "Letter of Peter to Philip"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VIII-2」(39),C)キリスト教的グノーシス文書。
  『ピリポによる福音書』 [E] The "Gospel of Philip"  ナグ・ハマディ文書。「NH-II-3」(08),C)キリスト教的グノーシス文書。
  プシューケー [G] psyuche  ギリシア語で魂・亡霊などの意味。グノーシス主義では、人間を構成する三要素の一つ。「心魂」のこと。 →心魂(しんこん)。
  プシューキコス [G] psyuchikos  心魂的人間のこと。複数形は、プシューキコイ(psyuchikoi)。 →心魂的人間。
  『復活に関する教え』 [E] The "Treatise (Logos) on the Ressurection"  ナグ・ハマディ文書。「NH-I-4」(04),C)キリスト教的グノーシス文書。
  物質的人間 [G] hyulikos  質料的人間のこと。複数形は、ヒューリコイ(hyulikoi)。 →質料的人間。
  プトレマイオス [G] Ptolemaios  (? - 172 ?)。ウァレンティノスの弟子で、ヘーラクレオンと共に、ウァレンティノス派の西方分枝及びイタリア分枝を代表する教師である。生涯については、ほとんど不明であり、172年頃には生存し活躍していたことが知られるが、誕生年、死亡年共に不明。その教えは、エイレナイオスの『異端反駁』における詳細な引用から窺える。また、4世紀のサラミス司教エピファニオスの異端反駁書に収められている『フローラへの書信』は、プトレマイオスが書いた書信である。これは、裕福で知的なあるキリスト教徒の婦人が、『旧約聖書』の律法の起源について尋ねたのに対し、丁寧に答えたものである。彼によれば、「律法」は、三つの起源を持ち、「偽の神」がその一部を、モーセがその一部、そしてユダヤ教の長老達がその一部を造ったとしている。(150515) →ウァレンティノス
  「プトレマイオス派」 [G] Ptolemaios  グノーシス主義の一派。プトレマイオスは大ウァレンティノスの弟子とされる。反異端論駁者エイレナイオスの反駁書『異端反駁』にその教義が詳細に記されている。
  プネウマ [G] pneuma  ギリシア語の「霊」。 →霊。
  プネウマティコス [G] pneumatikos  霊的人間のこと。複数形は、プネウマティコイ(pneumatikoi)。 →霊的人間。
  プノイマ [D] Pneuma  ドイツ語での「プネウマ」。霊のこと。 →霊。
  普遍グノーシス主義 [E] universal Gnosticism  ヘレニク・グノーシス主義を、歴史的個別的グノーシス主義とすれば、グノーシス主義の原理的規定において成立する、現存在の姿勢と、それより構想される存在解釈を持つ、世界把握の様式と実存の存在様態は、原型的グノーシス主義と称すべきであるし、これが、「普遍グノーシス主義」の原理基盤である。歴史的個別的グノーシス主義と、超歴史的な、現存在の姿勢より来る世界解釈としての普遍グノーシス主義の基本概念規定は、1966年イタリアのメッシーナ大学で開催された「国際コロキウム」において、研究者たちの概ねの合意を得て、確認された。 →ヘレニク・グノーシス主義, →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義
  『ブルース写本』 [E] Bruce Codex (Codex Brucianus)  1773年、スコットランド人旅行者スコット・ジェイムス・ブルースが、上エジプトのテーベ近郊で購入したパピルス写本。78葉、156頁あり、『ピスティス・ソピアー』同様、復活のイエズスが語る黙示録である『大いなる神秘のロゴスの書』が含まれる。この書の通称は、『イェウの二つの書』であるが、これは、『ピスティス・ソピアー』に言及ある処からの推定で、正確には、上の『大いなる神秘のロゴスの書』が書名である。第二部は、「未知のグノーシス主義文書」とされ、セツが主要な役割を果たすが、詳細不明(写本の傷みが激しく、不完全である)。オックスフォードのボードレイアン図書館所蔵(0518)。
  プレーローマ [G] pleroma  ギリシア語で「充満」の意味。人間の魂の本来的故郷があると考えられる、「超宇宙的圏域」。至高神である「知られざる先在の父」から流出した、至高アイオーンが秩序を構成している善と光の世界。プレロマとも云う。 →「用語集,プレーローマ」, →「オグドアス・プレーローマ構成表」, →「三十アイオーン・プレーローマ構成表
  プレロマ [G] pleroma  プレーローマの別表記。ギリシア語で充満の意味。 →プレーローマ。 →「用語集,プレーローマ
  プロノイア [G] pronoia  ギリシア語として、「先見」「先慮」の意味。『ヨハネのアポクリュフォン』等に登場する至高アイオーンの女性位相(つまり、バルベロの別名)。岩波書店版『ナグ・ハマディ文書』の付録用語解説では、「プロノイア」は「摂理」で、「ヘイマルメネー」の同義語、しかし対立語として説明されている。ギリシア語の用法では、確かにそのような意味もある。他方、「Nag Hammadi Library in English」では、 forethoughts と訳されれている。「摂理」は英語で、Providence で、この言葉自体、ラテン語語根から云えば、fore-sight である。全用例について、「プロノイア=摂理」とするのは、少し無理があると思う。「先慮」「予見」と云うような意味を含むことを説明する必要があるのではないかと思う(0514)。
  プロティノス [G] Plotinos  プロティーノスの別表記。 →プロティーノス。
  プロティーノス [G] Plotinos  新プラトン主義の最高峰(204−269)。アカデメイアとの直接の関係はないが、「一者」よりの「存在流出」の理論を構成し、神秘主義的形而上学を提唱。グノーシス主義の世界理論に、彼の哲学理論が、明らかに反映していると考えられる。
