追想の山々1460

≪尾瀬をめぐる山行≫

1988.07.10 熊沢田代から燧ケ岳へ
1988.07.31 至仏山から尾瀬ケ原へ
1993.05.01 山スキー 尾瀬ケ原から景鶴山へ
1995.05.03 残雪期の尾瀬ケ原と景鶴山へ
199509.23 熊沢田代→燧ケ岳→三条の滝→燧裏林道
1996.05.11 残雪期の尾瀬沼へ
1996.06.27 菖蒲平から尾瀬ケ原へ


  

燧ケ岳(2360m)から 燧裏林道へ 頂日1995.0923 単独
御池(5.25)−−−広沢田代(6.05)−−−熊沢田代(6.45-6.55)−−−爼ー(7.45-8.05)−−−芝安ー(8.05-8.30)−−−温泉小屋(10.10-10.15)−−−三条の滝(10.45-11.05)−−−兎田代(11.25)−−−休憩15分−−−渋沢(12.15)−−−天神田代(12.25)−−−上田代(13.00-13.10)−−−御池(13.25)
行程 8時間00分 福島 爼ー 二等三角点
渋沢 三等三角点
横田代傾斜湿原
山に秋風が吹くころは、山恋しさもまた増す。初秋の一日尾瀬へ出かけた。

以前悪天のために爼ーしか踏むことができず、柴安ーは未踏のまま残ってしまった。その柴安ーと、もう一ついつか歩いて見たかった燧裏林道が目的だった。
深夜2時に東京を出発、御池到着は4時15分。明るくなるまで車内で待機。

5時過ぎ、明るくなって来たのをみて燧ケ岳へ向かった。7年振りに歩くコースだ。広沢田代へのきつい登りがつづく。さほど負担感もなく、あっけないほど簡単に広沢田代の湿原に登り着いた。草もみじの湿原は秋色に装い、池塘越しには会津駒が弧を描くようにして横たわるのが見える。               木道で湿原を横断し、いったん樹林へ入る。再びあらわれた湿原は熊沢田代。湿原入口から見下ろす風景は、絵ハガキなどでおなじみのもの。木道が途中で『く』の字に曲がっているのが特徴だ。
湿原の狐色はよく見るとただの枯れ草色ではない。イワショウブなどの茎の根元は枯れ色ではなくて、赤く染まっている。こ れが草紅葉であるのをはじめて確認、大発見でもしたような気分になる。
平ケ岳、越後駒、荒沢岳などの会越国境の名峰が、湿原を前景にして連なる。燧ケ岳も目の前にこんもりとした姿を見せている。『尾瀬で一番美しい道』と言われる熊沢田代である。

再び樹林へ入り山頂まで約1時間、沢をまたぎ、山腹をトラバースするように高度を上げて、岩場となると爼ー山頂だった。曇り空ながら展望は十分。目の前のコルを挟んで柴安ー、眼下には尾瀬沼の全貌。日光連山から那須連峰、帝釈山塊、会津駒、巻機山、谷川連峰など360度の眺望が楽しめた。

爼ーでスケッチをしたりしてから一投足で柴安ーのピークに立つ。尾瀬ケ原が一望のもと、その先には至仏山が聳え、さらに笠ケ岳や武尊山を望むことができた。ここでも急いでスケッチをしてから温泉小屋へ向けて、転げ落ちるような急な道を下る。特に下り口はがらがらの急下降となっている。ナナカマドなどの潅木林から、ダケカンバの樹林へと入って行くころ、パラパラと雨が落ちて来た。
傾斜が緩んで沢状の道となってからが結構長い。温泉小屋に着くと、そこは尾瀬散策のメインコース、三条の滝見物で行き交う人の列だった。尾瀬銀座とでも形容したいほどだ。案じた雨も止んでいる。

三条の滝へ向かう道は、小さく上下しながら高度を下げて行く。燧裏林道の道を分け、平滑の滝を過ぎると散策者の数は急に減って来た。三条の滝までは、散策者にとってけっこうな道のりのようだ。
山を揺るがすような轟音が響いて来る。間もなく三条の滝である。さすが名瀑、一気に落下する豊富な水量は、迫力満点である。

ひと休みしてからスタート地点の御地へ戻ることにした。
燧裏林道へは予想外の急登をひと登りしなければならなかった。急登を終わってひと息つくと、兎田代の湿原となる。渋沢温泉への道を分けたところで燧裏林道の木道へと合流 した。
木道はこの後延々と御池までつながっている。この工事にどれほどの経費がかったことだうろ。夢のない話だが思わずそんな計算をしたくなる。
御池までほとんど平坦と思った燧裏林道は、三条の滝から最高点の上田代まで、登りの標高差が約400メートルもあった。裏林道はブナ林が美しいコースでもある。ブナ林の美しさだけでもこのコースを歩く値打ちがある。三条の滝と違って人の姿もずっと少ない。

渋沢の橋を渡ってすぐ先の天神田代は、渋沢温泉への分岐である。田代と言っても湿原の雰囲気はなく、ただの潅木帯という感じだ。
間もなく西田代、横田代、上田代と次々に傾斜湿原があらわれる。湿原にはイワショウブやキンコウカが一面の草紅葉と化し、周辺部にはヤマウルシやドウダンが深紅に燃えている。その中を貰く一本の木道。 チングルマの実が風に乗って飛ぶ日を待っている。コントラスト豊かな秋の湿原である。
湿原の背後には平ケ岳から越後三山や荒沢岳というおなじみの山が風景を引きしめ、変化に富んだコースをいっそう楽しくさせる。裏林道に来てよかったと思う。

裏林道コースにすっかり満足して御池まで戻った。
登り下りを繰り返し、累計では千数百メートルの登りとなったかもしれない。収穫の多い山行であった。