  プローテンノイア [G] protennoia  「第一の思考」乃至「第一・最初の思い」の意味。プレーローマの至高女性原理。その名は、ギリシア語で、prootee + ennoia の合成である。「プローテー」が、「第一の」を意味する形容詞の女性形で、「エンノイア」が「思い」である。
  プロートアルコーン [G] Proto-Archon  第一のアルコーンのギリシア語形。 →デーミウルゴス
  プロパテール [G] propater  「原父」の意味。プロパトールとも云う。またビュトス(深淵)とも云う。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。第一アイオーン。 →プロパトール, →「用語集,プロパテール」, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  プロパトール [G] propator  「原父」の意味。プロパテールとも云う。またビュトス(深淵)とも呼ぶ。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。「先在の父」「知られざる至高神」「上の父・神」等と呼ばれる、第一アイオーン。シーゲーを伴侶とする。 →プロパテール, →「用語集,プロパテール」, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表
  ヘイマルメネー [G] heimarmene  「運命」のこと。グノーシス主義では、特に『ヨハネのアポクリュフォン』では、プロノイア(先見・原思考・摂理、乃至バルベロの別名)に対立し、地上と中間世界は、ヘイマルメネーに支配され、プレーローマの上天世界は、プロノイアが支配するとされる(0514)。 →運命, →プロノイア。
  ヘクサメトロン [G] heksametron  ヘクサメトロスとも云う。「六個の音」あるいは「六個の音韻」の意味で、古代ギリシアの韻の一つ。ホメーロスの詩は、この音韻で朗唱されるように作られている。「長短短」と云う音韻脚を単位として、この音韻脚(英雄脚と呼ばれる)を基本的に六回繰り返す音韻。最後の脚は、「長長」または「長短」となる。ホメーロスの『イーリアス』の最初の行は、「メーニナ|エイデテ|アーペー|レーイア|デオーアキ|レーオス」となっている。(150517)
  『ペテロと十二使徒の行伝』 [E] The "Acts of Peter and the Twelve Apostles"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-1」(25),E)キリスト教文書。
  『ペテロの黙示録』 [E] The "Revelation (Apocalypse) of Peter"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VII-3」(35),C)キリスト教的グノーシス文書。
  ヘプドマス [G] hepdomas  ギリシア語で、「七個の組」「七組系」或いは、「第七」の意味。通常、ヤルダバオートの下の七体のアルコーンを指す。ヘプドマスは、「ベルリン写本」での『ヨハネのアポクリュフォン』においては、1)ヤオート、2)エローアイオス、3)アスタファイオス、4)ヤオー、5)サバオート、6)アドーニ、7)サバタイオスの七人とされる。これらは、惑星のアルコーンであるが、他に「一週間」を支配するヘブドマス・アルコーンが存在する(0514)。 →「用語集,アルコンテス
  ベリアル [H] Beliar  ベリエル(Beliel)とも云う。原初、ユダヤ教の神の至高天使であったが、神の意志に背き、「暗黒の王」、堕天使の長、神の対立者の首位者となる。グノーシス主義のヤルダバオートのような立場に、「二元論的対立」からは立つが、ヤルダバオートは、宇宙の創造者である。ベリアルは、神の創造した宇宙のなかで、神に反逆している対立勢力の首位者=堕天使であると云うのは、根本的に異なる。 →天使。
  『ヘルメス文書』 [L] Corpus Hermeticum  ヘルメス思想の中核を成す文書文庫。紀元二乃至三世紀頃より編集された。ギリシア語テクストであるが、文書自体はエジプトで成立したものと考えられ、「ヘルメス・トリスメギストス(三重に偉大なヘルメス)の教え」と称された。また、エジプトの智慧の神「トート」の教えともされた。十八文書から構成され、なかでも第一文書の『ポイマンドレース』は、グノーシス主義的教説を語っている。1463年、マルシリオ・フィチーノによってラテン語に翻訳され、西欧のネオプラトニズム・カッバラー魔術等の流行を引き起こした。
  『ベルリン写本』 [E] Berlin Codex (Papyrus Berolinensis 8502)  ベルリンのボーデ博物館が所蔵する『PBG 8502』の通称。十九世紀末、博物館は入手していたが、諸般の事情で、最初の校訂版の出版は1955年となった。四つのグノーシス主義文献を含むコプト語パピルス写本。『マリアによる福音書』『ヨハネのアポクリュフォン』『イエスの智慧』『ペトロ行伝』の四書である。写本作成は、5世紀初頭と考えられるが、収録論文は、2世紀に遡るものがあると考えられている。原発見地は上エジプトのアクミーム近辺と云われるが、詳細不明(0514)。
  ヘレニク・グノーシス主義 [D] Hellenistischer Gnostizisumus  この言葉は、私たちの「造語」であり、一般的にある訳ではない。ヘレニズム時代の世界、つまり紀元1世紀より4世紀を中心として、ヘレニク文明を背景に成立した歴史的グノーシス主義を、このように呼称する。この語の対語は、「普遍グノーシス主義」である。ヘレニク・グノーシス主義は、大きく二種類に分けることができる。1)シリア・エジプト型グノーシス主義、乃至西方グノーシス主義と、2)イラン型、乃至東方グノーシス主義である。前者は、「善の永遠界」の一元論より出発し、永遠世界の何かの瑕疵乃至事故による、不完全なる存在の流出が垂直的に起こり、こうして「二元論」が成立する。後者は、神話時間的には、その原初から、善の原理と、悪の原理の二元論が成立していた。前者は、異端反駁論者たちが反駁したウァレンティノス派やバルベロ派、或いは『ナグ・ハマディ写本』の文書を構成した諸派が該当する。後者は、マニ教グノーシス主義が、その代表と云える。 →シリア・エジプト型グノーシス主義, →イラン型グノーシス主義, →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義
  『ポイマンドレース』 [G] Poimandores  『ヘルメス文書』の最初の文書。非キリスト教的グノーシス主義の教説書とも見なせる。黙示録形式で、世界の起源を語る。水に映ったアイオーン・ソピアーのエイコーンと同様のモチーフが述べられている。
  ホクマー [H] chokmah  ヘブライ語の「智慧」。ソピアーの機能を、この名において、またはこの名のヴァリエーションで表現することがある。「アカモート」はその例である。 →ソピアー, →アカモート。
  ホクモート [H] chokmoth  プトレマイオス派の創世神話に登場する、ソピアーの分身「アカモート」の元となったヘブライ語。これは、現段階の私たちのヘブライ語の知識からすると、ホクマーの女性複数形ではないかと思える。従って、意味は「智慧」である。 →ソピアー, →アカモート。
  「ボゴミル派」 [D] Bogumil  十世紀頃、ブルガリアで勢力のあった、マニ教グノーシス主義的教派。(「Bogumil」はスラヴ語で、「神の愛」の意味であるが、この意味から教派名称が生じたかは未確認)。
   [G] aster  星辰のこと。古代宇宙論では、星辰に惑星も含める。 →星辰。
  ポーステール [G] Phoster  「フォーステール」とも云う。『ナグ・ハマディ写本,アダムの黙示録』に登場する「救済者」の名前。「光り輝く者」と云う意味がギリシア語ではある。クリストス同様、超霊的救済者。男性型救済者の例。 →救済者。 →「用語集,救済者
  母父(ぼふ) [G] metropator  メートロパトールのこと。バルベロの別名。 →メートロパトール, →バルベロ。
  ホロス [G] horos  ギリシア語で境界の意味。プトレマイオス派の創世神話で、ソピアーが落下した時、アイオーン・ソピアーを救済し、プレーローマを護るため、プレーローマを取り囲む「ホロス」が構成された。これによって、ソピアー本体は、救済され、プレーローマに帰還するが、その分身アカモートや、パトスなどが、ホロスの外に閉め出され、ここから「中間世界」が成立し、更に、ヤルダバオートの宇宙創造へと進む。別名スタウロス。 →ソピアー, →スタウロス。
  本来的故郷 [D] eigentliche Heimat  「この世=宇宙」は、グノーシス主義では、悪と暗黒の世界であるとされる。個人は、本来このような世界の住民ではなく、善なる光明の世界がその「故郷」のはずだとの思いが、グノーシス主義の「現存在の姿勢」として成立する。この時、「反宇宙的二元論」思想よりして、この宇宙と対比関係にあり、この世を超越する世界=プレーローマの永遠世界が、個人の「本来的故郷」と考えられる。 →救済者, →「用語集,反宇宙的二元論」, →「グノーシス主義略論
  本来的自己 [D] eigentliches Selbst  グノーシス主義の「反宇宙的二元論」では、この世が偽の世界であると同時に、個人が「自分」だと思っている「自己=肉体や魂」が、また、非本来的な自己で、個人は、非本来的自己を誤って自己の本来的姿と錯覚しているとされる。従って、真の「本来的自己」が存在する訳で、それは、個人の魂の深奥にある「霊」がそうであると云うことになる。→本来的故郷, →「用語集,反宇宙的二元論」, →「グノーシス主義略論


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[M]

  マニマーニー) [G] Mani  [c.216−c.275] 。マニ教の創始者。仏陀、ゾロアスター、イエズスに次ぐ第四の「叡智」の啓示者を自称する。 →「用語集,マニ
  マニ教 [D] Manichäismus  マニが3世紀半ば、ペルシアで創始した東方グノーシス主義宗教。イラン型グノーシス主義の最高体系とされる。西方グノーシス主義のエリート主義の矛盾を、信徒を、修行者(完成者)と聴聞者に二分割し、聴聞者は世俗的生活が許されるとしたことで、解決し、「公教」として成立し得た。十二世紀頃南フランスで繁栄したカタリ派は、マニ教の分派ともされる。 →「用語集,マニ教
  マラクマラハ) [H] malach  ヘブライ語で「天使」の意味。 →天使。
  マリア [G] Maria  聖マリアのこと。「マリア」という名は、ギリシア語及びラテン語での形である。この女性名は、ヘブライ語名「ミリャーム」、対応アラム語名「マリャーム」のギリシア語形と一般に考えられているが、いささか奇妙なことがある。ミリャームあるいはミリアムは、『旧約聖書』においては、ユダヤ教の女性指導者の名として、一人だけが登場する。他方、『新約聖書』においては、「マリア」の名を持つ女性が複数登場する。→マリアム →聖マリア。(150424)。
  マリアム [H/A] Mariam, Maryam  『新約聖書』に登場するマリアという女性たちの名の元のアラム語形とされる。「マリャーム」。アラム語のマリャーム(マリアム)のギリシア語形が「マリア」と考えられているが、これには異論がある。一般には認められていないようであるが、「マリア」という名はマリャームのギリシア語化ではなく、別の語源より来たものであるという考えがある。イエズスの母マリアは、Mater Rhea(マーテール・レアー)の略称であると言う説がある。レアーは、ギリシア神話あるいは古代ギリシア宗教において、「神々の母」の位階を持っている。ここより、「神イエズスの母」は、万神の母レアー女神であり、「母なるレアー」を示す「マレアー」がマリアの語源であるという解釈である。なお、『新約聖書・ルカ福音書』においては、冒頭の章では、イエズスの母「ナザレのマリア」は、ギリシア語において、Mariam(マリアム, Μαριαμ)と記されている。有名な「マリアの讃歌」も、ギリシア語原文に従えば「マリアムの讃歌」である。(なお、何故『ルカ福音書』冒頭にあって、Maria の代わりに、Mariam と云う表記が使われているのか、これは、福音書記者ルカが、ヘブライ的雰囲気を醸成するため、敢えて、Maria をアラム語形に似た形に表記したとされる)(150424)(150508)。
  マルキオーン [G] Markion  二世紀半ばに、強力な「反宇宙的二元論」宗教を提唱し、マルキオーン派を構成した。西方グノーシス主義が、すべて秘教的性格を帯びていたのに対し、マルキオーン神学は、「公教」として、広くローマ帝国内に流布した。その神学は、キリストへの「信仰」を説いたもので、「信仰(pistis)」よりも「知識(gnosis)」を重視するグノーシス主義としては、特殊な形態を持つ。グノーシス主義ではなく、「異教キリスト教」とでも呼ぶ、特殊な宗教システムであったとも云える。 →「用語集,マルキオーン
  「マルキオーン派」 [G] Markion  マルキオーンが創始した神学に帰依した人々の教派。原始キリスト教会と、「正統キリスト教会」の地位を争った。しかし、アレイオス(アリウス)やネストリオスの神学の持つ「異端性」とは、異質な意味での対立キリスト教派であったとも云える。
  マルキオン [G] Markion  マルキオーンの別表記。 →マルキオーン。
  マルコス [G] Markos  (二世紀)。生没年不詳。ウァレンティノスの弟子で、マルコス派の祖。彼に関する資料は、エイレナイオスの『異端反駁』における論争的文書における言及が事実上、唯一の資料である。エイレナイオスはマルコスを、年長の同時代人として扱っており、また彼が反駁書を執筆している時点で、マルコスは存命で、グノーシスの布教を現在進行形で行っているような記述を行っている。マルコスの信奉者は、ローヌ地域(ガリアのローヌ河に沿う領域)に多数いるとエイレナイオスは記しているが、マルコス派においては、ヘブライ語やシリア語の名前が一般に使われており、ここからすると、マルコスは小アジアにおいて彼の伝道活動を始めたように思える。またエイレナイオスの記述からは、彼はマルコスのガリアにおける信奉者達を実際に知っていたが、マルコス当人は、書籍を通じてしか知らなかった。マルコスの教義は、ウァレンティノスや先行するグノーシスの教師の教えとほぼ同一であるが、ピュタゴラス派に通じる数秘論的思想が加わっている。4,6,8,10,12,そして30と云った神秘数をマルコスは重視し、聖典において、あるいは自然界において、これらの神秘数が至るところで繰り返し顕在しているとしている。プレーローマについて、オグドアス(八対)に加え、デカス(十対)、ドーデカス(十二対)を具体的に述べたのはマルコスである。彼は30のアイオーン世界を論じた。また「ソピアー神話」を具体的に語り、霊は、配偶者となる花婿の天使と、天的世界にあって一体となると説いた。マルコスは極めて人間的魅力に富む人物だったようで、精神的・肉体的に女性を誘惑するに卓越していたと反駁者は述べている(*)。小アジアと、そこから遙かに離れたガリアに、彼の教えの信奉者がいたことになる。マルコスはむしろ、オリエントに出自があると考えられる。また、プリスキリアヌス主義の祖に、メンフィスのマルコスがいたと伝えられているが、このマルコスは別人と考えるのが妥当なようである。(150516-17) →ウァレンティノス
  (*註)マルコスの信奉者・信者には女性が多く、エイレナイオスはマルコスが彼女らを肉体的魅力で性的に誘惑したと嫉妬の思いを込めて非難する。ここにグノーシス主義の「性的放縦・性的乱脈」の見本があると主張するが、事実とは恐らく異なる。グノーシス派は寧ろ、禁欲思想で知られており、肉欲や性的放縦とは、反対の方向性を持っている。
  「マルコス派」 [G] Markos  魔術師マルコスとも呼ばれる人物が中心であった、グノーシス主義の一派。マルコスは、ウァレンティノスの弟子とされる。
  『マルサネス』 [E] "Marsanes"  ナグ・ハマディ文書。「NH-X-1」(43),A)非キリスト教的グノーシス文書。
  マンダ教 [D] Mandäismus  現在、イランとイラクの国境近辺に居住する人々の信仰するグノーシス主義宗教。その起源は、クムランの『死海文書』を残した人々たちと関係があり、当時複数あった「洗礼教団」の一つがグノーシス主義化したのではないかと云われている。ヨルダン河沿いに展開していたのが、ローマのエルサレム破壊事件等の余波を受け、現在の地理的位置に移動してきたのだと推定されている。洗礼を重要な儀式として備えている。教義的には、イラン型グノーシス主義と、シリア・エジプト型グノーシス主義の両方の特徴を併せ持っている。
  ムンドゥス [L] mundus  ラテン語で「宇宙・世界」の意味。ヘルメス思想一般に出てくる言葉。Anima Mundi(アニマ・ムンディ)は、宇宙霊或いは、宇宙の魂を意味し、人間の魂と照応する。Rex Mundi(レクス・ムンディ)は、「この世の王」で、普通、悪魔を指す。
  メシア [H]   ヘブライ語で「油注がれた者」の意味。本来、「油注がれた者」とは、神によって「聖別された者」の意味で、ユダヤ・イスラエルの歴代の王たちは、油注がれて聖別された存在であった。イスラエル・ユダの両王国が滅ぼされ、ユダヤ人に独立国家がなくなった時より、聖なる王=救世主がイスラエルに現れ、ユダヤ人の榮光をかつてに増して輝かせると云う願望的思想が一般化した。これを「メシアの再来」と称したが、「再来」であるのは、かつての偉大な預言者が、再び天の神の許よりくだされ、イスラエルの榮光を回復すると想像されたためである。ローマ帝国の支配下において、メシア願望は、政治的・宗教的、二つの意味での救世主となったが、イエズスがメシアとして期待されたのは、この両方の次元においてであった。イエズスはしかし、「人間的・社会的」救済を説き、彼の磔刑の後、弟子達の一部は、イエズスの「人間的救済」の思想を核に、原始キリスト教原教義を立てたとも考えられる。グノーシス主義では、イエズスの説いた「天の王国」は、即ち、本来的故郷としてのプレ−ローマであると解釈され、イエズス・クリストスを、グノーシス主義の「救済者」と見做す解釈が成立し、ここで、原始キリスト教団との対立が生まれ、原始キリスト教会の指導者たちは、異なる救済原理に立つグノーシス主義に脅威を抱き、「異端」として排斥しようと試みた。 →クリストス, →「用語集,グノーシス主義異端反駁者
  メッシーナ提案 [E] Messina suggestions  1966年4月、イタリアのメッシーナ大学で開催された、グノーシス主義の諸問題をめぐる「国際コロキウム Le Colloque International」で、確認された「グノーシス主義」の本質規定と、将来的に解決せねばならない諸問題に関する提案。国際学会において、グノーシス主義の定義についての本質的定義が、暫定提案であるとしても成された最初の歴史的業績。 →「用語集,ヘレニク・グノーシス主義
  メートロパトール [G] metropator  ギリシア語では、通常、「母方の祖父」の意味。「母の父」と云う意味である。グノーシス主義文献『ヨハネのアポクリュフォン』に出て来る用語で、「母父(ぼふ)」と云う奇妙な訳語を与える。バルベロの別名乃至別称号である。バルベロの父は、至高の神で、バルベロはその至高神・アイオーンの女性的位相であり、「万物の母胎」とも、「三倍男性的なる者」とも呼ばれているが、バルベロは、その創造物の立場からは、母であり、またその父なる至高の見えざる神である。バルベロを、その父なる至高の神として把握すると「母方の祖父」となり、至高神の女性的位相と把握すると、「母なる父」つまり「母父」となるのではないだろうか。英語でも、これは Mother-Father と訳されている(0514)。 →バルベロ。
  『メルキセデク』 [E] "Melchizedek"  ナグ・ハマディ文書。「NH-IX-1」(40),C)キリスト教的グノーシス文書。
  モノゲネース [G] monogenes  「独り子」の意味。『新約聖書・ヨハネ福音書』冒頭に、キリストの称号として出てくる。グノーシス主義においては、ヌースの別名。プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーン。モノゲネースはキリスト教の用語でもあり、この場合、ラテン語に訳して、ウニゲントゥス unigentus と呼ばれる →ヌース, →父, →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表


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[Y]

  ヤー [H] Jah  ヤハウェの別名乃至称号の一つ。ヤルダバオートの別名でもある。 →「用語集,ヤルダバオート
  ヤーウェ [H] Jahaweh  ヤハウェの別表現。 →ヤハウェ。
  ヤーヴェ [D] Jahve  ヤハウェのドイツ語読み。 →ヤハウェ。
  ヤオー [C] Jaoo  『ヨハネのアポクリュフォン』(ベルリン写本)に現れる権力アルコーンの名。ヘブドマスの第四者。 →ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス
  ヤオート [C] Jaooth  『ヨハネのアポクリュフォン』(ベルリン写本)に現れる権力アルコーンの名。ヘブドマスの第一者。 →ヘプドマス, →「用語集,アルコンテス
  『ヤコブのアポクリュフォン』 [E] An Apocryphal Letter of James  ナグ・ハマディ文書。「NH-I-2」(02)(原題なし),C)キリスト教的グノーシス文書。
  『ヤコブの黙示録(一)』 [E] The (first) "Revelation (Apocalypse) of James"  ナグ・ハマディ文書。「NH-V-3」(22),C)キリスト教的グノーシス文書。
  『ヤコブの黙示録(二)』 [E] The (second) "Revelation (Apocalypse) of James"  ナグ・ハマディ文書。「NH-V-4」(23),C)キリスト教的グノーシス文書。
  ヤハウェ [H] JaHaWeH  ユダヤ教の至高神。世界の創造神。ヤーウェ、イェホヴァ、エホバとも云う。キリスト教的グノーシス主義では、ユダヤ教神学を援用して、ヤハウェを、彼らの「反宇宙的二元論」における一方の極である、「偽の神」「造物主=デーミウルゴス」と同一視する。デーミウルゴスの固有名として、「ヤルダバオート」と云う名が使用されるが、ヤハウェはヤルダバオートの別名となる。 →「用語集,ヤハウェ
  ヤルダバオート [H] Jaldabaoth  第一のアルコーン、デーミウルゴスの固有名。ユダヤ教の神ヤハウェと比定される。その名は、古来から、ヘブライ語で「混沌の子」から派生したと考えられていたが、近年、シリア語での「若者よ、渡り来たれ」から来たと云う説が出された。別名サクラス、サクラ。 →「用語集,ヤルダバオート
  ヤルダバオト [H] Jaldabaoth  ヤルダバオートのこと。 →ヤルダバオート
  ユング, C. G. [D] Carl Gustav Jung  カール・グスタフ・ユング(1875年7月26日 - 1961年6月6日)。スイスの精神医学者。分析心理学の創始者・提唱者。二十世紀初頭における深層心理学研究運動における中心人物の一人。オイゲン・ブロイラーの連合心理学を学び、その後、深層心理学について考察し、ウィーンのジークムント・フロイトの元を尋ね、フロイトより精神分析学について学び、精神分析学に多大な貢献を行うが、深層心理の動力学的解釈をめぐり、フロイトより袂別。大著『Psychologische Typen, 1921』(邦訳『心理学的類型』)を著し、分析心理学の理論を明らかにする。錬金術、死後存在、グノーシス主義なども研究する。錬金術の過程は、物質の変成ではなく、深層心理における「自己実現過程」の象徴的表現であり、技術であると提唱。また、「共時性(シンクロニシティ)」の概念を提唱。(150608)。
  『ユング写本』 [E] Codex Jung  1946年にエジプト人農夫によって発見された『ナグ・ハマディ写本』は、発見者が当時、複雑な立場にあったことと、古物商等を通じてばらばらに売却されて行った為、正確な発見場所や発見の経緯が明らかになるのに、二十年の歳月が要した。世に明らかになった第二の写本(後に、分類され「第一写本」とされる)は、ベルギー人の古物商を通じ、ニューヨークのボーリンゲン財団が購入しようと試みたがうまく行かず、その後、オランダの教会史学者ギレス・クイスペルの仲介等で、当時、著名であったユングの名で購入資金を調達することによって、テューリッヒのC・G・ユング協会が入手し、ユングの誕生日の贈り物として、1952年に渡された。このような経緯の故に、第一コーデクスは『ユング写本』と呼ばれていた(030508)(0518)。
  イェホヴァ [H] JeHoVaH  ヤハウェの別名。ヤハウェは、ユダヤ教では、神聖この上ない存在である為、「YHWH(ヨッド・ヘー・ワウ・ヘー)」の子音四文字(テトラグラマトン=神聖四文字)で表現されるこの神の名を、ユダヤ教徒たちは具体的に発音することを避けたため、何時しかこの至高神の正確な発音は忘却されてしまった。『ユダヤ聖典』を音読する時、ユダヤ教徒は、この神聖四文字を、ヘブライ語の「主」に当たる、「アドーナイ Adonai」の発音で読んだ。「イェホヴァ」と云う名称は、「YHWH」の子音に、この「主=アドーナイ」の母音を付加して造られた。単純に考 えると、「YaHoWaiH」即ち、ヤホウァイまたはヤホヴァイとなるが、ヘブライ語の音韻規則では、「YeHoWaH」となる。 →ヤハウェ。
  ヨッド・ヘー・ワウ・ヘー [H] Yod He Vau He (YHWH)  ユダヤ教における、テトラグラマトン(神聖四文字)。ラテン文字で記すと、「YHWH」となる。『ユダヤ聖典』即ちキリスト教『旧約聖書』は、本来の写本テクストでは、子音表記であり、母音を表現しない。また、文章全体に渡って、単語の切れ目やセンテンスの切れ目がない。『ユダヤ聖典』は、どこに切れ目があるのか分からない、ヘブライ文字子音記号の連鎖であった。従って、これをどのように文章に分けるのか、個々の単語をどのように切り分けるのか、聖典朗読者による伝統的な解釈が存在した。「YHWH」の子音連続は、非常に多数が存在し、この殆どを、神の名を示す「神聖四文字」と解釈したが、原典を、伝統的解読から離れて読解すると、多くの「YHWH」の子音連続は、神の名を示す神聖四文字ではなく、存在動詞の屈折形であると解釈され得る。(ユダヤ教の唯一絶対神ヤハウェの名は、「在る、存在する」という動詞から派生したか、それと密接な関係があることが、今日では定説となっている。ヘブライ語古写本では、存在動詞の変化形か「神の固有名」か、判断が困難な「四文字」が多数存在していると考えられる)(150424)。
  ヨナス,H [D] Hans Jonas  ハンス・ヨナス(1903年5月10日−1993年2月5日)。実存主義哲学者、グノーシス主義研究者。新約聖書学者ルドルフ・ブルトマンとハイデッガーの元で学ぶ。技術社会における人間の倫理性について考察する。ハンナ・アーレントの友人。著書に、『The Gnostic Religion, 1958, 1963』(邦訳『グノーシスの宗教』人文書院1986年)、『Gnosis und spaetantiker Geist, Teil I. 1934, 1964, Teil II.1993, Goettingen』、『Gnosticism and Modern Nihilism』、『Das Prinzip Verantwortung, 1979』(邦訳『責任という原理』東信堂2000年)等がある。add(150424)。
  『ヨハネのアポクリュフォン』 [G] Apokryphon kata Ioannes  『ナグ・ハマディ写本』中のグノーシス主義文書。同写本群には、三種類の異本があった。また、それとは別に、もう一つの異本(『ベルリン写本』と略称)が知られている。長文ヴァージョンと短文ヴァージョンに分かれ、「NH-II-1」と「NH-IV-1」は長文、「ベルリン写本」と「NH-III-1」は短文ヴァージョンである。 →「用語集,ナグ・ハマディ写本
  『ヨハネのアポクリュフォン』 [E] The "Secret Book (apocryphon) of John"  ナグ・ハマディ文書。「NH-II-1」(06),B)キリスト教化過程グノーシス文書。長文ヴァージョン。
  『ヨハネのアポクリュフォン』 [E] The "Secret Book (apocryphon) of John"  ナグ・ハマディ文書。「NH-III-1」(13),B)キリスト教化過程グノーシス文書。短文ヴァージョン。
  『ヨハネのアポクリュフォン』 [E] The "Secret Book (apocryphon) of John"  ナグ・ハマディ文書。「NH-IV-1」(18),B)キリスト教化過程グノーシス文書。長文ヴァージョン。


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[R]

  リリト(リリス) [H] Lilith  悪の天使サマエル(サーターン)の花嫁であり、女性の悪魔とされる。また、ヘーヴァ以前のアダムの最初の妻であった。カッバラーでは、彼女は裸身の女で、両脚の代わりに、蛇の尾が付いている姿で表象されている。グノーシス主義には、直接的には引用されていない。 →サマエル。
  ルアハ(ルアク) [H] ruach  ヘブライ語の「霊」。→霊。
   [G] pneuma  人間を超える神格や、超自然的な精神、生命存在等。プネウマはギリシア語での名称。ラテン語では、spiritus, ドイツ語では、Geist(ガイスト)と云う。グノーシス主義では、人間は、永遠世界の至高霊と同質な「霊・光の霊」をその存在の裡に持つとされる。これが、人間の救済の原理となる。人間は、グノーシス主義では、「霊」と、「心魂(プシュケー)」、「肉(サルクス)」より構成されるとする。後二者は、デーミウルゴスや、アルコーンたちが創造したとする。 →「用語集,霊
  霊的人間 [G] pneumatikos  プネウマテコス。ウァレンティノス派の教えにおける、三種類の人間の一つ。「霊の人」。プレーローマへの救済が、生まれながらに定まっている者。パウロスはその書翰(『コリント前書』14章)において、「霊の人」と「土の人」を分け、「霊の人」は死後、天に還ると述べたが、それと相同な運命による振り分けが存在する。 →救済。 →運命。
  霊の破片 [L] scintilla  霊の火花、光の破片とも云う。人間の肉体や心魂をデーミウルゴスが創造した時、ひそかに人間の魂に紛れ込んだ、「永遠の霊」と本質を同じくする霊(pneuma)の分与。(なお、scintilla(スキンティッラ,火花)は、中世の神秘主義神学者マイスター・エックハルトの用語で、人間の魂の奥に伏在する神の霊の火花を指す)。 →「用語集,霊
  歴史的イエズス [E] Historical Iesus  『新約聖書・福音書』がその教えや言動を語り、キリスト教が、救済の教えをもたらした神の御子、神と同一の本質を持つ「神キリスト」の肉的(人間的)顕在として考えるイエズスと云う人物については、その実在を示す「史料」が、『新約聖書』における「信仰告白」的記述以外、一切存在していない。実在の史料については、紀元2世紀のユダヤの歴史家ヨセフスの歴史書の短い言及、ケルスス(Celsus)と云う名のギリシア人哲学者の湮滅した文書に、ナザレのマリアと、ローマ軍兵士アブデス・パンテラ(Abdes Panthera)が交わり、生まれた子供がイエズスであったという言及、この二点しかない。しかし前者は後世の挿入であり、後者は、ドイツで実際にアブデス・パンテラ(Tiberius Iulius Abdes Pantera)の墓が見つかり、墓碑に記された内容より、ケルススの主張の裏付けが存在するとも思えたが、確証がない(註記:ケルススの本には、Panthera と書かれていたが、墓碑は、Pantera である)。まして、イエズスがどういう思想の持ち主であったのか、何を教え、伝えたのか、こういったことについては、まったく史料が存在しない。新約聖書学では、「信仰のイエズス」の対概念として「史的イエズス」の研究が行われたが、史的イエズスの研究結果では、イエズスについては、実在そのものが確認できないことになった。また「史的イエズス」は、あくまで「信仰のイエズス」の対概念であり、歴史的イエズスの研究とは異なっている。しかし、間接的には、思想や教え、生涯については、ほぼ一切が不明であるが、イエズスの存在は疑いがないとも言える。ペトロス、パウロスなどを筆頭として、歴史的に存在が確認できるイエズスの自称弟子たちや、多数のキリスト教信徒が、自己の命を賭けて、「キリストの信仰」を護ろうとしたことは史実であり、弟子や信徒たちが残酷極まりない迫害や殉教を敢えて選んだのは、「確かなリアリティを持つ何者」かが存在し、「残酷な迫害や死を受け入れること」で、「自己の教えを証言した」と考える以外にないからである。初期の弟子や信徒たちの殉教を合理的に説明するためには、この「何者」かの存在を前提とする以外に答えがない。この「何者か」が、歴史的イエズスに該当する。(150509) →イエズス →クリストス
  両性具有 [G] androgynos  ギリシア神話に出てくる形象であり、古代ギリシア・ローマでの人間の理想像。日本語では、古来より「男女」または「二成」とも呼ばれた。男性性と女性性の両在。グノーシス主義では、高次アイオーンは、男女アイオーンの対で、両性具有を構成しているとされる。造物主ヤルダバオートや、その従属アルコーンも両性具有であったとされる。人間の心魂は、霊との聖なる結合による「両性具有」の実現で、救済されるとも主張される。ギリシア語で、アンドロギュノス(androgynos)と呼ばれるが、これは「男・夫」を意味するアネールと、「女・妻」を意味するギュネーの合成語である。これに類似した言葉で、ヘルマプロディトス(hermaphroditos)という言葉があり、これはギリシア神話の男神ヘルメス(Hermes)と女神アプロディーテー(Aphrodite)との合成語である。corr(150509) →futanari →二成 →「用語集,両性具有
  ロゴス [G] logos  「言葉・理性」等多様な意味を持つ。ギリシア哲学における根本概念である。キリスト教では、『新約聖書・ヨハネ福音書』において、神の傍らに原初、ロゴスがいたとされ、ロゴスは神であって、至高の神のもとより地上に遣わされて、万物を創造したとされる。彼は、光、命とも称され、「独り子(モノゲネース)」とも呼ばれる。すなわち、これが、キリストであるとするのが、『ヨハネ福音書』である。グノーシス主義では、プトレマイオス派グノーシス主義のオグドアス・プレーローマを構成する至高アイオーンで、第五アイオーン。ゾーエー(生命・命)の伴侶。 →「用語集,オグドアス」, →「オグドアス・プレーローマ構成表


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  惑星 [G] planetoi  惑星・遊星。古代宇宙論では、太陽・月も含め、「七惑星」が考えられた。これらは、地球の球体を中心として、円軌道を組み合わせた複雑な軌道で運動しているとされた。惑星は、グノーシス主義では、アルコーン(支配者)の場で、惑星そのものがアルコーンとも見做された。惑星を支配するアルコーンとして、七体の低次アイオーンが考えられた。 →星辰。 →ヘプドマス。 →「用語集,アルコンテス
  『我らの大いなる力の概念』 [E] "The Thoughts (noeema) of our Great Power"  ナグ・ハマディ文書。「NH-VI-4」(28),B)キリスト教化過程グノーシス文書。
  ウァレンティノス [L] Valentinos  Vの項目の「ウァレンティノス」を参照。 →ウァレンティノス


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  フォーステール [G] Phoster  ポーステールの別読み。 光り輝く者の意味。 →ポーステール。
  futanari [E]  日本語の「ふたなり(二成・双成)」より、英語を中心として、グローバルなサブカルチュア世界で使用される用語。漫画的絵画で、1)女性の身体に男性の性器(男根)を付けた形態のものと、2)乳房と女性的身体に、男性器と睾丸を持った形態。3)そして、男根・睾丸に加え、膣・子宮(大陰唇乃至小陰唇)を備え、乳房を持った形態の三種類が代表的である。第二の形態の「フタナリ」は、shemale-style futanari とも呼ばれている。第一の形態は、女性同性愛のサブカルチュア的形態である「百合,Yuri」において、少女または女性の身体に男性器のみを付加することで成立したと想定される。第二の形態は、性自己同一性に関係して、「女性でも男性でもない形象」または「女性であって男性である形象」というジェンダー像を身体で具現した場合、シーメール(shemale)形態が生まれる(日本では、ニューハーフ new-half と呼ばれる)。第三は、両性具有の理念的形態に近いもので、観念的ファンタシーあるいは、理想的要請として構成されたものと言える(150509)。→両性具有 →男女
  二成(双成) [J] futanari  日本語で、古代より、男女中間あるいは両性的な子供の出産が知られており、女性的身体に乳房を持ち、更に、男性器を持った形態(半陰陽)を、二成(ふたなり)とも呼んでいた。生物学的な「二成」は、必ず不完全であり、両性具有は存在しない。しかし神話的表象として、あるいは理念的形象として、「完全な二成」の概念・像が想定されていた。「陰陽の識別された両在」が両性具有理念であり、また古代ギリシアなどのアンドロギュノス概念が理念的な理想像・完全な人間像として構想された。性風俗の観点では、少年愛・男色や少女愛・女性同性愛の性嗜好に加えて、特殊化された嗜好として、「ハーマフロダイト性嗜好」が存在すると想定される。単に、女装した少年や青年ではなく、また男装した少女や女性ではなく、乳房と男根を持ち、女性的身体を持った、生物学的半陰陽の人を性対象とする嗜好として現象する。文学的・芸術的には、ほぼすべての「二成・半陰陽・両性具有」の形態が取り上げられている。バルザックの『サラディーヌ』には、カストラートとして去勢された美少年が、後天的半陰陽として登場し、また『セラフィタ』においては、理念的な「完全な両性具有人物」が描写されている。古代ローマにおいては、先天的半陰陽の若者・子供が、疑似両性具有者として、性嗜好対象として、娼館に置かれ、また売買春目的で扱われた記録があり、文学や歴史にもその記録がある(『サテュリコン』には、男色・少年愛が描かれているが、半陰陽の娼童への言及もある)。(150509)。→futanari →両性具有


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  ウァレンティノス [L] Valentinos  (100年頃−160年頃)。別名ウァレンティヌス(Valentinus)、ウァレンティニウス(Valentinius)。ヘレニク・グノーシス主義の著名な教師で、ウァレンティノス派の創始者。彼の教えは、広範な支持者を得て、ヘレニク・グンーシスのあらゆる分派に拡散し浸透した。彼自身の教えがどのようなものであったのかは、正確には分からない。弟子達の教えから、彼の本来の教えが推定される。彼を師とするウァレンティノス派は、東方分枝、西方分枝、イタリア分枝に、発展的に分派した。東方派では、シリアのバルダイサンが著名であり、他方、西方派では、プトレマイオスとヘーラクレオンが代表的な教師であった。また、小アジアとガリアの両方の地域にわたって大きな影響を持ったマルコスも弟子である。ウァレンティノスは、エジプトのナイル・デルタ領域に誕生し、アレクサンドリアで、バシレイデースと、ユダヤ人神学者ピロン(フィロン)の元、哲学と神学を学んだと伝わっている。その優れた学識と雄弁故に、ローマに移った後、司教候補となったが、別人が司教座を襲った為、彼は、ローマで、初期キリスト教の教義から離脱し(*)、グノーシスの教えを説き始めた。キュプロスに移り、その地で、教団は拡大し、多数の信奉者、弟子を得た。彼はキュプロスで世を去った。人間は、霊的人間(彼の信奉者)と心魂的人間(キリスト教徒)と物質的人間(非キリスト教徒とユダヤ教徒)に分かれ、霊的人間のみが、グノーシスによって神的世界への救済に与れるとした。『ナグ・ハマディ写本文庫』中に発見された『真理の福音』は、エイレナイオスの述べる著作に相当し、これはテルトゥリアヌスが、『ウァレンティノスの福音』と呼んでいるものと同じものだと考えられる。『真理の福音』が、ほぼ完全な形で現在にまで残ったウァレンティノスの著作である。(150515)
  (* 註)最初の文章では、「彼は、ローマで信仰を失い」と記したが、これはキリスト教の立場からの表現で、グノーシスの教えが真理だと確信したのであるから、「(妄想)キリスト教教義から離脱した」あるいは、「キリスト教を棄てた]と云うのが正確な表現である。グノーシス主義については、原典の発見で、オリジナルの思想や教えが、ある程度明らかになったが、ウァレンティノスにしても、マルコスにしても、グノーシス側からの彼らの伝記や伝承は残っていない。初期キリスト教の異端反駁論者やキリスト教関係の哲学者、神学者などの書籍に記されているものが、生涯や人物の資料となる。一般に、キリスト教の視点で書かれているため、「信仰を失った」と云うような表現になる。(150517)
  「ウァレンティノス派」 [L] Valentinos  中期グノーシス主義初期最大のグノーシス主義教派。ウァレンティノスの教説に従う派。具体的にはよく分からず、異端論駁者たちの著書からは、その弟子に当たる、プトレマイオス派やマルコス派の教義等が詳しく知られている。
  『ウァレンティノス派の解明』 [E] (An anonymous Document of Valentinian origin)  ナグ・ハマディ文書。「NH-XI-2」(45)(原題なし),C)キリスト教的グノーシス文書。
  ヴェルト [D] Welt  ドイツ語で「宇宙・この世」のこと。或いは、「世界・俗世」のこと。 →宇宙, →「用語集,宇宙



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